○車内
運転中の野茂。
助手席に座る純黎。
後部座席に座る英恵。
英恵「純黎さん、帰宅したらお茶を淹れてちょうだい。玉露をね」
純黎「はい」
英恵「日高、苺佳が帰宅したらすぐに教えてちょうだいね。今日は褒めてあげないといけませんから」
野茂「そうですね、母様」
○竹若高校・体育館中
ステージ上。撤収作業中の苺佳、皐月、関本。
雄馬は手伝いをしている。
皐月と関本はアンプを同時に持ち上げる。
皐月「天龍と先にこれ音楽室運んでくる」
苺佳「分かった。その間にできることやっておくね」
皐月「りょーかい」
雄馬「それ重いんやろ? 俺も手伝おうか?」
関本「いや、これ以上に重いやつあるから、カト雄にはそっちのヘルプ頼む」
雄馬「ん、分かった」
苺佳「気を付けて」
皐月「はーい。行ってきまーす」
体育館から出て行く皐月と関本。
ステージ上。苺佳と雄馬、2人きり
になる。
苺佳はコードを束ねていく。
苺佳「雄馬、ありがとね」
雄馬「何が?」
苺佳「ほら、雄馬がお祖母様に直談判してくれたから、家で作曲できたから。それに、片付けも手伝ってくれているし」
雄馬「いやこれは俺が勝手にやってるだけだし、礼なんていらねーよ。ハハッ」
歯を見せ笑う雄馬。
苺佳も微笑む。
ステージ下に目を遣る雄馬。
パイプ椅子だけが並んでいる。
雄馬「嘗めてたわけじゃねえけど、DRAGON15って、結構人気なんだな」
苺佳「そうかな」
コードを箱に入れる苺佳。
雄馬「あのあとすぐに体育館行ったけど、空席見当たらなくてさ。まあ座れたけど」
別のコードを束ね始める苺佳。
苺佳「多分、今日は無料だったから、それで多かったのかも」
雄馬「まあ、それもあるかもな」
苺佳「でも、今日をきっかけにDRAGON15のことを知ってくれたなら、私は嬉しいよ。デビューを目指しているわけではないけど」
雄馬「そうなん? 動画サイトとかでも人気みたいやし、てっきりデビュー目指しとるんかと思った」
苺佳、目を泳がせる。
苺佳「できたらすごいけどね。私たちには無理だよ。皐月も続けても大学ぐらいまでって言っているし」
雄馬「そっか。集まるの難しなるもんな」
苺佳「そうそう」
箱の中いっぱいのコード。
全て束ねられている。
苺佳「皐月たちが戻ってきたら、これ音楽
室まで持って行くね」
雄馬「分かった」
座ろうとする雄馬の腕を掴む苺佳。
雄馬は苺佳に視線を向ける。
苺佳「ねえ、雄馬、ちょっといい?」
雄馬「ん、何?」
雄馬、座りながら首を傾げる。
苺佳「雄馬の隣に座っていたのって、内田さん、だよね」
雄馬「……!」
苺佳「ステージから、見えちゃったの」
雄馬「そ、っか」
雄馬は頭を掻く。
掴まれ続けている雄馬の腕。
苺佳は雄馬に視線を合わせない。
苺佳「たまたま、だよね」
雄馬「……」
苺佳「空席がなかったから、だよね」
雄馬「……」
俯く雄馬。
苺佳は掴む手を離す。
雄馬「ごめん」
苺佳「えっ」
雄馬「一度は断った。でも、内田がしつこくて、座ること許した。悪い」
苺佳「やっぱり、内田さん、雄馬のこと狙っているみたいだね」
雄馬「ハハハ、だよな」
笑って誤魔化そうとする雄馬。
苺佳は雄馬に鋭い眼差しを向ける。
苺佳「笑いごとじゃないよ」
雄馬「……」
苺佳「ねえ雄馬、内田さんには近づかないで。私だけに近づいてよ」
涙目になっている苺佳。
苺佳の後頭部に手を当て、ゆっくりと仰向けに倒す雄馬。
そのまま、仰向けの苺佳の上に、雄馬は四つん這いの姿勢を取る。
苺佳「……雄馬?」
雄馬は苺佳に顔を近づけ、唇にキス。
苺佳の頬が赤らむ。
何度も唇をくっつけ合う2人。
近づいてくる足音。
姿勢をゆっくりと戻す雄馬。
クラスTシャツで額の汗を拭う。
仰向け状態のままの苺佳。
浅い呼吸を繰り返す。
シューズと床が擦れる音。
その音が止まる。
真玲「何やってんのよ!」
慌てて起き上がる苺佳。
雄馬と苺佳は真玲を見つめる。
雄馬「(小声)こんなとこまで来やがって」
溜め息を吐く雄馬。
あざとさ全開の真玲。
真玲「雄君、さっきのこと、忘れてないよね?」
雄馬「……」
俯く雄馬。
苺佳は疑いの眼差しを雄馬に向ける。
苺佳「さっきのことって、何?」
雄馬「あの、それは……」
苦笑いを浮かべ、頭を掻く。
真玲、視線を苺佳に送る。
目には光が宿っていない。
両手を顎の下で組む。
真玲「雄君のほっぺたにキスしたの」
苺佳「へ……」
