春よ、瞬け。


「やっぱり冴くんのご飯は最高!わたし、冴くんのご飯で育ったみたいなとこあるからね。」
「ははっ。月麦がいつも"お腹空いた〜"って言うから、ほっとくわけにいかないだろ。」
「その節は大変お世話になりました。」
「まぁ、今もこうして世話してるけどな。」

冴くんはそう意地悪を言って、フッと笑った。

「でも、あの頃は本当に冴くんに助けられてたよ。冴くんが居なかったら、両親が帰って来るまで一人ぼっちで、寂しさの中でお腹空かせて待ってるしかなかったからね。」

わたしはそう言うと、初めて冴くんと出会った時の事を思い出した。

当時、小2だったわたしはある日、いつも持ち歩いている家の鍵を忘れてしまい、しかも最悪な事に雨が降っていて、自宅の玄関前で座り込んでいた。

すると、偶然通り掛かった冴くんに「何してんの?風邪引くぞ。」と声を掛けられ、家の鍵を忘れた事を話すと「うちで待ってる?」と言ってくれたのが、初めての冴くんとの会話だった。

冴くんの家庭はお父さんが単身赴任で普段は不在で、お母さんは看護士で帰りが不規則だった。

その日から「親が帰って来るまで、うちで待ってろよ。」と言ってくれた冴くんのお言葉に甘え、わたしは冴くんの家で両親の帰りを待つようになったのだ。

当時、冴くんがハマっていたゲーム"ファイナルファ◯タジーVII"をプレイしているのを横で見ていたり、冴くんが弾くピアノを聴いていたり、お腹を空かせたわたしに冴くんがご飯を作ってくれたり、、、

わたしは本当に冴くんの優しさに助けられて、育ってきたのだ。