放課後になると意味もなく教室に残って本を読んだりして時間を潰すようになった。
目的はもちろん常盤君の姿を一目でも見たいからだ。
生徒会は毎週、月・水・金の放課後に集まっている。
四時になると解散し、それぞれの部活に行ったり、生徒会室に残って仕事をしたりするんだ。
……これは私が独自で調べたことなんだけどね。
今日は木曜日。生徒会活動の日じゃないけど、今日も私は教室に残っている。
常盤君が生徒会室に入っていくのが見えたから。
きっと今日も常盤君は生徒会の仕事を頑張っている。
普段は閉じている生徒会室のドアも常盤君がいる時はたまに空いていることがある。
その狭い狭い隙間から、生徒会室の常盤君を覗いてみる。
険しく、真剣な顔でパソコンと向き合う常盤君。
人知れずに頑張る姿がすごくかっこいい。
生徒会の一員として、学校のために頑張っているんだよね。
そういうところはすごく尊敬しちゃう。
今日も一目だけ常盤君を見て帰ろう。
そう思って、読んでいた本を閉じて鞄の中にしまう。
最近は悪女の勉強をするために、歴史の本を読んでいるんだよね。
教室を出ると、生徒会室のドアがいつもよりも開いていた。
今日も真剣な表情でパソコンとにらめっこしている。
それにしても今日の常盤君、いつもよりも表情が少し怖い。
怖いというか、苦しそう?
常盤君、大丈夫かな。
心配と緊張でドキドキが加速する。
するとピクッと常盤君が何かに気付いたかのように顔を上げた。
ドアの先にいる私と目が合う。急な出来事にドキドキしちゃうよ。
「あれ、平井さんじゃん」
後ろから名前を呼ばれて思わずビクっとした。
「常盤君……じゃないほうの人」
「じゃないほうって言うなよ。俺の名前は塩田潤《しおたじゅん》だ」
塩田君がやれやれって感じで私を見る。
「生徒会室に何か用があったのか?」
まさか、常盤君のことを見ていたなんて言えないし。
まずい。何か理由が作らないと。
「あの、常盤君。教室で今日体調悪そうだったから。生徒会室に入っていくのが見えて心配になって」
「なんだ、そういうことか」
塩田君が私の前を通り過ぎて生徒会室に入る。
「平井さんに聞いたぞ。将貴、今日のことがそんなに嫌だったのか?」
「そんなことねーよ。クラスでは頑張ってニコニコ笑顔しているんだぞ」
常盤君、あの引きつった笑顔はニコニコとは言わないよ……。
「平井に人望を得るには、笑顔を見せた方がいいって言われたからな」
私の言葉、常盤君に届いてたんだ。
それを常盤君本人から直接言われると、照れちゃんですけど。
「ねえ、常盤君、何か調子が悪いの? 大丈夫?」
「調子が悪いっていうかさ……」
常盤君に聞いたのに、塩田君が答えてくる。
「平井さんもそんなところにいないで、こっちにおいでよ」
塩田君が生徒会室に入るよう手招きする。
生徒会室に入るのは抵抗あるんですけど……。
「私みたいな一般人が生徒会室に入っていいの?」
しかも私、特別枠だし。他のみんなと違って私はセレブでも何でもない。
「いいからいいから」
塩田君が笑いながらそう言い、常盤君は黙ってうなずいている。
常盤君が許してくれるなら、入っちゃおうかな。
もちろん生徒会室に入るのは初めてだ。
自分が入るなんて考えたこともなかったよ。
生徒会って選ばれた人たちが集まる場所ってイメージがあるもんね。
「うわー、結構広いんだね」
さすがは新設の私立中学校。
生徒会室の中は思ったよりも広く、ピカピカのパソコンが何台も置いてある。
廊下から見るのと、実際に入ってみるのでは印象が全然違う。
「俺たち生徒会メンバー用のロッカーまで置いてあるんだぜ」
ジャーンと塩田君が見せてくれたところにアメリカのドラマで見るようなロッカーがずらりと並んでいた。
いいなー。なんだか夢みたい。
「生徒会に入れば色々と自由が効くんだ。それにお菓子も食べれるんだぜ」
「お菓子も!?」
塩田君が案内してくれた棚の中にはお菓子がずらりと入っていた。
「お菓子がこんなにいっぱい」
「生徒会はな、お菓子が食べ放題なんだ。しかも無料だ」
「え、そうなの?」
