「ほっとけなかったんだよ。」
わたしが勝手に自分の中で思い出に浸っていると、冴くんが言った。
「隣の小さい子がいつも一人で留守番してるのは、何となく知ってた。でもさ、月麦が雨の日に鍵忘れて玄関前で寂しそうに座り込んでるの見た時、、、声を掛けられずにはいられなかった。俺も小さい頃から留守番ばっかりで、その寂しさを知ってたから。」
冴くんはそう言うと、その時を思い出しているかのように宙を見上げ、「月麦、いつも俺がゲームしてるの隣で見てたり、ピアノの練習してる時に歌ったり、俺が作る飯を喜んで食ったり、、、懐かしいな。」と言って笑っていた。
冴くんも覚えてくれてたんだ。
何だか嬉しかった。
わたしと同じことを思い出して、「懐かしいな。」って笑ってくれて。
"ほっとけなかったんだよ"
そんなこと言われたら、、、
もっと、、、好きになっちゃうじゃない、、、
「でもさー、冴くんが高校生になってからは、なかなか会えなくなっちゃって、寂しかったなぁ〜!」
わたしは自分の気持ちを誤魔化す為にそう言った。
「まぁ、高校上がってからバイト始めたからな。」
「高校生になってから、冴くんは彼女できちゃったし、それからあまり会うことがなくなって、、、でも、まさかまた就職先で再会出来るなんてね!あの時はビックリしたよ!」
わたしがそう言うと、冴くんは「そうだな。」と微笑んだ。
冴くんの中では、わたしはきっと妹みたいな存在なんだろうなぁ。
それでも、こうして今、一緒に居られることが嬉しい。
何も特別なことは望まない。
ただ、、、たまにこうして、あの時みたいに"冴くん"と"月麦"と呼び合える時間が、今のわたしにはそれが特別なんだ。



