○竹若高校・グラウンド(夕)
部活中のサッカー部。
掛け声を出しながら練習している。
○同・2年2組教室(夕)
対峙する形で見つめ合う雄馬と真玲。
苛立ちが露になっている雄馬。
満面の笑みを浮かべる真玲。
苺佳は不安そうな表情をしている。
雄馬「話あるなら、早く話せよ。苺佳だって今日部活あんねんで」
真玲「私だって部活あるよ。でも、誰かさんに頼まれたから、こうして話す場を設けてるんだよ?」
瞬間、表情を暗くする真玲。
真玲「分かってるよね」
立ち尽くす雄馬と苺佳。
真玲は再び笑顔になる。
真玲「私ね、苺佳ちゃんの秘密を知ってるんだ。多分、知ってるのは私と慧聖ぐらいかな。ねえねえ、話してもいい?」
飛び跳ねる真玲。
苺佳の表情が引きつる。
雄馬は呆れ顔。
雄馬「さっさと話せ」
真玲「え~、命令口調じゃ、話さないよ。ちゃーんとお願いしないとダメ」
雄馬に近づく真玲。
舌打ちする雄馬。
嫌々な表情。
雄馬「聞かせてください。お願いします」
嫌々頭を下げる雄馬。
苺佳も遅れて頭を下げる。
真玲「いいよー。それじゃあ、まずは私が気になってること、聞いてもいい?」
今度は苺佳に近づく真玲。
苺佳は一歩下がる。
雄馬が苺佳の前に立つ。
真玲「どいてよ。私は苺佳さんと話がしたいの」
振り向く雄馬。
苺佳「私は大丈夫だから」
雄馬は苺佳の横に立ち直す。
真玲は目から光を消す。
真玲「身の回りで起きてること、思い当たる節あるでしょ?」
苺佳「もしかして、何か知っているの?」
ニヤッとする真玲。
雄馬「まさか」
鋭い眼差しを真玲に向ける雄馬。
真玲はあっけらかんとしている。
真玲「うん。だって、私が犯人なんだもん」
立ち尽くす苺佳。
雄馬「なんでこんなことした!」
真玲「この女が悪いんだよ。いつになっても、雄君から離れようとしないから」
苺佳、前髪の隙間から真玲を見る。
苺佳「でも、あのとき言ってくれたよね? 雄馬にはもう近づかないって」
真玲「は? あれ嘘なんですけど。フンッ、信じたの? 馬ッ鹿じゃない?」
腹を抱え、嘲笑し続ける真玲。
涙目になりかけの苺佳。
雄馬は苺佳の肩を軽く撫でる。
雄馬「お前、よくも俺の大事な苺佳に酷いことしてくれたな」
真玲「酷いことしてるのはどっちよ。雄君も雄君だよ。こんな女とはさっさと別れて、私を選んだほうが得だよ?」
真玲、雄馬の袖口を掴む。
雄馬「お前なんか一生選ばねえ。俺には苺佳がいるからな」
真玲の手を払いのける雄馬。
肩を震わせる苺佳。
雄馬「大丈夫か?」
振り返り、苺佳の顔を見る雄馬。
忍び泣き続ける苺佳。
真玲「ああ、もう! ウザったい。泣けばいいと思いやがって」
大声でがなる真玲。
真玲「ここまでしても離れてくれないのね。じゃあ、何をすれば離れてくれる?」
雄馬「離れる訳ないだろ。お前が諦めろ」
唇を尖らせる真玲。
瞬間、目を見開き、ニヤッと笑う。
真玲「そーだ。この女に関する、とっておきの秘密、教えてあげる。流石の雄君でも引いちゃうんじゃないかな。イヒヒッ」
ひとり、ニヤニヤし続ける真玲。
雄馬「お前の口から聞きたくない。もういいだろ。ほら苺佳、行こ」
雄馬は苺佳の腕を強引に掴む。
真玲「この女、中学のとき何て呼ばれていたか知ってる?」
雄馬が大股で歩いていく。
一緒に歩き始める苺佳。
真玲「中身のない苺」
歩きを止める雄馬。
振り向き、真玲を直視する。
真玲「何でそう呼ばれていたか、気になるんでしょ? 教えてあげる」
一歩ずつ、雄馬に近づいていく真玲。
真玲「この子ね、中学生のとき、男子になら、形振り構わず声をかけていたんだって。見かけによらず尻軽だからってことで、いつしかそう呼ばれるようになってたらしいよ。面白いよね」
真玲は雄馬の前で立ち止まる。
雄馬「笑えん」
歩き出す雄馬と苺佳。
その前に飛び出し、止まる真玲。
真玲「いい加減目覚ませよ。尻軽女と付き合って、何が楽しいの?」
雄馬「お前に分かる訳ないやろ。実際、今日まで俺浮気されたことないし。一途に思ってくれとるし」
真玲「それって、雄君が勝手に思ってることなんじゃないの?」
雄馬「ちゃんと俺らは告白して、付き合っとんねん。部外者が口挟むなや」
雄馬の目は怒りに満ちている。
真玲は冷徹な目をしている。
真玲「それでも諦めないんだ。ふーん。じゃあ、もっととっておきの秘密、暴露しちゃお」
ニヤニヤし続ける真玲。
敵対心むき出しの雄馬。
一方の苺佳は動かないでいる。
真玲「中身がない苺って言われても、反省しなかったんだって。バカ過ぎて笑う」