真玲「そうしたらほっぺたも耳も真っ赤にしちゃって。照れちゃったの。かわいいでしょ?」
唖然としている苺佳。
苺佳「雄……馬?」
俯き続ける雄馬。
苺佳は雄馬の腕に触れる。
真玲「私は雄君のことが好きなの。これ以上私と雄君の邪魔しないで!!」
苺佳「邪魔? 一体どういう――」
真玲「ばっくれないで。あんた、雄君に近づいてばっかじゃん。あんたがいるだけで、雄君が私と一緒に過ごせないじゃん」
真玲の叫びに耳を塞ぐ雄馬。
苺佳は真玲を見続ける。
苺佳「私は、雄馬と付き合っているの。邪魔しているのは、内田さんのほうだよ」
真玲「何よ。あんたの言い方、癪に障るんだけど」
苺佳「私は内田さんの言い方が気に入らない。雄馬のことを、まるで私のモノみたいな言い方して」
真玲「だってそうじゃない。私の彼氏なんだもん!」
痺れを切らす雄馬。
態度で苛立ちを露にする。
雄馬「内田、いい加減にしろ。さっきも言ったよな、邪魔するなって」
睨む雄馬。
真玲は小首を傾げる。
真玲「私は邪魔してないよ? ただ雄君のこと迎えに来ただけ。こんなところにいないで、私と一緒に教室戻ろ?」
雄馬「帰るわけねえだろ。バカか」
真玲「言い方キツイ。でも、そういう雄君も私は好きだよ」
雄馬「チッ。ハア……」
頭を抱える雄馬。
苺佳の表情は曇っている。
真玲「そーゆーなら、私が迎えに行ってあげる」
階段を上り、ステージ上に来る真玲。
冷徹な視線を苺佳に向け続ける。
雄馬「来るな!」
無言のままステージ上を歩く真玲。
そして、苺佳の目の前に立つ。
苺佳「内田さん……?」
雄馬に抱き着き、勢いよく唇にキスをする真玲。
驚きと怯えの表情を浮かべる苺佳。
振り向き、苺佳を睨みつける真玲。
真玲「アンタなんかに、渡さないから」
○同・廊下
走る苺佳の前方から歩く皐月と関本。
俯きながら走る苺佳。
走りながら歩く皐月と関本の横。
走って、すれ違う。
が、皐月、目を丸くして、振り向く。
皐月「苺佳!?」
関本「え、いっちゃんだった?」
立ち止まり、驚く関本。
皐月「私、追いかけるから、天龍は体育館行ってきて」
関本「お、おう」
進行方向を走り始める関本。
関本に背を向けて走る皐月。
皐月「苺佳~、苺佳~!」
蹲っている苺佳。
忍び泣きしている。
皐月「苺佳、どうした?」
身体を震わせ、泣き続ける苺佳。
皐月はそっと肩に手を置く。
苺佳は皐月に抱き着く。
苺佳「皐月~!!」
皐月「何があったの?」
苺佳「内田、さんが……、雄馬に、キスした……。私の、目の前……で」
皐月「え」
口を大きく開け、絶句する皐月。
苺佳「私には渡さないって、言われた」
皐月「何それ、流石に酷過ぎでしょ」
苺佳「私、泣きながら逃げて来ちゃった。弱いよね……私って」
皐月「そんなことない。目の前でキスされたら、泣きたくなるし、逃げたくなるって。私も天龍が他の女子とキスしてるところ見たら逃げる。だから苺佳は弱くないよ」
苺佳「皐月~!」
苺佳は皐月に抱き着く。
苺佳の背中を擦る皐月。
皐月「それで、今雄馬君はどこにいる?」
苺佳「分からない。多分まだ体育館にいるとは思うけど」
皐月「じゃあ、一緒に行こ。私が付いててあげるから」
苺佳「うん」
○同・体育館中
ステージ上。残っている楽器。
立って向き合っている雄馬と真玲。
中に入って来る関本。
息を切らしている。
雄馬「あ」
手を軽く挙げ、微笑みかける関本。
関本「よっ、カト雄。片付け終わった?」
雄馬は視線を逸らす。
真玲「誰」
関本「誰ってことはないだろ。同級生だぞ?」
真玲「アンタなんか知らない」
関本「君が見てたバンドでベースやってる、2年1組の関本なんだけど」
苛立っている関本。
真玲は見下す目を関本に向ける。
真玲「ふーん。いたっけ、こんなブサイク」
関本「大分失礼だな」
真玲「え~。そうかな? 私は本当のことを言っただけだよ?」
小首を傾げ、小悪魔みたいに笑う真玲。
関本「あっそ。まあいいや。なあカト雄、ドラム運ぶの手伝ってくれる?」
雄馬に向かって手を挙げ、視線を送る関本。
が、雄馬は棒立ちの状態。
関本は一歩だけ雄馬に近づく。
関本「何があったかは知らない。でも、突っ立ってたって変わらないと思うけど」
叫ぶ関本。
雄馬はフッと笑って、頷く。
雄馬「そうだな」
顔を上げ、関本に向かって、両手で大きな円を作る雄馬。
関本はグッドサインを掲げる。
関本「俺ら今片付け作業中だから、部外者は帰ってくれる?」