「生徒会には生徒会費っていう自由に使えるお金があるんだ。それでお菓子を買っているわけ」
「でもそれってみんなが学校に払っているお金だよね?」
学校に通うためには毎月授業料を払わないといけない。
特別枠の生徒は免除されているが、普通枠の人たちは高額な授業料を払っている。
「そんなの気にすることないさ。セレブの人たちはお金をいっぱい持っているんだから」
そう言って塩田君が小さなチョコケーキを開けて食べた。
「おい、おしゃべりをするために生徒会室に来たのか」
「かりかりするなよ。将貴もお菓子食べたらどう? 甘いお菓子はエネルギーになるぜ」
「俺はいらない」
相変わらず険しい顔をして常盤君はパソコンと向き合っている。
「常盤君、大丈夫? 顔色悪い気がするけど」
「将貴の自業自得っちゃそうなんだよな」
頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
「会長の仕事を一人でするって引き受けすぎちゃって、月曜までの仕事が全然終わらないってわけ」
そうか。だからずっとパソコンに向き合ってるのか。
「潤もそこでしゃべってないで手伝ってくれよ」
「はいはい、わかりましたよ」
塩田君が常盤君の隣の席に座る。
あれ、でも生徒会って執行部も含めたら十人以上はいるはずだ。
「ねえ、どうして常盤君が全部仕事をしないといけないの?」
ピクッと二人の動きが一瞬、止まる。
「一色君とか、他の人に手伝ってもらえないの?」
「一色にやらせてたまるか!」
常盤君が急に大きな声を出したからびっくりしちゃった。
「あいつに生徒会の仕事などさせるか」
かなりピリついている横で塩田君がニヤニヤ笑っている。
「将貴は一色に負けたくないんだよ」
負けたくないってどういうこと?
話が全然読めないよ。
「将貴は会長にアピールしているんだよ。次の生徒会長になるためにさ」
さっきまで頭に浮かんでいたクエスチョンマークが大量のビックリマークに変わる。
常盤君、次の生徒会長を目指してたの!
恥ずかしそうに常盤君が顔をしかめた。
勝手に次の会長には一色君がなると思っていた。
私だけじゃない、学校全体の雰囲気がそんな感じだ。
それで毎日のように生徒会室に残って仕事をしているんだ。
「でも頑張り過ぎたら倒れちゃうよ」
それにしたって無理をしすぎだ。明らかに常盤君の顔色が悪い。
「私は常盤君に無理してほしくないよ」
「ここで負けるわけにはいかない。あいつらに、金持ちの奴らの言いなりになってたまるか」
常盤君の言葉にピンとくるものがあった。
「もしかして常盤君って……」
「ああ。平井と同じ特別枠だ」
ついでに俺もな、と塩田君が笑った。
「俺と将貴は小学校からの仲ってわけさ」
そうか、だから私に特別枠かどうか聞いたのか。
「私、青葉小学校だったんだよね。常盤君たちはどこなの?」
「北小だ」
北小学校のことは知っている。
私が通っていた青葉小学校とは真逆の位置にあるから、学校同士の交流はなかったけど不良が多いって噂はちょくちょく聞いていた。
天聖中学の特別枠も一番少ない学校だ。
常盤君も不良少年なのかな? 確かに外見はどちらかというと怖いけど……。
「金持ちの多いこの学校じゃ特別枠の肩身は狭い。俺たちのことをバカにする生徒だってたくさんいる」
常盤君の言う通りだ。普通枠の生徒は姫華みたいに優しい人ばかりではない。
「だから俺が生徒会長になってこの学校を変える。普通枠も特別枠も区別のない学校にしたいんだ」
常盤君の言葉にはすごく熱がこもっている。
こんなに熱い思いを持っているなんて知らなかった。
そのためにはここで諦めるわけにはいかない。そう言ってまたパソコンに向き合った。
常盤君の思い、私にはすごく伝わったよ。
でもだからこそ常盤君には無理をしてほしくない。
「それで常盤君が倒れちゃったりしたら意味がないよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
ズキっと常盤君の切実な気持ちが鋭い言葉のように私の胸に飛び込む。
こんなピンチの時、茶々さんだったらどうやって乗り切るだろう?