雄馬「え」
真玲「自業自得なのに、皆のせいして、さらに敵を作り続けたって。ククク。なんで分からないんだって話じゃん?」
嘲笑をする真玲。
雄馬は振り向き、苺佳を見る。
雄馬「苺佳、今の話、本当なのか?」
苺佳「……」
俯き、動かない苺佳。
握る拳は震えている。
苺佳の姿を見て、雄馬は舌打ち。
雄馬「お前いい加減にしろよ。どれだけ苺佳のこと揶揄えば気が済む? なあ、答えろや!」
真玲を睨む雄馬。
真玲「私の気が済む? そんなの、雄君が私のものになってくれなきゃ無理」
雄馬「いい加減にしろ!」
真玲の腕を掴もうとする雄馬。
苺佳、心からの叫び。
苺佳「雄馬、やめて!」
動きをピタッと止める雄馬。
苺佳は顔を上げる。
涙を流し、腫れている瞼。
耳や鼻先、頬が赤い状態。
苺佳「本当のことだよ。当時、私は嫌がらせを受けていたの。それも、今と同じようなことを。でも、全部私が悪いの。だから、内田さんには手を出さないでよ」
一筋の涙を流す苺佳。
雄馬は棒立ちの状態。
鼻で笑い、両手を広げる真玲。
真玲「よーく分かってるじゃん」
雄馬は拳を握り、震わせる。
雄馬「そう、か。そうやったんや」
苺佳「雄馬には、ちゃんと言っておけばよかったね。ごめんね、雄馬」
雄馬「別に、苺佳が悪いわけやないし、俺も訊こうとせんかったから」
目のやり場に困る雄馬。
苺佳はつま先を見つめる。
真玲「どうよ、とっておきの秘密。流石に引いちゃったでしょ」
真玲は口角を上げ、笑う。
苺佳、雄馬の袖口を摘まむ。
苺佳「雄馬、話がしたい。一緒に来てくれないかな」
雄馬は視線をスッと逸らす。
雄馬「ごめん苺佳、今は無理や」
手を離す苺佳。
笑顔で、明るく振る舞う。
苺佳「分かった。それじゃあ、私、帰るね」
雄馬「うん」
リュックを背負う苺佳。
俯き加減で教室を後にする。
立ち尽くす雄馬。
拳を何度も大腿にぶつけていく。
真玲「あー、楽しかった。ヒヒッ」
天を仰ぎ見る真玲。
口角を上げ、ニヤッとする。
○同・廊下(夕)
走っている苺佳。
袖で涙を拭う。
○音楽室(夜)
ベースをケースに戻す関本。
皐月はカーテンを閉めている。
関本「やっぱり来なかったね、いっちゃん」
皐月「しょうがないよ。私とも会いたくないだろうし」
関本「さっちゃんは、いっちゃんと仲直りするよね」
皐月「え」
関本「俺、間挟まれるの苦手だから、仲直りしてよ。DRAGON15のこともあるし、これからのことも、あるから」
照れる関本。
皐月は軽く吹き出して笑う。
関本「ちょ、何笑ってんだよ」
皐月「ううん。何でもない。でも、その通りだね。大丈夫。絶対に苺佳とは仲直りするから」
関本「なら良いけど」
ケースのチャックを閉める関本。
皐月は関本の方へ歩く。
関本「よーし、帰るか」
立ち上がろうとする関本。
皐月が傍に立つ。
皐月「待って」
関本「えっ」
皐月「こっち来て。早く」
皐月は関本の手を引く。
× × ×
個人練習スペースに入る2人。
しゃがみ込む。
関本「どうした?」
皐月「多分、来た」
首を傾げる関本。
× × ×
音楽室に入って来る苺佳。
ケースを手に取り、机に置く。
椅子の上。足を組み、座る。
ギターを取り出し、抱える。
そして弦を押さえる。
溜め息を吐く苺佳。
ドアが開く音。
苺佳の視線の先。
立っている皐月と目が合う。
苺佳「あぁ、なんだ、皐月か」
視線をギターに戻す苺佳。
皐月「なんだ、って。私、一応苺佳とはバンドメンバーなんだけど」
歩いてくる皐月。
苺佳は視線を逸らし続ける。
皐月、苺佳の前で立ち止まる。
苺佳「今日の部活は、もう終わっているよね。どうしたの?」
皐月「苺佳こそ、今日の部活時間終わってるけど、どうしたの?」
苺佳「私は……、ギター取りにきただけ」
皐月「その割には、演奏する気満々に見えたんだけど」
ギターを指す皐月。
苺佳は口を開く。
そして、力強く結ぶ。
皐月「苺佳が入って来るとこ、窓から見てた」
苺佳「あ、なるほど」
足を戻し、立ち上がる苺佳。
ギターを机の上に置く。
そして、ケースに手を伸ばす。
その手を握る皐月。
目を丸くさせる苺佳。
皐月「少しだけ、セッションしよ。今日から2週間は合わせられないし」
苺佳「でも天ちゃんいないから」
皐月「天龍いなくても、合わせる箇所あるじゃん」
苺佳「そうだけど……」
ばつが悪そうな表情をする苺佳。
皐月は苺佳の前に立つ。
苺佳は視線を逸らす。
皐月「仲直りするには、これしかないと思った。推しの話しするよりも、音楽を奏で合ったほうが、早いと思って」