真玲に冷徹な視線を向ける関本。
真玲「は? 私を部外者だって言うの? だったら雄君だって部外者になるじゃない。ね、雄君、一緒に戻ろうーよ」
真玲は雄馬に媚びる目を向ける。
関本「滅入るぐらい図々しいな。カト雄は俺らのファンだから部外者じゃない。メンバーのことを良く知らない奴とは違う」
真玲「ハッ、何なの。いい加減にして」
関本に向かって怒る真玲。
逆切れする関本。
関本「は? おい――」
雄馬「(遮って)いい加減にするのはお前だよ、内田。出てけよ、部外者」
真玲を睨みつける雄馬。
真玲は泣き真似をする。
真玲「ひど~い。む~」
唇を尖らせる真玲。
完全に冷めた目をしている雄馬。
呆れ顔の関本。
大きな溜め息を吐く。
瞬間、真玲は表情を一転させ、明るく振る舞う。
真玲「まあいいや。また私とデートしてね~!」
手を振りながら体育館を出て行く真玲。
雄馬は大きな溜め息を吐く。
壇上に上がる関本。
雄馬の肩に手を回す。
関本「なあカト雄、何があったんだよ」
雄馬「全部俺のせいだから」
関本「仮にそうだったとしても、一人で抱えようだなんて馬鹿だぜ」
雄馬「え」
自信満々な表情の関本。
関本「モテる男って、大変だよな。分かる。俺には皐月がいるのに、今日だけで、えっと5人か、声掛けてきたからな」
雄馬「ハハッ、それはすごいな」
関本「だろ? でも、俺は全員に断りを入れた。だって、大切にしたいって思える人がすぐ近くにいるんだから」
雄馬「そう、だよな」
関本「いっちゃんのこと傷つけたと思うなら、さっさと謝っておいたほうが身のためだぜ?」
雄馬「関本君の言う通りだな」
少しの笑みを含ませて言う雄馬。
関本は頷く。
雄馬「俺、先に苺佳に謝って来る。だから、ドラム運ぶの、その後でもいい?」
関本「今日は特別に許す。許されて、なる早で帰って来い」
雄馬の背中を叩く関本。
ステージから降りようとする雄馬。
駆けてくる2人の足音。
立ち止まる雄馬。
体育館に入って来る苺佳と皐月。
苺佳は目元を腫らしている。
2人は同時に互いの名を叫ぶ。
雄馬「苺佳!」
苺佳「雄馬!」
雄馬は両手を広げる。
勢いよく雄馬に抱き着く苺佳。
服に皺が寄る。
苺佳「雄馬、ごめんね」
雄馬「俺のほうこそ、ごめん」
さらに強く抱き合う2人。
雄馬「これからは、苺佳のことだけ見続ける。よそ見はしない」
苺佳「うん」
雄馬「だから、今日また、一緒に帰って」
苺佳「もちろんだよ。雄馬」
顔を見合わせ、幸せそうに笑う2人。
○同・体育館裏
足元の小さな窓。
中の様子を覗く真玲の姿。
ちょうど、苺佳と雄馬が抱き合っている瞬間。
真玲は下唇を噛んでいる。
そして、左の口角を上げる。
真玲M「そろそろ実行のとき」
○同・空き教室(夕)
クラスTシャツ姿の生徒たち。
黒板前に立つ黒川。
壁かけの時計。15時10分をさしている。
黒川「みんな、お疲れさん。今日1日、色々大変やったやろうけど、みんなよくやった。お客さんからの評判もええみたいやし、売り上げも好調やったと思う。結果に期待やで」
拍手して盛り上がる生徒たち。
黒川「さあお楽しみは終わり。今から片付けや。片付け終わったところから帰宅できるから、早く帰りたいなら、協力して動くこと。いいな?」
生徒たち「はーい!」
手を叩く黒川。
生徒たちは一斉に動き始める。
伊達「調理組は、先にそっちの片付けを頼む!」
皐月「りょーかい」
慧聖「皐月ちゃん、私じゃ手が届かないところがあって、手伝ってくれる?」
皐月「いいよー。どこ?」
話しながら教室を出て行く慧聖と皐月。
空き教室中央に立つ小鳥。
右手を挙げて振る。
小鳥「男装女装の衣装は一旦預かるから、私に渡してね」
薮内「はいよー」
薮内や雄馬など、衣装を渡していく。
焦る苺佳。
小鳥に視線を送る。
苺佳「ごめん、衣装を教室に置いてきちゃったから、今から取って来るね」
小鳥「分かった」
教室を出て行こうとする苺佳。
雄馬と視線を合わし、軽く微笑み合う。
衣装を小鳥に手渡す真玲。
苺佳の背中に視線を遣る。
真玲「小鳥、私、ちょっとトイレ行ってくる」
小鳥「分かった」
小走りで出て行く真玲。
雄馬「まさか……!」
教室から出ようとする雄馬。
その背中。近づく羽七。
羽七「加藤君、メイク落とすから、こっち来てくれる?」
雄馬「あ、ああ、うん……」
後ろめたそうな目をする。
○同・2年2組教室(夕)
教室に入って来る苺佳。
