3月下旬。
パートナーに某スタジオを借りてもらい、某vtuberのコスプレ写真とショート動画を撮影する。
ちょっとレトロな雰囲気の本棚の前で、私は水色のウィッグをかぶり、それを三つ編みにし、グレーのワンピースを着て、白いニーハイソックス、黒い革靴を履いている。
「ん、可愛い」
メイクはパートナーがしてくれた。顔を間近で見られるとドキドキするのに、同時に安心するの何でかな。
照明をオレンジ色にし、光度を絞り、手元の木製の小机の上にあるランプを点ける。
パートナーは三脚にデジタルカメラを据えつけ、「リラックスして」と柔らかく微笑む。
「テスト」

小顔マッサージや表情作りの練習を毎日している。人気vtuberに見えるかな。
「ちょっと頬のお粉白すぎた」
パートナーがさっとやってきて、私のメイクを直す。vtuberの写真や動画をノートパソコンで確認しながら。
「もう1回テスト」
私はもう1度笑顔を作る。今回演じるvtuberは、歌が上手くて、ハキハキしていて、とても格好良いのに可愛い。もともと、パートナーがこのvtuberのファンだった。
「本番行くよー!!」
(ファンの方々に喜んでもらえますように。
ご本人様にリスペクトが届きますように)

「固いな」
しばらくカメラをのぞいていたパートナーが、こちらへやってくる。
「久しぶりだしね。ちょっと肩と腕ほぐそう」
パートナーが優しくそう言って、私といっしょにゆっくりとストレッチをしてくれる。衣装やメイクに影響がない程度の軽いものだ。
そして、このvtuberの大ヒット曲を軽く口ずさみながら、パートナーがゆっくりと踊りはじめる。つぼみがゆっくりと開き、それが羽となり、パートナーの肩や腕、手、指、腰、背中、脚、足を自由にする。私のためにだけ踊るので、スーパースキルなどは混ぜこんでいない。が、
(とてつもない存在感)
スポットライトが当たっているみたい。きみはどこでも舞台にしてしまうし、どこでも主役になってしまうんだね。

私がぽうっと、パートナーがゆっくり3回転するその緻密な美しさに見とれていたら、
「踊ろう」
と、きみが手を差し出してきた。
ふっくらと肉の厚い白い手。長い指。細くはないが綺麗な指。整えられたピンクの爪。ダンサーなので、髪や眉毛、まつ毛以外の全身の毛を剃っている。肌を美しく見せるため。
コスプレのために日々身体を鍛え、ヨガやストレッチを毎日欠かさずして柔軟性をキープしている私だが、
きみと踊るとぎこちない。でも、楽しいね。