ギターに目線を落とす苺佳。
皐月「お願い。1回でいい、いや、ほんの一小節でもいいから」
苺佳は自然と笑みを浮かべる。
苺佳「一小節って、短過ぎだよ。せめて1曲でもいいからやろう」
皐月「あ、短いよね。ハハハッ」
同時に笑い始める2人。
向かい合い、抱き合う。
皐月「苺佳、あのときはごめん。ムキになってた」
苺佳「私のほうこそ、ごめん。皐月が心配してくれていることは分かっていたのに、素直になれなかった」
皐月「ううん」
互いの服に皺が寄っていく。
皐月「苺佳、私と仲直り、して欲しい」
苺佳「もちろん。仲直りするに決まっているでしょ」
さらに強く抱き合う2人。
ドアが開く。
関本「あのー、終わった?」
関本は右手を軽く挙げる。
苺佳「えっ、天ちゃん!?」
皐月「足音したから隠れてて。まあもし苺佳と喧嘩したとき、間に入ってもらうつもりでもいたし」
苺佳「あー。え、皐月、私と殴り合いの喧嘩でも、するつもりだったの?」
皐月「無理。ってか、殴り合いって……、内申点響いて、私ら終わりじゃん」
笑顔を浮かべ合う苺佳と皐月。
苦笑いしながら近づく関本。
関本「まあ、その様子だと、俺は要らなかったみたいだな」
フッと笑う皐月。
関本も笑顔を浮かべる。
苺佳、皐月と関本に視線を合わせる。
苺佳「皐月、天ちゃん、今日部活サボってごめん」
頭を下げる苺佳。
皐月と関本はニコッとする。
顔を上げる苺佳。
苺佳「また、テスト明けから、よろしくお願いします」
皐月「任して」
関本「リーダーが休んだんだから、ちゃんと練習してよ」
皐月「今までに10回も練習拒否した天龍が偉そうな口で言わないの!」
関本「チェッ」
唇を尖らせる関本。
皐月と苺佳は笑い声を上げる。
苺佳N「このあと、1曲だけセッションして、そのまま別れた。試験後に、また集まろうと言って」
○同・2年2組教室
試験中の生徒たち。
黒板には書かれてある文字。
現代文9:00~9:50、数Ⅱ10:00~10:50の表記。
苺佳N「私は、いつまた嫌がらせを受けるか分からない状況の中でテストを受けた」
教員の宮田が見回りをしている。
真剣な目付きの苺佳。
用紙に回答を記入していく。
苺佳N「試験当日まで、今まで通りとはいかなかった。そして私は、結果に一抹の不安を抱えながら、最後の試験問題を解いた」
× × ×
(時間経過)
チャイムが鳴る。
宮田「はい、ペン置いて。後列の人、集めてきて」
回答用紙を集める生徒たち。
息を吐く苺佳。
雄馬はチラチラと苺佳に視線を送る。
苺佳は左側ばかりを見続ける。
テスト用紙の枚数を確認する宮田。
宮田「はい。終わり」
各々、立ち上がる生徒たち。
嘆いたり、喜んだりし始める。
苺佳は早々に筆記用具を手に取る。
そして、ロッカーにリュックを取りに行く。
苺佳に後ろから近づく皐月。
皐月「やっほー、お疲れ!」
苺佳の両肩に手を乗せる皐月。
ビクンと跳ねる苺佳。
笑顔で振り向く。
苺佳「びっくりした。ふふっ。お疲れ」
苺佳の隣に付く皐月。
皐月「苺佳、できた?」
苺佳「うーん、微妙だな」
皐月「私もだよ」
リュックに荷物を詰める苺佳。
皐月は苺佳の隣に立つ。
皐月「あのさ」
苺佳「何?」
苺佳の耳元へ口を近づける皐月。
皐月「雄馬君とは、仲直りしないの?」
苺佳「うーん、無理」
皐月「えっ、諦めるの早ッ」
驚き、目を見開く皐月。
苺佳は微かに笑う。
苺佳「まあどこかのタイミングで仲直りすると思うから」
皐月「ふーん」
リュックのチャックを閉める苺佳。
苺佳「早く練習行くよ」
リュックを背負いながら言う苺佳。
手にギターケースを持つ。
皐月「んー、りょーかい」
教室を出て行く生徒たち。
リュックに荷物を詰める皐月。
雄馬は苺佳のことを見ては、視線を逸らす。
苺佳も、ばつが悪そうにする。
皐月「お待たせ」
苺佳「うん」
揃って教室を出て行く苺佳と皐月。
雄馬は視線で苺佳を追う。
そして拳を握る。
雄馬「くそっ」
拳を震わせる。
○野茂家・苺佳の部屋(夜)
体育座りをしている苺佳。
机の上。画面が消えているスマホ。
苺佳、画面をタップする。
18:25の表示。
瞬間、画面の下に表示されるメッセージ。
雄馬(声)「テスト、お疲れ様」
画面を消す苺佳。
仰向けにゆっくり倒れる。
天井を眺める苺佳。
溜め息を吐く。
再び画面が光る。
雄馬からのメッセージが表示される。
近づいてくる足音。
苺佳の部屋の前で止まる。
純黎(声)「苺佳、ご飯よ」
起き上がる苺佳。
苺佳「はい。今行きます」