苺佳の机の上。衣装が置かれている。
息を吐き、安堵する苺佳。
駆けてくる足音。
教室前で止まる。
振り返る苺佳。
真玲が白々しい顔をして立っている。
真玲「あ、苺佳さん」
苺佳「内田さん……」
動きを止める苺佳。
真玲は苺佳に近づいていく。
真玲「さっきはごめんね。私、何か勘違いしてたみたい。やっぱり雄君にお似合いなのは、幼馴染の苺佳さんしかいないと思うの。だから、これ以上は近づかないから安心して」
悪びれる様子のない真玲。
苺佳は引き攣る表情で頷く。
苺佳「う、うん……」
戸惑い顔で衣装を手に取る苺佳。
真玲は不自然なほどの笑顔。
真玲「ねえ、私と友達になってよ」
苺佳「えっと……」
俯き、考える苺佳。
苺佳に更に近づく真玲。
圧をかける目線を向ける。
真玲「雄君のこと譲ったんだから、いいでしょ?」
真玲の目を見る苺佳。
渋々頷く。
苺佳「分かった。よろしくね」
真玲「こちらこそ。ふふっ」
真玲は手を差し伸べる。
その手を恐る恐る握り返す苺佳。
再び、不自然なほどの笑みを浮かべる真玲。
苺佳の表情は引き攣っている。
真玲「それで、苺佳さんは衣装取りに来たの?」
苺佳「そうだよ。内田さんも、何か取りに来たの?」
真玲「頼まれごとされたから、それを取りにきたんだ」
ポケットからレジ袋を取り出す。
苺佳「そうなんだ」
真玲「取りに来るの、別に私じゃなくても良かったと思うんだけどね」
苺佳「あ、うん……。そうだね……」
妙な間が開く。
苺佳はまだ少し戸惑っている。
真玲は苺佳に一歩近づく。
気圧される苺佳。
真玲「ねえ、苺佳さん。雄君って――」
苺佳「ごめん、立ち話している時間ないから、先戻るね」
小走りで教室を出て行く苺佳。
立っている真玲。
拳を握りしめる。
真玲「(呟き)何なの。午後からバンドのことで仕事何もしなかったくせに。ふざけないでよ」
○同・空き教室(夕)
雄馬のメイクを落としている羽七。
薮内はメイクをしたまま、床の掃除をしている。
教室に入って来る苺佳。
手には衣装を抱えている。
伊達と話しをしている小鳥。
苺佳は申し訳なさそうな表情で話しかける。
苺佳「返すの、遅くなっちゃった」
小鳥「全然大丈夫だよ。ありがと」
苺佳「ううん。私、何すればいいかな?」
小鳥「今から衣装職員室に運びに行くから、手伝って欲しい」
苺佳「分かった」
× × ×
(時間経過)
片付け終わっている部屋。
乱雑に並んで立つ生徒たち。
全員が見える位置に立つ黒川。
黒川「教室戻る時間勿体ないから、ここでホームルームするで」
生徒たち「はい!」
黒川「今日はみんなよく頑張ったと思う。まずは自分を褒めること。ええな?」
生徒たち「はい」
黒川「まあ撤収までして疲れてるやろうから、しっかり休んで、また来週から頑張るように。今日は以上や。お疲れさん」
生徒たち「お疲れ様でした!」
礼をする生徒たち。
頭を上げ、そこから散らばる。
黒川「忘れ物してくなよー」
生徒たち「はーい」
教室を出て行く生徒たち。
苺佳は雄馬に近づき、笑う。
苺佳「雄馬、一緒に帰ろう」
雄馬「ええよ」
苺佳「あっ、またお店行く?」
雄馬「せやな。また半分する?」
苺佳「いいね」
雄馬「ほんなら、早く荷物取りに行こや。売り切れは御免やからな」
苺佳「そうだね」
仲良く出て行く2人。
妬ましい目を向ける真玲。
少し離れた所から真玲を見る慧聖。
真玲「ホント目障り」
足を小刻みに揺らす真玲。
真玲から少し離れている所から見ている慧聖。
真玲の苛立ちに怯えている状態。
○同・生徒玄関(夕)
苺佳、雄馬共に上着を着ている。
上履きを下駄箱に置く苺佳。
それを見ている雄馬。
既に靴を履き終わっている。
雄馬「苺佳、明日って時間ある?」
苺佳「うん、大丈夫だと思うけど」
雄馬「よかった」
苺佳「ん? 何が良かったの?」
靴を履いていく苺佳。
苺佳の表情を見ながら語る雄馬。
雄馬「ちょっと、苺佳と行きたいとこあってさ」
苺佳「久しぶりのデートだ。ふふっ。帰ったら確認しておくね」
雄馬「分かった」
玄関を出る苺佳と雄馬。
空を眺める苺佳。
夕焼けが広がっている。
苺佳「すっかり夕方だね」
雄馬「寒くなる前に帰ろうぜ」
右手を差し出す雄馬。
握り返す苺佳。
苺佳「うん」
雄馬の上着ポケット。
繋ぐ手を忍ばせる。
話ながら帰っていく苺佳と雄馬。
2年2組の靴箱に近づく人影。
苺佳たちが校門から出て行く、その背中を見ている。
