悪女、チャレンジします!

「話はそれで終わりか?」

常盤君が顔を上げる。その顔には力がみなぎっている。

「な、何よ。さっさと自分が犯人ってこと認めなさいよ」

「俺は花壇を荒らしてなんかいない。そのことはお前が一番わかっているんじゃないのか」

さっきまで笑っていた桃井さんの表情が曇る。

「花壇を荒らしたのは、桃井。お前だろ」

生徒会室の中をざわめきが走る。

「常盤。それはどういうことなんだ?」

「ここに来るまでは俺も半信半疑だったが、それで確信した」

そう言って常盤君は桃井さんの持っているペンを指差した。

「そのペンは俺が昨日の放課後に無くしたものだ」

「だって、それは常盤が花壇を荒らしたから」

「いや、違うね。それはお前が俺を花壇荒らしの犯人にするために盗んだんだ」

「冗談言わないでよ!」

ガンっと桃井さんがデスクを叩きつける。

「それで私が犯人ってこと? ふざけないで。それもあんたの作戦なんでしょ?」

「常盤は他にも桃井さんが犯人だという証拠があるのか?」

「ここに来る前に音楽室とコンピュータ室に行ってみたんだ」

「どうしてそんなところに……」
 
そう言ってから桃井さんはハッとしたように目を見開いた。

「花壇の真上にある教室だね」

一色君はすぐに話の流れを理解する。

「そうだ。一階の相談室には人がいないがその上には人がいるかと思ってな」

常盤君の説明を聞きながらさっきの出来事を思い出した。

私が思いついたことを話した時、常盤君は階段を指差した。

上からなら犯人を目撃した可能性がある。

犯人の特定はできないかもしれないけど、目撃情報があれば絞り込むことはできる。

「あいにく、吹奏楽部は演奏の練習で窓の下を見てなかった」

常盤君が怖い笑みを浮かべる。

「だが、コンピュータ部は花壇が荒らされた一部始終を見ていたようだ」

さっき私たちが話を聞きに行くと、コンピュータ部の部長が教えてくれた。

「昨日、部活をしていたら物が割れるような変な音が聞こえてきたんだ。最初は空耳かと思ったけど、何度も聞こえるからみんなで怪しんでいたら、花壇を割る人たちの姿が見えたんだよ」

「それ、どんな人たちだったか覚えているか」

「三人組の女子だった。八つ当たりでもしているのか何度も花壇を踏んづけていたよ」

常盤君の話を聞き、一色君は考え込むように黙り込んだ。

「そんなの嘘かもしれないじゃない」

「それじゃあ今から聞きに行くか?」

常盤君が桃井さんをにらみつける。

「コンピュータ部全員に聞いてもいい」

「あんたたちが嘘を言うように仕向けているかもしれないでしょ」

「途中から、花壇を荒らしているところを録画していたと言ってたな」

桃井さんの表情が誰の目にもわかるくらいに青ざめる。

「で、でもそれだけで私が犯人ってことにはならないわ。それに私には花壇を荒らす理由がない」

「理由ならあるさ」

私までゴクリとつばを飲み込む。

「俺に罪を着せるためだろう」

「ど、どうして私がそんなことしなくちゃいけないのよ?」

「校内新聞の俺の記事を読んでイライラしたんだろう?」

桃井さんが花壇を荒らした理由は私が思いついた推論だ。

それが一番納得のいく答えだった。

最初は私も信じられなかった。

でも調べれば調べるほど、答えはそこに向かっていく。

「昨日の朝、校内新聞を読んでびっくりしたんだろう。自分の知らないところで生徒会公認の校内新聞が出ている。しかもその内容は
特別枠の俺のことが中心だ。それだけで腹が立ったのにお前はもっと嫌なことを目にした」

すーっと常盤君が深呼吸をする。

「お前は俺が校内の生徒から褒められるのが我慢できなかったんだ」

校内新聞の評判はすごくいい。

それは常盤君が学校の生徒からの評判が上がったことを意味している。

まさか、それを気に食わないと思う人がいることまで考えてなかった。

「それでお前は思った。これと逆のことをすれば俺が失望される。自分で花壇を荒らし自作自演だったことにすれば一気に嫌われるってな」

「桃井さん。今の常盤の予想は当たっているのかい?」

一色君の問いかけに桃井さんは何も言い返さない。

やっぱりそうだったんだね。

生徒会室全体が不気味な沈黙に包まれる。

一色君は深くため息をつき、顔を上げた。

「常盤、よく調べてくれたな」

「別にお前のためじゃねーよ」

ぶっきらぼうに常盤君が答える。

「諏訪会長には俺からメールをいれておく。月曜の朝、一緒に報告するぞ」

「わかった」

「一色君、ごめん。ごめんなさい」

桃井さんが一色君にすがりつくように謝る。

「常盤がみんなから好かれるのが許せなかった。特別枠のくせにチヤホヤされるのが許せなかったの」

違う。桃井さんが先に謝るのは一色君じゃない。

常盤君でしょ。

常盤君に迷惑かけたことを謝ってよ。

そう思っているのに声にして出すことができない。

常盤君は唇を噛み締めながら桃井さんを呆然と見ていた。

「この学校のために動く生徒会として君のしたことは決して許されることじゃない。そのことはわかっているよね」

常盤君と塩田君が生徒会室を出る。二人の後を追うように私も部屋を出る。

「ごめんなさい……」

背後から桃井さんのずっと謝る声が聞こえてくる。

常盤君は一度も後ろを振り返らずに真っ直ぐと歩き続けた。