スマホを残し、部屋を出る。
○竹若高校・生徒玄関(翌週)(小雨)
傘をさして歩いてくる苺佳。
和柄のデザイン。
入るなり、傘を閉じる。
そして、傘立てに置く。
靴を脱いでいく苺佳。
走って来る足音。
皐月「おはよー、苺佳!」
苺佳、振り返る。
笑顔で立つ皐月の姿。
苺佳は軽く手を振る。
苺佳「おはよう。走って来たの?」
皐月「来てる途中で降り出したから」
苺佳「じゃあ、なんで傘、ささないの?」
皐月「面倒だった! ハハハ」
制服に付く水滴を拭く皐月。
苺佳も笑顔になる。
○同・2年2組教室(曇り)
着席している生徒たち。
各々で読書をしている。
苺佳は少し頬をゆるませる。
苺佳N「試験が終わった翌週。嫌がらせが止まって約2週間のタイミング。教室では、テストの返却が始まろうとしていた」
× × ×
着席している生徒たち。
苺佳はテスト用紙を眺める。
現代文の回答用紙。85点の表記。
宮田「学年1位の点数は90点。2組の最高は85点。平均点は――」
× × ×
着席している生徒たち。
苺佳はテスト用紙を眺める。
世界史の回答用紙。77点の表記。
溜め息を吐く。
雄馬はテスト用紙を折り畳む。
透けている点数。91の表記。
城山「学年及び2組の最高得点は同じ。91だ。ただ、平均点は60点と今年イチ最低だった。だからな、今から――」
× × ×
着席している生徒たち。
教壇前の幸子。
生徒に回答用紙を手渡していく。
幸子「ハイ次、野茂ちゃん」
立ち上がる野茂。
歩いて教壇の方へ向かう。
幸子「はい」
テスト用紙を渡す幸子。
野茂は恐る恐る受け取る。
野茂「ありがとうございます」
幸子「例の件があったけど、よく頑張ったね。学年でもクラスでも1位だったよ」
若干名、ザワザワとする。
雄馬は嬉しそうに微笑む。
目もくれず、自分の席に座る苺佳。
テスト用紙。100点と幸子のコメントが表記されている。
安堵の表情の苺佳。
壁掛けの時計。
11時15分をさしている。
× × ×
(時間経過)
壁掛けの時計。
12時ちょうどをさしている。
皐月の机の上。
置かれているのは、苺佳の弁当箱と、ジャムパン2個とサラダ。
ハンカチで手を拭く苺佳。
椅子に座る。
苺佳「あー、お腹空いた」
遅れて座る皐月。
皐月「だねー」
弁当箱の蓋を開ける苺佳。
詰められている白米とおかず4種類。
苺佳「いただきます」
箸でおかずを掴む苺佳。
そして口に入れ、微笑む。
皐月はパンの封を開ける。
皐月「いただきます」
袋から出し、豪快に齧りつく。
皐月「んーま」
苺佳「皐月って、ホントそのパン好きだよね」
皐月「うん。小学生の頃から、一途に恋してるパンだからね」
皐月は大きな口を開けて頬張る。
もう1個のジャムパンを手に取る苺佳。
軽く微笑む。
苺佳「そういえば昔、雄馬とよく食べていたなぁ」
にやける苺佳。
皐月、食べる手を止める。
皐月「やっぱり、苺佳、雄馬君と仲直りしたいんじゃないの?」
苺佳「うーん、どうだろ」
皐月「そうやって、気にしてないフリしてるけどさ、顔に出ちゃってるよ。幸せだったなオーラが」
苺佳「えっ、嘘」
両頬を手で挟む苺佳。
皐月はニコリと笑う。
皐月「何事も早く終結させた方がいいよ。後々面倒になるから」
苺佳「そうだよね。でも、何て話かけたらいいかな」
皐月「いつもみたいにすればいいじゃん。気心知れてる幼馴染なんだし」
苺佳「そうだけど……」
頬を赤らめる苺佳。
照れ笑いする。
皐月「何なら今呼んであげようか?」
立ち上がろうとする皐月。
皐月の両腕を引っ張る苺佳。
首を横に振る。
苺佳「い、いい! ちゃんと、自分で声掛けるから!」
焦り顔の苺佳。
皐月は笑顔を浮かべる。
皐月「そんな慌てなくてもいいのに」
笑い合う2人。
× × ×
苺佳と皐月を見ている雄馬。
スマホの画面を見る。
苺佳とのトーク画面が表示される。
雄馬が送信しているメッセージ。
既読マークのみが付いている。
画面を消す雄馬。
フッと短い息を吐く。
× × ×
エナジードリンクを飲んでいる真玲。
その真向かいに座る慧聖。
少し怯えている様子でいる。
小さな口で麺を啜っていく。
真玲の目はつり上がっている。
視線の先に映るのは、会話している苺佳の背中。
ドリンクを飲み干す真玲。
机に、力強く空の瓶を置く。
真玲M「また始めるとしよう」
口角を上げ、ニヤッとする。
○同・廊下(夕)(曇り)
音楽室のプレートが出ている。
聞こえてくる演奏と苺佳の歌声。
○同・音楽室(夕)(曇り)