運転中の野茂。
助手席に座る純黎。
後部座席に座る英恵。
英恵「純黎さん、帰宅したらお茶を淹れてちょうだい。玉露をね」
純黎「はい」
英恵「日高、苺佳が帰宅したらすぐに教えてちょうだいね。今日は褒めてあげないといけませんから」
野茂「そうですね、母様」
○竹若高校・体育館中
ステージ上。撤収作業中の苺佳、皐月、関本。
雄馬は手伝いをしている。
皐月と関本はアンプを同時に持ち上げる。
皐月「天龍と先にこれ音楽室運んでくる」
苺佳「分かった。その間にできることやっておくね」
皐月「りょーかい」
雄馬「それ重いんやろ? 俺も手伝おうか?」
関本「いや、これ以上に重いやつあるから、カト雄にはそっちのヘルプ頼む」
雄馬「ん、分かった」
苺佳「気を付けて」
皐月「はーい。行ってきまーす」
体育館から出て行く皐月と関本。
ステージ上。苺佳と雄馬、2人きり
になる。
苺佳はコードを束ねていく。
苺佳「雄馬、ありがとね」
雄馬「何が?」
苺佳「ほら、雄馬がお祖母様に直談判してくれたから、家で作曲できたから。それに、片付けも手伝ってくれているし」
雄馬「いやこれは俺が勝手にやってるだけだし、礼なんていらねーよ。ハハッ」
歯を見せ笑う雄馬。
苺佳も微笑む。
ステージ下に目を遣る雄馬。
パイプ椅子だけが並んでいる。
雄馬「嘗めてたわけじゃねえけど、DRAGON15って、結構人気なんだな」
苺佳「そうかな」
コードを箱に入れる苺佳。
雄馬「あのあとすぐに体育館行ったけど、空席見当たらなくてさ。まあ座れたけど」
別のコードを束ね始める苺佳。
苺佳「多分、今日は無料だったから、それで多かったのかも」
雄馬「まあ、それもあるかもな」
苺佳「でも、今日をきっかけにDRAGON15のことを知ってくれたなら、私は嬉しいよ。デビューを目指しているわけではないけど」
雄馬「そうなん? 動画サイトとかでも人気みたいやし、てっきりデビュー目指しとるんかと思った」
苺佳、目を泳がせる。
苺佳「できたらすごいけどね。私たちには無理だよ。皐月も続けても大学ぐらいまでって言っているし」
雄馬「そっか。集まるの難しなるもんな」
苺佳「そうそう」
箱の中いっぱいのコード。
全て束ねられている。
苺佳「皐月たちが戻ってきたら、これ音楽
室まで持って行くね」
雄馬「分かった」
座ろうとする雄馬の腕を掴む苺佳。
雄馬は苺佳に視線を向ける。
苺佳「ねえ、雄馬、ちょっといい?」
雄馬「ん、何?」
雄馬、座りながら首を傾げる。
苺佳「雄馬の隣に座っていたのって、内田さん、だよね」
雄馬「……!」
苺佳「ステージから、見えちゃったの」
雄馬「そ、っか」
雄馬は頭を掻く。
掴まれ続けている雄馬の腕。
苺佳は雄馬に視線を合わせない。
苺佳「たまたま、だよね」
雄馬「……」
苺佳「空席がなかったから、だよね」
雄馬「……」
俯く雄馬。
苺佳は掴む手を離す。
雄馬「ごめん」
苺佳「えっ」
雄馬「一度は断った。でも、内田がしつこくて、座ること許した。悪い」
苺佳「やっぱり、内田さん、雄馬のこと狙っているみたいだね」
雄馬「ハハハ、だよな」
笑って誤魔化そうとする雄馬。
苺佳は雄馬に鋭い眼差しを向ける。
苺佳「笑いごとじゃないよ」
雄馬「……」
苺佳「ねえ雄馬、内田さんには近づかないで。私だけに近づいてよ」
涙目になっている苺佳。
苺佳の後頭部に手を当て、ゆっくりと仰向けに倒す雄馬。
そのまま、仰向けの苺佳の上に、雄馬は四つん這いの姿勢を取る。
苺佳「……雄馬?」
雄馬は苺佳に顔を近づけ、唇にキス。
苺佳の頬が赤らむ。
何度も唇をくっつけ合う2人。
近づいてくる足音。
姿勢をゆっくりと戻す雄馬。
クラスTシャツで額の汗を拭う。
仰向け状態のままの苺佳。
浅い呼吸を繰り返す。
シューズと床が擦れる音。
その音が止まる。
真玲「何やってんのよ!」
慌てて起き上がる苺佳。
雄馬と苺佳は真玲を見つめる。
雄馬「(小声)こんなとこまで来やがって」
溜め息を吐く雄馬。
あざとさ全開の真玲。
真玲「雄君、さっきのこと、忘れてないよね?」
雄馬「……」
俯く雄馬。
苺佳は疑いの眼差しを雄馬に向ける。
苺佳「さっきのことって、何?」
雄馬「あの、それは……」
苦笑いを浮かべ、頭を掻く。
真玲、視線を苺佳に送る。
目には光が宿っていない。
両手を顎の下で組む。
真玲「雄君のほっぺたにキスしたの」
苺佳「へ……」
