悪女、チャレンジします!

常盤君がおもむろに立ち上がる。それに続くように私と塩田君も立ち上がった。

何事かと生徒会メンバーの視線が私たち三人を向く。

「一色。頼みたいことがある」

「珍しいね、君が僕に頼み事をするなんて」

「別にお前に頼みたくて頼むわけじゃ……うっ」

見えないところで常盤君を小突く。

頼み事をするんだから余計なことは言わないの。

「実は、来週までの会長から頼まれていた仕事なんだけど。一色にも少し手伝ってほしいなって思って」

「はあ、何それ。意味わからない」

一色君が何か言う前にさっきの女子生徒が絡んできた。

この人はきっとそういうタイプなんだ。

「桃井《ももい》さん、やめるんだ」

「でも一色君、おかしいよ。こいつらが勝手に仕事を引き受けてそれで終わらなかったから私たちにやらせるなんて」

まさかこんな妨害が入るなんて思わなかった。

「常盤たちが引き受けた仕事でしょ。だったら今日遅くまで残るか、明日も来るなりして終わらせなさいよ」

ちっと常盤君が舌打ちするのが聞こえる。

意を決して常盤君が頼んでも普通枠の生徒にはまるで響いていない。

それどころか仕事をするのを拒んでいるようにも見える。

「雑用なんてあんたら特別枠がすればいいのよ。私たちの時間を使わせないで」

彼女たちは自分が仕事をしないといけないって意志がないんだ。

生徒会に入った目的も一色君の近くにいたいとか、そんなところだろう。

常盤君は副会長だから生徒会役員。執行部の生徒がこんなこと言うのはおかしい。

だけどそれを跳ね返すだけの力を常盤君が持ってないんだ。

まずい、このままじゃ押し切られてしまう。

それじゃあ私が生徒会に入った意味がない。

私が常盤君を助けるんだ。

きっと悪女ならこの状況も打開できる。

私は悪女になる。悪女になって常盤君の野望を叶えるんだ。

「でも仕事が終わらなくて困るのは会長ですよね?」

声が震える。それでも言わなきゃいけないことがある。

「何よ、あんた。新入りのくせに生意気に」

「来週になって仕事が終わってないってなった時、あなたたちが協力を拒んだってことを会長が知ったらどうなりますかね」

桃井さんの表情がひきつるのがわかる。

よし、あともう一押し。

「常盤君はちゃんと状況を報告しているんです。今からみんなで手分けをすれば終わるはず。それを拒否したとなったらあなたたちの責任になると思いますけど」

「くっ。あんたって本当、生意気ね」

ジロリと桃井さんが睨んでくる。

怖い。怖くて逃げ出したい。

するとパチパチと拍手の音が聞こえた。

「確かにその通りだ。すまないね、常盤。君にばかり負担をかけすぎた」

あっさりと一色君は仕事を引き受けてくれた。

「これは常盤たちに負担をかけすぎた僕の責任でもある。お願いだ、みんなで協力して今日中に何とか終わらせよう」

「一色君が言うなら仕方ないわね」

とりあえず一件落着、でいいのかな。

何とかピンチを乗り越えた。

ふう、危ない危ない。

それにしても思ったよりも生徒会って大変かも……。

「お疲れ。お菓子でも食べて元気出そうぜ」

塩田君がニッと笑ってチョコレート菓子をくれた。

お菓子を口に入れるとじんわりと甘さが口の中に広まった。