演奏中の苺佳、皐月、関本。
顔を見合わせ、微笑み合う。
苺佳N「皐月と喧嘩……とまではいかない言い争いをしたことが、馬鹿だったと思えるぐらい、この瞬間は楽しいものだった」
壁掛け時計の針。
16時40分をさしている。
○同・生徒玄関(夕)(曇り)
壁掛けの時計の針。
16時40分をさしている。
傘立てを物色している真玲。
慧聖は後ろから見ている。
真玲「ねえ、傘、どれ?」
慧聖「えっと、その白い持ち手のが――」
真玲「(遮って)慧聖のじゃない。奴の」
目をぱちぱちさせる慧聖。
真玲「早く」
慧聖を睨む真玲。
後ろから顔を覗かせる慧聖。
和柄(花)の傘を指す。
慧聖「これだよ」
真玲、傘を手に取る。
そして、じっくり眺める。
真玲「ふーん」
慧聖「それ、どうするの?」
ニコッと微笑む真玲。
自分の傘を手に、出て行く真玲。
慧聖も後を追って出て行く。
○コンビニ・店内(夕)(曇り)
コンビニの制服を着ている雄馬。
加藤のネームプレート。
プレートには初心者マークが貼られている。
レジに立っている。
雄馬のレジにカゴを置く男性客。
雄馬「らっしゃいませー。お預かりしまーす」
レジ打ちする雄馬。
男性客は無言を貫く。
雄馬「954円になります。あ、ポイントカードはお持ちでしょうか?」
ポイントカードを取り出す客。
雨が降り出す音。
カードのスキャン音が鳴る。
店長(声)「あらら、降り出しちゃったわね」
女性客(声)「本当ね」
店長(声)「足元気を付けて帰ってね」
女性客(声)「ありがとう」
雄馬(声)「ありがとうございましたー」
袋を手に出て行く男性客。
自動ドアが開く。
雄馬は外を眺める。
雄馬「降り出すん、早いな」
駆けこんでくる女性客。
ビニール傘を手にレジへ。
雄馬「らっしゃいませー。お預かりしまーす」
○同・音楽室(夕)(雨)
片づけをしている苺佳、皐月、関本。
突然、激しく降り始める雨。
立ち上がる皐月と関本。
窓から外を眺める。
皐月「うわー、降り始めたー。帰り自転車なのに。めんどっ」
苺佳「自転車なのはいつものことでしょ」
皐月「そーだけどさー」
振り返り、苺佳を見る皐月。
関本「でもさ、あそこ行くだろ?」
皐月「まあね」
仰け反り、苺佳を見る関本。
関本「いっちゃんも、行くだろぉー?」
苺佳「ごめん、今日私用事があって」
手を合わせる苺佳。
関本「え~、打ち上げしよーって言ってたのに」
唇を尖らせ、拗ねる関本。
関本の頬を抓る皐月。
関本は口を広げて痛がる。
皐月「天龍、そうやってすぐいじけない。仕方ないじゃん。家の用事でしょ?」
苺佳「うん。ホントごめんね。どうしても外せない用事なの。今度また誘って」
皐月はまだ関本の頬を摘まんでいる。
関本「わかりゃひた」
ギターケースのチャックを閉める苺佳。
ケースを関本に手渡す。
苺佳「ごめん、天ちゃん、これ戻しておいて」
関本「んー」
ケースを受け取る関本。
皐月、苺佳に手を振る。
皐月「じゃあ、また来週」
苺佳「うん。バイバイ」
関本も手を振る。
手を振りながら教室を出る苺佳。
そのまま歩いていく。
○同・生徒玄関(夕)(雨)
激しい雨が降っている。
上履きを脱いでいる苺佳。
スマホを手に持っている。
靴を履き、傘立てに向かう。
傘立てに立つ3本の傘。
苺佳はキョロキョロする。
苺佳「あれ、ない……?」
他のクラスの傘立ても見る苺佳。
溜め息を吐く苺佳。
苺佳「仕方ない……か」
走って玄関を出て行く苺佳。
雨の中、1人走って帰る。
○コンビニ・店内(夜)(雨)
客がいない店内。
商品の品出しをする雄馬。
歩み寄る店長。
店長「お疲れ様。それ並べ終えたら、もう上がっていいわよ」
雄馬「いやでも、まだ次のシフトの人、来てないですよね」
店長「大丈夫。雨が降るとね、この店、お客さん来なくなるから。それまでは私1人でも問題ない」
雄馬に微笑み掛ける店長。
雄馬「そう、ですか。分かりました」
○同・バックヤード(夜)(雨)
学校の制服に着替える雄馬。
リュックを肩にかける。
そして傘を手に持つ。
ロッカーの扉を閉める。
そして出て行く。
○雄馬の家・外観(夜)(雨)
傘をささずに立つ苺佳。
髪の毛、服共にずぶ濡れ。
手を合わせ、息を吹きかける苺佳。
ポッケからスマホを取り出す。
画面に雨粒が付いていく。
スマホの画面を見る苺佳。
画面。20:15の表示。
苺佳「寒い……」
身震いする苺佳。
傘をさして歩いてくる雄馬。
立ち止まり、すっと顔を上げる。
ずぶ濡れの苺佳と目が合う。
雄馬「苺佳!?」