真玲「そうしたらほっぺたも耳も真っ赤にしちゃって。照れちゃったの。かわいいでしょ?」
唖然としている苺佳。
苺佳「雄……馬?」
俯き続ける雄馬。
苺佳は雄馬の腕に触れる。
真玲「私は雄君のことが好きなの。これ以上私と雄君の邪魔しないで!!」
苺佳「邪魔? 一体どういう――」
真玲「ばっくれないで。あんた、雄君に近づいてばっかじゃん。あんたがいるだけで、雄君が私と一緒に過ごせないじゃん」
真玲の叫びに耳を塞ぐ雄馬。
苺佳は真玲を見続ける。
苺佳「私は、雄馬と付き合っているの。邪魔しているのは、内田さんのほうだよ」
真玲「何よ。あんたの言い方、癪に障るんだけど」
苺佳「私は内田さんの言い方が気に入らない。雄馬のことを、まるで私のモノみたいな言い方して」
真玲「だってそうじゃない。私の彼氏なんだもん!」
痺れを切らす雄馬。
態度で苛立ちを露にする。
雄馬「内田、いい加減にしろ。さっきも言ったよな、邪魔するなって」
睨む雄馬。
真玲は小首を傾げる。
真玲「私は邪魔してないよ? ただ雄君のこと迎えに来ただけ。こんなところにいないで、私と一緒に教室戻ろ?」
雄馬「帰るわけねえだろ。バカか」
真玲「言い方キツイ。でも、そういう雄君も私は好きだよ」
雄馬「チッ。ハア……」
頭を抱える雄馬。
苺佳の表情は曇っている。
真玲「そーゆーなら、私が迎えに行ってあげる」
階段を上り、ステージ上に来る真玲。
冷徹な視線を苺佳に向け続ける。
雄馬「来るな!」
無言のままステージ上を歩く真玲。
そして、苺佳の目の前に立つ。
苺佳「内田さん……?」
雄馬に抱き着き、勢いよく唇にキスをする真玲。
驚きと怯えの表情を浮かべる苺佳。
振り向き、苺佳を睨みつける真玲。
真玲「アンタなんかに、渡さないから」
○同・廊下
走る苺佳の前方から歩く皐月と関本。
俯きながら走る苺佳。
走りながら歩く皐月と関本の横。
走って、すれ違う。
が、皐月、目を丸くして、振り向く。
皐月「苺佳!?」
関本「え、いっちゃんだった?」
立ち止まり、驚く関本。
皐月「私、追いかけるから、天龍は体育館行ってきて」
関本「お、おう」
進行方向を走り始める関本。
関本に背を向けて走る皐月。
皐月「苺佳~、苺佳~!」
蹲っている苺佳。
忍び泣きしている。
皐月「苺佳、どうした?」
身体を震わせ、泣き続ける苺佳。
皐月はそっと肩に手を置く。
苺佳は皐月に抱き着く。
苺佳「皐月~!!」
皐月「何があったの?」
苺佳「内田、さんが……、雄馬に、キスした……。私の、目の前……で」
皐月「え」
口を大きく開け、絶句する皐月。
苺佳「私には渡さないって、言われた」
皐月「何それ、流石に酷過ぎでしょ」
苺佳「私、泣きながら逃げて来ちゃった。弱いよね……私って」
皐月「そんなことない。目の前でキスされたら、泣きたくなるし、逃げたくなるって。私も天龍が他の女子とキスしてるところ見たら逃げる。だから苺佳は弱くないよ」
苺佳「皐月~!」
苺佳は皐月に抱き着く。
苺佳の背中を擦る皐月。
皐月「それで、今雄馬君はどこにいる?」
苺佳「分からない。多分まだ体育館にいるとは思うけど」
皐月「じゃあ、一緒に行こ。私が付いててあげるから」
苺佳「うん」
○同・体育館中
ステージ上。残っている楽器。
立って向き合っている雄馬と真玲。
中に入って来る関本。
息を切らしている。
雄馬「あ」
手を軽く挙げ、微笑みかける関本。
関本「よっ、カト雄。片付け終わった?」
雄馬は視線を逸らす。
真玲「誰」
関本「誰ってことはないだろ。同級生だぞ?」
真玲「アンタなんか知らない」
関本「君が見てたバンドでベースやってる、2年1組の関本なんだけど」
苛立っている関本。
真玲は見下す目を関本に向ける。
真玲「ふーん。いたっけ、こんなブサイク」
関本「大分失礼だな」
真玲「え~。そうかな? 私は本当のことを言っただけだよ?」
小首を傾げ、小悪魔みたいに笑う真玲。
関本「あっそ。まあいいや。なあカト雄、ドラム運ぶの手伝ってくれる?」
雄馬に向かって手を挙げ、視線を送る関本。
が、雄馬は棒立ちの状態。
関本は一歩だけ雄馬に近づく。
関本「何があったかは知らない。でも、突っ立ってたって変わらないと思うけど」
叫ぶ関本。
雄馬はフッと笑って、頷く。
雄馬「そうだな」
顔を上げ、関本に向かって、両手で大きな円を作る雄馬。
関本はグッドサインを掲げる。
関本「俺ら今片付け作業中だから、部外者は帰ってくれる?」