いい案がひらめきそうでなかなかひらめかないよ……。
「俺が一人でやるしかないんだ」
その時、ピカッとアイデアが思い浮かんだ。
「正直に話して、生徒会のみんなに手伝ってもらうのはどうかな」
「俺の話聞いていたか。一色を追い抜くために一人で仕事を終わらせようと思ったんだよ」
「だから、だよ。敵の力をうまく利用するのはどうかなって」
「……なるほど、そうきたか」
考え込むように常盤君が腕を組んでいる。
「俺には何が何だかさっぱりだぜ」
「目的のためなら敵の力も使う。平井はそう言いたいんだろ」
ニッと笑って常盤君を見る。今の私、きっと悪そうに笑ってる。
「常盤君が無理するのも、仕事が終わらないのも避けたい。だったら一色君たちにもやってもらった方がいいでしょ」
「あいつら素直にやってくれるかな?」
「やってくれるわよ」
「やるだろうな」
常盤君と声が重なる。私たちは同じことを考えている。
「こっちには生徒会の仕事っていう大義名分がある。いくら一色でも断れないはず。そうだろ、平井」
「うん、そうだよ」
さすが常盤君。飲み込みが早い。
「最悪な状況を避けるためには敵すらも味方につける。面白い。その考えを採用しよう」
よっしゃ! これで常盤君が無理をしなく済む。
茶々さんだって困った時には敵の徳川家康の力も頼ったもん。
悪女はこれくらい図太くなくちゃね。
「また平井には助けられたな。うまいこと考えるじゃないか」
「そ、そうかな」
常盤君に褒められると照れちゃうよ。
こんなにトントン拍子で思いつくのは自分でもびっくりしてるけど。
「
なかなかの悪女っぷりだな」
悪女と言われて思わずドキッとしてしまう。
これってもしかして愛の告白?
そ、それはさすがにないよね。
「平井。俺は悪女が好きだ」
え、ちょっと待って。
この流れって本当に告白じゃない?
待って待って。まだ心の準備ができてない。
それに塩田君もいるんだけど。
「平井に一つお願いがある」
「な、なあに、お願いって」
心臓がドキドキを通り越してバクバクする。
信じられない。憧れの常盤君からまさか告白されるなんて。
「生徒会に入って、俺が会長になるのをサポートしてくれないか?」
「はい、私でよければ。……え?」
今、何て言った?
「よかった。平井がいれば心強いよ」
全然、愛の告白じゃなかった!
告白だと思っていただけにショックがデカすぎる。
私が勝手に思ってただけなんだけど。
ってか、告白と勘違いして生徒会に入るの受け入れちゃったんだけど!
「これからもよろしくな、平井」
私が生徒会に入る……?
嘘でしょ、信じられない。
これから私の学校生活どうなっちゃうの?
目的はもちろん常盤君の姿を一目でも見たいからだ。
生徒会は毎週、月・水・金の放課後に集まっている。
四時になると解散し、それぞれの部活に行ったり、生徒会室に残って仕事をしたりするんだ。
……これは私が独自で調べたことなんだけどね。
今日は木曜日。生徒会活動の日じゃないけど、今日も私は教室に残っている。
常盤君が生徒会室に入っていくのが見えたから。
きっと今日も常盤君は生徒会の仕事を頑張っている。
普段は閉じている生徒会室のドアも常盤君がいる時はたまに空いていることがある。
その狭い狭い隙間から、生徒会室の常盤君を覗いてみる。
険しく、真剣な顔でパソコンと向き合う常盤君。
人知れずに頑張る姿がすごくかっこいい。
生徒会の一員として、学校のために頑張っているんだよね。
そういうところはすごく尊敬しちゃう。
今日も一目だけ常盤君を見て帰ろう。
そう思って、読んでいた本を閉じて鞄の中にしまう。
最近は悪女の勉強をするために、歴史の本を読んでいるんだよね。
教室を出ると、生徒会室のドアがいつもよりも開いていた。
今日も真剣な表情でパソコンとにらめっこしている。
それにしても今日の常盤君、いつもよりも表情が少し怖い。
怖いというか、苦しそう?