駆け寄り、傘を差し出す。
苺佳「雄馬……」
水滴を髪から落とす苺佳。
雄馬「えっ、苺佳、傘は!?」
苺佳「無かったんだよね……」
雄馬「もしかして、盗られたんか?」
視線を逸らす苺佳。
雄馬は溜め息を吐く。
雄馬「めっちゃ濡れとるけど、いつから待ったん」
苺佳「えへへ……」
苦笑いをする苺佳。
雄馬は苺佳の頬に触れる。
雄馬「冷えてるやん。そのままやと風邪ひくから、とりあえず、俺の家に――」
苺佳「雄馬、本当にごめん」
頭を下げる苺佳。
雄馬は手で苺佳の頭を撫でる。
雄馬「今は謝らんでいいから、とりあえず家入って。な?」
苺佳の手を掴む雄馬。
棒立ちし続ける苺佳。
俯く。
髪の毛から雫が滴り落ちていく。
苺佳「私、唯一の幼馴染の雄馬にずっと黙っていたの。許されるわけがない。だから、家にも行けないよ。ごめんね」
雄馬「苺佳」
雄馬の手を離す苺佳。
顔を上げ、薄ら笑い。
苺佳「私、家に帰るね。ごめんね、雨の中引き留めちゃって。バイトお疲れ様。それじゃ」
苺佳、踵を返す。
再び雨に濡れ始める苺佳。
雄馬「苺佳、待ってや!」
苺佳の後を追って走る雄馬。
苺佳「来ないで」
振り向かない苺佳。
立ち止まる雄馬。
苺佳「ごめん。ごめんね、雄馬」
歩き始める苺佳。
雄馬は俯く。
そして、悔し涙を流し始める。
傘に大粒の雨が当たる。
雄馬の目の前、ドサッという音。
顔を上げる雄馬。
道路に倒れている苺佳。
雄馬「苺佳!?」
投げ捨てられる傘。
雄馬は駆け寄る。
ぐったりとしている苺佳。
ずぶ濡れの苺佳を抱き上げる雄馬。
雄馬「苺佳、苺佳!!」
2人に強い雨が打ち付ける。
部活中のサッカー部。
掛け声を出しながら練習している。
○同・2年2組教室(夕)
対峙する形で見つめ合う雄馬と真玲。
苛立ちが露になっている雄馬。
満面の笑みを浮かべる真玲。
苺佳は不安そうな表情をしている。
雄馬「話あるなら、早く話せよ。苺佳だって今日部活あんねんで」
真玲「私だって部活あるよ。でも、誰かさんに頼まれたから、こうして話す場を設けてるんだよ?」
瞬間、表情を暗くする真玲。
真玲「分かってるよね」
立ち尽くす雄馬と苺佳。
真玲は再び笑顔になる。
真玲「私ね、苺佳ちゃんの秘密を知ってるんだ。多分、知ってるのは私と慧聖ぐらいかな。ねえねえ、話してもいい?」
飛び跳ねる真玲。
苺佳の表情が引きつる。
雄馬は呆れ顔。
雄馬「さっさと話せ」
真玲「え~、命令口調じゃ、話さないよ。ちゃーんとお願いしないとダメ」
雄馬に近づく真玲。
舌打ちする雄馬。
嫌々な表情。
雄馬「聞かせてください。お願いします」
嫌々頭を下げる雄馬。
苺佳も遅れて頭を下げる。
真玲「いいよー。それじゃあ、まずは私が気になってること、聞いてもいい?」
今度は苺佳に近づく真玲。
苺佳は一歩下がる。
雄馬が苺佳の前に立つ。
真玲「どいてよ。私は苺佳さんと話がしたいの」
振り向く雄馬。
苺佳「私は大丈夫だから」
雄馬は苺佳の横に立ち直す。
真玲は目から光を消す。
真玲「身の回りで起きてること、思い当たる節あるでしょ?」
苺佳「もしかして、何か知っているの?」
ニヤッとする真玲。
雄馬「まさか」
鋭い眼差しを真玲に向ける雄馬。
真玲はあっけらかんとしている。
真玲「うん。だって、私が犯人なんだもん」
立ち尽くす苺佳。
雄馬「なんでこんなことした!」
真玲「この女が悪いんだよ。いつになっても、雄君から離れようとしないから」
苺佳、前髪の隙間から真玲を見る。
苺佳「でも、あのとき言ってくれたよね? 雄馬にはもう近づかないって」
真玲「は? あれ嘘なんですけど。フンッ、信じたの? 馬ッ鹿じゃない?」
腹を抱え、嘲笑し続ける真玲。
涙目になりかけの苺佳。
雄馬は苺佳の肩を軽く撫でる。
雄馬「お前、よくも俺の大事な苺佳に酷いことしてくれたな」
真玲「酷いことしてるのはどっちよ。雄君も雄君だよ。こんな女とはさっさと別れて、私を選んだほうが得だよ?」
真玲、雄馬の袖口を掴む。
雄馬「お前なんか一生選ばねえ。俺には苺佳がいるからな」
真玲の手を払いのける雄馬。
肩を震わせる苺佳。
雄馬「大丈夫か?」
振り返り、苺佳の顔を見る雄馬。
忍び泣き続ける苺佳。
真玲「ああ、もう! ウザったい。泣けばいいと思いやがって」
大声でがなる真玲。
真玲「ここまでしても離れてくれないのね。じゃあ、何をすれば離れてくれる?」
雄馬「離れる訳ないだろ。お前が諦めろ」
唇を尖らせる真玲。
瞬間、目を見開き、ニヤッと笑う。