真玲に冷徹な視線を向ける関本。
真玲「は? 私を部外者だって言うの? だったら雄君だって部外者になるじゃない。ね、雄君、一緒に戻ろうーよ」
真玲は雄馬に媚びる目を向ける。
関本「滅入るぐらい図々しいな。カト雄は俺らのファンだから部外者じゃない。メンバーのことを良く知らない奴とは違う」
真玲「ハッ、何なの。いい加減にして」
関本に向かって怒る真玲。
逆切れする関本。
関本「は? おい――」
雄馬「(遮って)いい加減にするのはお前だよ、内田。出てけよ、部外者」
真玲を睨みつける雄馬。
真玲は泣き真似をする。
真玲「ひど~い。む~」
唇を尖らせる真玲。
完全に冷めた目をしている雄馬。
呆れ顔の関本。
大きな溜め息を吐く。
瞬間、真玲は表情を一転させ、明るく振る舞う。
真玲「まあいいや。また私とデートしてね~!」
手を振りながら体育館を出て行く真玲。
雄馬は大きな溜め息を吐く。
壇上に上がる関本。
雄馬の肩に手を回す。
関本「なあカト雄、何があったんだよ」
雄馬「全部俺のせいだから」
関本「仮にそうだったとしても、一人で抱えようだなんて馬鹿だぜ」
雄馬「え」
自信満々な表情の関本。
関本「モテる男って、大変だよな。分かる。俺には皐月がいるのに、今日だけで、えっと5人か、声掛けてきたからな」
雄馬「ハハッ、それはすごいな」
関本「だろ? でも、俺は全員に断りを入れた。だって、大切にしたいって思える人がすぐ近くにいるんだから」
雄馬「そう、だよな」
関本「いっちゃんのこと傷つけたと思うなら、さっさと謝っておいたほうが身のためだぜ?」
雄馬「関本君の言う通りだな」
少しの笑みを含ませて言う雄馬。
関本は頷く。
雄馬「俺、先に苺佳に謝って来る。だから、ドラム運ぶの、その後でもいい?」
関本「今日は特別に許す。許されて、なる早で帰って来い」
雄馬の背中を叩く関本。
ステージから降りようとする雄馬。
駆けてくる2人の足音。
立ち止まる雄馬。
体育館に入って来る苺佳と皐月。
苺佳は目元を腫らしている。
2人は同時に互いの名を叫ぶ。
雄馬「苺佳!」
苺佳「雄馬!」
雄馬は両手を広げる。
勢いよく雄馬に抱き着く苺佳。
服に皺が寄る。
苺佳「雄馬、ごめんね」
雄馬「俺のほうこそ、ごめん」
さらに強く抱き合う2人。
雄馬「これからは、苺佳のことだけ見続ける。よそ見はしない」
苺佳「うん」
雄馬「だから、今日また、一緒に帰って」
苺佳「もちろんだよ。雄馬」
顔を見合わせ、幸せそうに笑う2人。
○同・体育館裏
足元の小さな窓。
中の様子を覗く真玲の姿。
ちょうど、苺佳と雄馬が抱き合っている瞬間。
真玲は下唇を噛んでいる。
そして、左の口角を上げる。
真玲M「そろそろ実行のとき」
○同・空き教室(夕)
クラスTシャツ姿の生徒たち。
黒板前に立つ黒川。
壁かけの時計。15時10分をさしている。
黒川「みんな、お疲れさん。今日1日、色々大変やったやろうけど、みんなよくやった。お客さんからの評判もええみたいやし、売り上げも好調やったと思う。結果に期待やで」
拍手して盛り上がる生徒たち。
黒川「さあお楽しみは終わり。今から片付けや。片付け終わったところから帰宅できるから、早く帰りたいなら、協力して動くこと。いいな?」
生徒たち「はーい!」
手を叩く黒川。
生徒たちは一斉に動き始める。
伊達「調理組は、先にそっちの片付けを頼む!」
皐月「りょーかい」
慧聖「皐月ちゃん、私じゃ手が届かないところがあって、手伝ってくれる?」
皐月「いいよー。どこ?」
話しながら教室を出て行く慧聖と皐月。
空き教室中央に立つ小鳥。
右手を挙げて振る。
小鳥「男装女装の衣装は一旦預かるから、私に渡してね」
薮内「はいよー」
薮内や雄馬など、衣装を渡していく。
焦る苺佳。
小鳥に視線を送る。
苺佳「ごめん、衣装を教室に置いてきちゃったから、今から取って来るね」
小鳥「分かった」
教室を出て行こうとする苺佳。
雄馬と視線を合わし、軽く微笑み合う。
衣装を小鳥に手渡す真玲。
苺佳の背中に視線を遣る。
真玲「小鳥、私、ちょっとトイレ行ってくる」
小鳥「分かった」
小走りで出て行く真玲。
雄馬「まさか……!」
教室から出ようとする雄馬。
その背中。近づく羽七。
羽七「加藤君、メイク落とすから、こっち来てくれる?」
雄馬「あ、ああ、うん……」
後ろめたそうな目をする。
○同・2年2組教室(夕)
教室に入って来る苺佳。
