悪女、チャレンジします!

目が覚めるとぼやけた白いもやみたいなのが見えた。

それが保健室の天井って気がつくのに少し時間がかかった。

「よかった。気がついたみたいだね」

保健室の先生が私のベッドのそばの椅子で座っていた。

「私、どうしたんですか?」

「教室で倒れて運ばれてきたのよ」

すぐに教室に戻ってもさっきと同じことになるかも……。

そう思うと気分ががっくり下がっちゃうよ。

「あなたたちも何か言いたいことがあるんでしょ」

保健室の先生がそう呼びかけるとカーテンのそばから咲良と姫華が出てきた。

二人とも気まずい表情を浮かべている。

「それじゃあ私は隣の部屋にいるから。具合が悪くなったらすぐに呼んでね」

ドアがパタンと閉まり、部屋は私たち三人だけになる。

倒れる瞬間が録画した映像のように頭の中で再生される。

咲良も姫華も、私のことを悪女と呼んで睨んでいたよね。

二人のこと親友だと思っていたのに……。

「舞奈、ごめんね」

気まずい空気を咲良の声が打ち破った。

「新聞の記事ばかり信じて舞奈のこと疑っちゃった」

二人が私のこと信じてくれなかったのはすごくショックだった。

それだけ校内新聞の力が大きくなっているってことだよね。

「冷静に考えたら舞奈がそんなことするわけないってわかるよ。でもさ、あの記事を読んだ時、舞奈のことずるいなって思ったの」

「ずるい?」

「生徒会に入って舞奈は常盤君と一緒にいるわけでしょ? それなのに一色君とも話せるなんて羨ましいよ」

ぽつりぽつりと咲良が言葉を吐き出す。

「舞奈は本当は一色君のことが好きだったのに裏切られたのかと思った」

「そんなことない!」

思わず大きな声を出してしまう。

「私が好きなのは一色君じゃなくて常盤君だよ!」

咲良がハッとして私を見返す。

「舞奈もしかして?」

「うん、そうだよ」

二人には言っちゃった方がいい。そのほうが気が楽だ。

「私ね、常盤君のことが好きなんだ。本気で好きなの」

ああ、ついに言っちゃったよ……。

顔が熱くなる。

もしかして、顔が真っ赤になっているかも。

口に出して言葉にすると急に恥ずかしくなる。

「舞奈、そうだったんですね……」

姫華は全然気がついてなかったみたい。私の告白を聞いて呆然としている。

「話してくれてありがとうね」

咲良がニッと笑う。

「私、舞奈の恋、応援してる」

「でも咲良も一色君派から常盤君派にするって」

「私のは恋愛的な意味じゃないからさ。二人は学校のアイドルみたいなもんでしょ」

「私も舞奈の恋、応援しますわ」

元気よく手を上げながら姫華が言った。

「舞奈のこと特別枠だからって馬鹿にする人いましたよね。許せないですわ」

ころっとテンションを変えて今度は姫華が怒っている。

姫華みたいに普通枠でもこういう考えの人はいるんだよね。

特別枠だからって馬鹿にされていいわけじゃないし。

普通枠だからってみんなが意地悪いわけでもない。

その人のことをちゃんと見ないとわからないよね。

そういう気持ちを大事にしたい。

常盤君ならそう思ってくれるって信じていたのに。

常盤君は私のことを信じてくれていないのかな。

「でもさ、誰があんなひどい記事書いたんだろうね」

「あれは、常盤君が書いたんだよ」

さすがにこれには二人も驚いて目を丸くしてた。

「それ本当?」

「本当だよ。だって月曜に今回は俺が書くからって言われたもん」

「あれ、言っちゃう?」

「でも言ったらまずいんじゃないですか?」

咲良と姫華が目配せをしてこしょこしょ何か話している。

「ねえねえ、何話しているの?」

「いや何でもない、何でもない」

「でも常盤君がそんなひどいことを……」

二人はまだ常盤君が書いたことがピンときてないようだ。

私だってまだ常盤君が書いたって信じたくないもん。

それにしてもさっきから二人の態度が何か変だ。

まるで何かを隠しているような……。

私の気にしすぎかな。

「舞奈、私たちは舞奈の味方だから」

「困ったことがあったら何でも私たちに言ってくださいね」

咲良と姫華の言葉は嘘なんかじゃない。

私は一人じゃない。こんなに素敵な友達がいるじゃない。

「でも、一個気になることがあるんだよね?」

咲良が私の顔をじーっと見てくる。

「記事にさ、舞奈のこと悪女って書いてあったじゃん。小学校から知っているけど舞奈が悪女っぽいとこなんて見たことないよ。あれ、どういうこと?」

「ああ、それはね。常盤君が悪女がタイプって言うのを聞いて、悪女のふりを始めたんだ」

一瞬の間の後、二人が大きな声で笑い出した。

「もう笑わないでよ」

「舞奈、超乙女じゃん」

「可愛すぎる。こりゃ応援するしかないわ」

何だかよくわからないけど、まあ、いっか。

「それにしても笑いすぎだから」

私も一緒になって笑っていた。