常盤君、大丈夫かな。
心配と緊張でドキドキが加速する。
するとピクッと常盤君が何かに気付いたかのように顔を上げた。
ドアの先にいる私と目が合う。急な出来事にドキドキしちゃうよ。
「あれ、平井さんじゃん」
後ろから名前を呼ばれて思わずビクっとした。
「常盤君……じゃないほうの人」
「じゃないほうって言うなよ。俺の名前は塩田潤《しおたじゅん》だ」
塩田君がやれやれって感じで私を見る。
「生徒会室に何か用があったのか?」
まさか、常盤君のことを見ていたなんて言えないし。
まずい。何か理由が作らないと。
「あの、常盤君。教室で今日体調悪そうだったから。生徒会室に入っていくのが見えて心配になって」
「なんだ、そういうことか」
塩田君が私の前を通り過ぎて生徒会室に入る。
「平井さんに聞いたぞ。将貴、今日のことがそんなに嫌だったのか?」
「そんなことねーよ。クラスでは頑張ってニコニコ笑顔しているんだぞ」
常盤君、あの引きつった笑顔はニコニコとは言わないよ……。
「平井に人望を得るには、笑顔を見せた方がいいって言われたからな」
私の言葉、常盤君に届いてたんだ。
それを常盤君本人から直接言われると、照れちゃんですけど。
「ねえ、常盤君、何か調子が悪いの? 大丈夫?」
「調子が悪いっていうかさ……」
常盤君に聞いたのに、塩田君が答えてくる。
「平井さんもそんなところにいないで、こっちにおいでよ」
塩田君が生徒会室に入るよう手招きする。
生徒会室に入るのは抵抗あるんですけど……。
「私みたいな一般人が生徒会室に入っていいの?」
しかも私、特別枠だし。他のみんなと違って私はセレブでも何でもない。
「いいからいいから」
塩田君が笑いながらそう言い、常盤君は黙ってうなずいている。
常盤君が許してくれるなら、入っちゃおうかな。
もちろん生徒会室に入るのは初めてだ。
自分が入るなんて考えたこともなかったよ。
生徒会って選ばれた人たちが集まる場所ってイメージがあるもんね。
「うわー、結構広いんだね」
さすがは新設の私立中学校。
生徒会室の中は思ったよりも広く、ピカピカのパソコンが何台も置いてある。
廊下から見るのと、実際に入ってみるのでは印象が全然違う。
「俺たち生徒会メンバー用のロッカーまで置いてあるんだぜ」
ジャーンと塩田君が見せてくれたところにアメリカのドラマで見るようなロッカーがずらりと並んでいた。
いいなー。なんだか夢みたい。
「生徒会に入れば色々と自由が効くんだ。それにお菓子も食べれるんだぜ」
「お菓子も!?」
塩田君が案内してくれた棚の中にはお菓子がずらりと入っていた。
「お菓子がこんなにいっぱい」
「生徒会はな、お菓子が食べ放題なんだ。しかも無料だ」
「え、そうなの?」
「生徒会には生徒会費っていう自由に使えるお金があるんだ。それでお菓子を買っているわけ」
「でもそれってみんなが学校に払っているお金だよね?」
学校に通うためには毎月授業料を払わないといけない。
特別枠の生徒は免除されているが、普通枠の人たちは高額な授業料を払っている。
「そんなの気にすることないさ。セレブの人たちはお金をいっぱい持っているんだから」
そう言って塩田君が小さなチョコケーキを開けて食べた。
「おい、おしゃべりをするために生徒会室に来たのか」
「かりかりするなよ。将貴もお菓子食べたらどう? 甘いお菓子はエネルギーになるぜ」
「俺はいらない」
相変わらず険しい顔をして常盤君はパソコンと向き合っている。
「常盤君、大丈夫? 顔色悪い気がするけど」
「将貴の自業自得っちゃそうなんだよな」
頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
「会長の仕事を一人でするって引き受けすぎちゃって、月曜までの仕事が全然終わらないってわけ」
そうか。だからずっとパソコンに向き合ってるのか。
「潤もそこでしゃべってないで手伝ってくれよ」
「はいはい、わかりましたよ」
塩田君が常盤君の隣の席に座る。
あれ、でも生徒会って執行部も含めたら十人以上はいるはずだ。
「ねえ、どうして常盤君が全部仕事をしないといけないの?」
ピクッと二人の動きが一瞬、止まる。
「一色君とか、他の人に手伝ってもらえないの?」
「一色にやらせてたまるか!」
常盤君が急に大きな声を出したからびっくりしちゃった。
「あいつに生徒会の仕事などさせるか」
かなりピリついている横で塩田君がニヤニヤ笑っている。
「将貴は一色に負けたくないんだよ」
負けたくないってどういうこと?
話が全然読めないよ。
「将貴は会長にアピールしているんだよ。次の生徒会長になるためにさ」
さっきまで頭に浮かんでいたクエスチョンマークが大量のビックリマークに変わる。
常盤君、次の生徒会長を目指してたの!