真玲「そーだ。この女に関する、とっておきの秘密、教えてあげる。流石の雄君でも引いちゃうんじゃないかな。イヒヒッ」
ひとり、ニヤニヤし続ける真玲。
雄馬「お前の口から聞きたくない。もういいだろ。ほら苺佳、行こ」
雄馬は苺佳の腕を強引に掴む。
真玲「この女、中学のとき何て呼ばれていたか知ってる?」
雄馬が大股で歩いていく。
一緒に歩き始める苺佳。
真玲「中身のない苺」
歩きを止める雄馬。
振り向き、真玲を直視する。
真玲「何でそう呼ばれていたか、気になるんでしょ? 教えてあげる」
一歩ずつ、雄馬に近づいていく真玲。
真玲「この子ね、中学生のとき、男子になら、形振り構わず声をかけていたんだって。見かけによらず尻軽だからってことで、いつしかそう呼ばれるようになってたらしいよ。面白いよね」
真玲は雄馬の前で立ち止まる。
雄馬「笑えん」
歩き出す雄馬と苺佳。
その前に飛び出し、止まる真玲。
真玲「いい加減目覚ませよ。尻軽女と付き合って、何が楽しいの?」
雄馬「お前に分かる訳ないやろ。実際、今日まで俺浮気されたことないし。一途に思ってくれとるし」
真玲「それって、雄君が勝手に思ってることなんじゃないの?」
雄馬「ちゃんと俺らは告白して、付き合っとんねん。部外者が口挟むなや」
雄馬の目は怒りに満ちている。
真玲は冷徹な目をしている。
真玲「それでも諦めないんだ。ふーん。じゃあ、もっととっておきの秘密、暴露しちゃお」
ニヤニヤし続ける真玲。
敵対心むき出しの雄馬。
一方の苺佳は動かないでいる。
真玲「中身がない苺って言われても、反省しなかったんだって。バカ過ぎて笑う」
雄馬「え」
真玲「自業自得なのに、皆のせいして、さらに敵を作り続けたって。ククク。なんで分からないんだって話じゃん?」
嘲笑をする真玲。
雄馬は振り向き、苺佳を見る。
雄馬「苺佳、今の話、本当なのか?」
苺佳「……」
俯き、動かない苺佳。
握る拳は震えている。
苺佳の姿を見て、雄馬は舌打ち。
雄馬「お前いい加減にしろよ。どれだけ苺佳のこと揶揄えば気が済む? なあ、答えろや!」
真玲を睨む雄馬。
真玲「私の気が済む? そんなの、雄君が私のものになってくれなきゃ無理」
雄馬「いい加減にしろ!」
真玲の腕を掴もうとする雄馬。
苺佳、心からの叫び。
苺佳「雄馬、やめて!」
動きをピタッと止める雄馬。
苺佳は顔を上げる。
涙を流し、腫れている瞼。
耳や鼻先、頬が赤い状態。
苺佳「本当のことだよ。当時、私は嫌がらせを受けていたの。それも、今と同じようなことを。でも、全部私が悪いの。だから、内田さんには手を出さないでよ」
一筋の涙を流す苺佳。
雄馬は棒立ちの状態。
鼻で笑い、両手を広げる真玲。
真玲「よーく分かってるじゃん」
雄馬は拳を握り、震わせる。
雄馬「そう、か。そうやったんや」
苺佳「雄馬には、ちゃんと言っておけばよかったね。ごめんね、雄馬」
雄馬「別に、苺佳が悪いわけやないし、俺も訊こうとせんかったから」
目のやり場に困る雄馬。
苺佳はつま先を見つめる。
真玲「どうよ、とっておきの秘密。流石に引いちゃったでしょ」
真玲は口角を上げ、笑う。
苺佳、雄馬の袖口を摘まむ。
苺佳「雄馬、話がしたい。一緒に来てくれないかな」
雄馬は視線をスッと逸らす。
雄馬「ごめん苺佳、今は無理や」
手を離す苺佳。
笑顔で、明るく振る舞う。
苺佳「分かった。それじゃあ、私、帰るね」
雄馬「うん」
リュックを背負う苺佳。
俯き加減で教室を後にする。
立ち尽くす雄馬。
拳を何度も大腿にぶつけていく。
真玲「あー、楽しかった。ヒヒッ」
天を仰ぎ見る真玲。
口角を上げ、ニヤッとする。
○同・廊下(夕)
走っている苺佳。
袖で涙を拭う。
○音楽室(夜)
ベースをケースに戻す関本。
皐月はカーテンを閉めている。
関本「やっぱり来なかったね、いっちゃん」
皐月「しょうがないよ。私とも会いたくないだろうし」
関本「さっちゃんは、いっちゃんと仲直りするよね」
皐月「え」
関本「俺、間挟まれるの苦手だから、仲直りしてよ。DRAGON15のこともあるし、これからのことも、あるから」
照れる関本。
皐月は軽く吹き出して笑う。
関本「ちょ、何笑ってんだよ」
皐月「ううん。何でもない。でも、その通りだね。大丈夫。絶対に苺佳とは仲直りするから」
関本「なら良いけど」
ケースのチャックを閉める関本。
皐月は関本の方へ歩く。
関本「よーし、帰るか」
立ち上がろうとする関本。
皐月が傍に立つ。
皐月「待って」
関本「えっ」
皐月「こっち来て。早く」
皐月は関本の手を引く。
× × ×
