悪女、チャレンジします!

週が明け、三年生不在の一週間がやってきた。

ここで常盤君のアピールをしっかりする。

会長のいないこの期間、常盤君がこの学校をまとめるんだ。

今日は生徒会の定例会の日だ。

それなのに三年生だけでなく、他の学年の生徒もいつもより集まりが少ない気がする。

桃井さんの姿もない。

さては会長たちがいないからって仕事をサボっているな。

「平井さん、お疲れさま」

ニコッと眩しい笑顔で一色君が生徒会室に入ってきた。

「お疲れさまです、副会長」

「そんな固っ苦しい呼び方しないで、僕のことは一色でいいよ」

「そ、そんなに気安く呼べないですよ」

「常盤のことは名前で呼んでるのにかい?」

「そ、それは常盤君とは同じクラスだし、それに同じ特別枠だし」

ふふっと笑って一色君が私を見る。

常盤君派の私でも一色君に笑顔を向けられたらドキッとしちゃう。

一色君はいつも気さくだ。

眩しい笑顔の素敵な人だとは思ってたけど生徒会に入ってからもその印象は変わらない。

正直に言うとさらに印象は良くなっている。

みんなが次の生徒会長は一色君って言うのもわかる。

おっと、危ない危ない。

一色君に流されてしまうところだった。

眩しい笑顔はズルすぎるよ。

「特別枠とか普通枠とかそんなの関係ないよ。僕も平井さんも同じこの学校の生徒じゃないか」

サラッとこんなこと言えるのはすごい。これは女子にもモテちゃうよね。

「おい、平井に何か用か?」

常盤君の低く唸るような声が部屋の中に響く。

「怖い顔するなよ。平井さんも怖がっちゃうだろ」
「平井、こっちに来い」

常盤君に腕を掴まれ、自分の席に座らせられる。

ちらっと一色君の方を見る。ニコニコ笑いながらこっちに手を振っている。

「気をつけろ。あいつも普通枠の生徒だ。俺たちのことをどう思っているかわかったもんじゃない」

一色君はきっと私たちのことバカにしたりしないけど。

そう言い返すのはやめた。

一色君は常盤君のライバルだ。

常盤君に勝ってほしい。その気持ちは変わらない。

「私は常盤君の味方だから。安心して」

ニッと常盤君に向かって笑顔を向ける。「悪女みたいな笑顔だ」と言って自分のパソコンに向き直った。

そんな言い方ひどくない?

でも、悪女って常盤君的には最大級の褒め言葉だったりして。

やだ、どうしよう。

そんなに褒められたら照れちゃうよ。

「平井さんどうしたんだ? 顔真っ赤だぞ」

塩田君にそう言われてビクッとする。

そんなこと言われたら余計恥ずかしくなる。

それにしても常盤君があんなに怒るなんて思わなかったよ。

心配しなくても常盤君のことを裏切ったりしないのに。

私はずっと常盤君派。一色君も素敵だとは思うけど常盤君を支持しているからね。

「さて、これからが本当の戦いだぜ」

相変わらず悪い笑顔を浮かべて、常盤君がパソコンを見る。

パッと見じゃ、どっちが悪役かわからないよ。

まずは常盤君のイメージアップだよね。

会長不在の間の戦いはこれからだ。