苺佳の机の上。衣装が置かれている。
息を吐き、安堵する苺佳。
駆けてくる足音。
教室前で止まる。
振り返る苺佳。
真玲が白々しい顔をして立っている。
真玲「あ、苺佳さん」
苺佳「内田さん……」
動きを止める苺佳。
真玲は苺佳に近づいていく。
真玲「さっきはごめんね。私、何か勘違いしてたみたい。やっぱり雄君にお似合いなのは、幼馴染の苺佳さんしかいないと思うの。だから、これ以上は近づかないから安心して」
悪びれる様子のない真玲。
苺佳は引き攣る表情で頷く。
苺佳「う、うん……」
戸惑い顔で衣装を手に取る苺佳。
真玲は不自然なほどの笑顔。
真玲「ねえ、私と友達になってよ」
苺佳「えっと……」
俯き、考える苺佳。
苺佳に更に近づく真玲。
圧をかける目線を向ける。
真玲「雄君のこと譲ったんだから、いいでしょ?」
真玲の目を見る苺佳。
渋々頷く。
苺佳「分かった。よろしくね」
真玲「こちらこそ。ふふっ」
真玲は手を差し伸べる。
その手を恐る恐る握り返す苺佳。
再び、不自然なほどの笑みを浮かべる真玲。
苺佳の表情は引き攣っている。
真玲「それで、苺佳さんは衣装取りに来たの?」
苺佳「そうだよ。内田さんも、何か取りに来たの?」
真玲「頼まれごとされたから、それを取りにきたんだ」
ポケットからレジ袋を取り出す。
苺佳「そうなんだ」
真玲「取りに来るの、別に私じゃなくても良かったと思うんだけどね」
苺佳「あ、うん……。そうだね……」
妙な間が開く。
苺佳はまだ少し戸惑っている。
真玲は苺佳に一歩近づく。
気圧される苺佳。
真玲「ねえ、苺佳さん。雄君って――」
苺佳「ごめん、立ち話している時間ないから、先戻るね」
小走りで教室を出て行く苺佳。
立っている真玲。
拳を握りしめる。
真玲「(呟き)何なの。午後からバンドのことで仕事何もしなかったくせに。ふざけないでよ」
○同・空き教室(夕)
雄馬のメイクを落としている羽七。
薮内はメイクをしたまま、床の掃除をしている。
教室に入って来る苺佳。
手には衣装を抱えている。
伊達と話しをしている小鳥。
苺佳は申し訳なさそうな表情で話しかける。
苺佳「返すの、遅くなっちゃった」
小鳥「全然大丈夫だよ。ありがと」
苺佳「ううん。私、何すればいいかな?」
小鳥「今から衣装職員室に運びに行くから、手伝って欲しい」
苺佳「分かった」
× × ×
(時間経過)
片付け終わっている部屋。
乱雑に並んで立つ生徒たち。
全員が見える位置に立つ黒川。
黒川「教室戻る時間勿体ないから、ここでホームルームするで」
生徒たち「はい!」
黒川「今日はみんなよく頑張ったと思う。まずは自分を褒めること。ええな?」
生徒たち「はい」
黒川「まあ撤収までして疲れてるやろうから、しっかり休んで、また来週から頑張るように。今日は以上や。お疲れさん」
生徒たち「お疲れ様でした!」
礼をする生徒たち。
頭を上げ、そこから散らばる。
黒川「忘れ物してくなよー」
生徒たち「はーい」
教室を出て行く生徒たち。
苺佳は雄馬に近づき、笑う。
苺佳「雄馬、一緒に帰ろう」
雄馬「ええよ」
苺佳「あっ、またお店行く?」
雄馬「せやな。また半分する?」
苺佳「いいね」
雄馬「ほんなら、早く荷物取りに行こや。売り切れは御免やからな」
苺佳「そうだね」
仲良く出て行く2人。
妬ましい目を向ける真玲。
少し離れた所から真玲を見る慧聖。
真玲「ホント目障り」
足を小刻みに揺らす真玲。
真玲から少し離れている所から見ている慧聖。
真玲の苛立ちに怯えている状態。
○同・生徒玄関(夕)
苺佳、雄馬共に上着を着ている。
上履きを下駄箱に置く苺佳。
それを見ている雄馬。
既に靴を履き終わっている。
雄馬「苺佳、明日って時間ある?」
苺佳「うん、大丈夫だと思うけど」
雄馬「よかった」
苺佳「ん? 何が良かったの?」
靴を履いていく苺佳。
苺佳の表情を見ながら語る雄馬。
雄馬「ちょっと、苺佳と行きたいとこあってさ」
苺佳「久しぶりのデートだ。ふふっ。帰ったら確認しておくね」
雄馬「分かった」
玄関を出る苺佳と雄馬。
空を眺める苺佳。
夕焼けが広がっている。
苺佳「すっかり夕方だね」
雄馬「寒くなる前に帰ろうぜ」
右手を差し出す雄馬。
握り返す苺佳。
苺佳「うん」
雄馬の上着ポケット。
繋ぐ手を忍ばせる。
話ながら帰っていく苺佳と雄馬。
2年2組の靴箱に近づく人影。
苺佳たちが校門から出て行く、その背中を見ている。