恥ずかしそうに常盤君が顔をしかめた。
勝手に次の会長には一色君がなると思っていた。
私だけじゃない、学校全体の雰囲気がそんな感じだ。
それで毎日のように生徒会室に残って仕事をしているんだ。
「でも頑張り過ぎたら倒れちゃうよ」
それにしたって無理をしすぎだ。明らかに常盤君の顔色が悪い。
「私は常盤君に無理してほしくないよ」
「ここで負けるわけにはいかない。あいつらに、金持ちの奴らの言いなりになってたまるか」
常盤君の言葉にピンとくるものがあった。
「もしかして常盤君って……」
「ああ。平井と同じ特別枠だ」
ついでに俺もな、と塩田君が笑った。
「俺と将貴は小学校からの仲ってわけさ」
そうか、だから私に特別枠かどうか聞いたのか。
「私、青葉小学校だったんだよね。常盤君たちはどこなの?」
「北小だ」
北小学校のことは知っている。
私が通っていた青葉小学校とは真逆の位置にあるから、学校同士の交流はなかったけど不良が多いって噂はちょくちょく聞いていた。
天聖中学の特別枠も一番少ない学校だ。
常盤君も不良少年なのかな? 確かに外見はどちらかというと怖いけど……。
「金持ちの多いこの学校じゃ特別枠の肩身は狭い。俺たちのことをバカにする生徒だってたくさんいる」
常盤君の言う通りだ。普通枠の生徒は姫華みたいに優しい人ばかりではない。
「だから俺が生徒会長になってこの学校を変える。普通枠も特別枠も区別のない学校にしたいんだ」
常盤君の言葉にはすごく熱がこもっている。
こんなに熱い思いを持っているなんて知らなかった。
そのためにはここで諦めるわけにはいかない。そう言ってまたパソコンに向き合った。
常盤君の思い、私にはすごく伝わったよ。
でもだからこそ常盤君には無理をしてほしくない。
「それで常盤君が倒れちゃったりしたら意味がないよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ?」
ズキっと常盤君の切実な気持ちが鋭い言葉のように私の胸に飛び込む。
こんなピンチの時、茶々さんだったらどうやって乗り切るだろう?
いい案がひらめきそうでなかなかひらめかないよ……。
「俺が一人でやるしかないんだ」
その時、ピカッとアイデアが思い浮かんだ。
「正直に話して、生徒会のみんなに手伝ってもらうのはどうかな」
「俺の話聞いていたか。一色を追い抜くために一人で仕事を終わらせようと思ったんだよ」
「だから、だよ。敵の力をうまく利用するのはどうかなって」
「……なるほど、そうきたか」
考え込むように常盤君が腕を組んでいる。
「俺には何が何だかさっぱりだぜ」
「目的のためなら敵の力も使う。平井はそう言いたいんだろ」
ニッと笑って常盤君を見る。今の私、きっと悪そうに笑ってる。
「常盤君が無理するのも、仕事が終わらないのも避けたい。だったら一色君たちにもやってもらった方がいいでしょ」
「あいつら素直にやってくれるかな?」
「やってくれるわよ」
「やるだろうな」
常盤君と声が重なる。私たちは同じことを考えている。
「こっちには生徒会の仕事っていう大義名分がある。いくら一色でも断れないはず。そうだろ、平井」
「うん、そうだよ」
さすが常盤君。飲み込みが早い。
「最悪な状況を避けるためには敵すらも味方につける。面白い。その考えを採用しよう」
よっしゃ! これで常盤君が無理をしなく済む。
茶々さんだって困った時には敵の徳川家康の力も頼ったもん。
悪女はこれくらい図太くなくちゃね。
「また平井には助けられたな。うまいこと考えるじゃないか」
「そ、そうかな」
常盤君に褒められると照れちゃうよ。
こんなにトントン拍子で思いつくのは自分でもびっくりしてるけど。
「
なかなかの悪女っぷりだな」
悪女と言われて思わずドキッとしてしまう。
これってもしかして愛の告白?
そ、それはさすがにないよね。
「平井。俺は悪女が好きだ」
え、ちょっと待って。
この流れって本当に告白じゃない?
待って待って。まだ心の準備ができてない。
それに塩田君もいるんだけど。
「平井に一つお願いがある」
「な、なあに、お願いって」
心臓がドキドキを通り越してバクバクする。
信じられない。憧れの常盤君からまさか告白されるなんて。
「生徒会に入って、俺が会長になるのをサポートしてくれないか?」
「はい、私でよければ。……え?」
今、何て言った?
「よかった。平井がいれば心強いよ」
全然、愛の告白じゃなかった!
告白だと思っていただけにショックがデカすぎる。
私が勝手に思ってただけなんだけど。
ってか、告白と勘違いして生徒会に入るの受け入れちゃったんだけど!
「これからもよろしくな、平井」
私が生徒会に入る……?
嘘でしょ、信じられない。
これから私の学校生活どうなっちゃうの?