個人練習スペースに入る2人。
しゃがみ込む。
関本「どうした?」
皐月「多分、来た」
首を傾げる関本。
× × ×
音楽室に入って来る苺佳。
ケースを手に取り、机に置く。
椅子の上。足を組み、座る。
ギターを取り出し、抱える。
そして弦を押さえる。
溜め息を吐く苺佳。
ドアが開く音。
苺佳の視線の先。
立っている皐月と目が合う。
苺佳「あぁ、なんだ、皐月か」
視線をギターに戻す苺佳。
皐月「なんだ、って。私、一応苺佳とはバンドメンバーなんだけど」
歩いてくる皐月。
苺佳は視線を逸らし続ける。
皐月、苺佳の前で立ち止まる。
苺佳「今日の部活は、もう終わっているよね。どうしたの?」
皐月「苺佳こそ、今日の部活時間終わってるけど、どうしたの?」
苺佳「私は……、ギター取りにきただけ」
皐月「その割には、演奏する気満々に見えたんだけど」
ギターを指す皐月。
苺佳は口を開く。
そして、力強く結ぶ。
皐月「苺佳が入って来るとこ、窓から見てた」
苺佳「あ、なるほど」
足を戻し、立ち上がる苺佳。
ギターを机の上に置く。
そして、ケースに手を伸ばす。
その手を握る皐月。
目を丸くさせる苺佳。
皐月「少しだけ、セッションしよ。今日から2週間は合わせられないし」
苺佳「でも天ちゃんいないから」
皐月「天龍いなくても、合わせる箇所あるじゃん」
苺佳「そうだけど……」
ばつが悪そうな表情をする苺佳。
皐月は苺佳の前に立つ。
苺佳は視線を逸らす。
皐月「仲直りするには、これしかないと思った。推しの話しするよりも、音楽を奏で合ったほうが、早いと思って」
ギターに目線を落とす苺佳。
皐月「お願い。1回でいい、いや、ほんの一小節でもいいから」
苺佳は自然と笑みを浮かべる。
苺佳「一小節って、短過ぎだよ。せめて1曲でもいいからやろう」
皐月「あ、短いよね。ハハハッ」
同時に笑い始める2人。
向かい合い、抱き合う。
皐月「苺佳、あのときはごめん。ムキになってた」
苺佳「私のほうこそ、ごめん。皐月が心配してくれていることは分かっていたのに、素直になれなかった」
皐月「ううん」
互いの服に皺が寄っていく。
皐月「苺佳、私と仲直り、して欲しい」
苺佳「もちろん。仲直りするに決まっているでしょ」
さらに強く抱き合う2人。
ドアが開く。
関本「あのー、終わった?」
関本は右手を軽く挙げる。
苺佳「えっ、天ちゃん!?」
皐月「足音したから隠れてて。まあもし苺佳と喧嘩したとき、間に入ってもらうつもりでもいたし」
苺佳「あー。え、皐月、私と殴り合いの喧嘩でも、するつもりだったの?」
皐月「無理。ってか、殴り合いって……、内申点響いて、私ら終わりじゃん」
笑顔を浮かべ合う苺佳と皐月。
苦笑いしながら近づく関本。
関本「まあ、その様子だと、俺は要らなかったみたいだな」
フッと笑う皐月。
関本も笑顔を浮かべる。
苺佳、皐月と関本に視線を合わせる。
苺佳「皐月、天ちゃん、今日部活サボってごめん」
頭を下げる苺佳。
皐月と関本はニコッとする。
顔を上げる苺佳。
苺佳「また、テスト明けから、よろしくお願いします」
皐月「任して」
関本「リーダーが休んだんだから、ちゃんと練習してよ」
皐月「今までに10回も練習拒否した天龍が偉そうな口で言わないの!」
関本「チェッ」
唇を尖らせる関本。
皐月と苺佳は笑い声を上げる。
苺佳N「このあと、1曲だけセッションして、そのまま別れた。試験後に、また集まろうと言って」
○同・2年2組教室
試験中の生徒たち。
黒板には書かれてある文字。
現代文9:00~9:50、数Ⅱ10:00~10:50の表記。
苺佳N「私は、いつまた嫌がらせを受けるか分からない状況の中でテストを受けた」
教員の宮田が見回りをしている。
真剣な目付きの苺佳。
用紙に回答を記入していく。
苺佳N「試験当日まで、今まで通りとはいかなかった。そして私は、結果に一抹の不安を抱えながら、最後の試験問題を解いた」
× × ×
(時間経過)
チャイムが鳴る。
宮田「はい、ペン置いて。後列の人、集めてきて」
回答用紙を集める生徒たち。
息を吐く苺佳。
雄馬はチラチラと苺佳に視線を送る。
苺佳は左側ばかりを見続ける。
テスト用紙の枚数を確認する宮田。
宮田「はい。終わり」
各々、立ち上がる生徒たち。
嘆いたり、喜んだりし始める。
苺佳は早々に筆記用具を手に取る。
そして、ロッカーにリュックを取りに行く。
苺佳に後ろから近づく皐月。
皐月「やっほー、お疲れ!」
苺佳の両肩に手を乗せる皐月。
ビクンと跳ねる苺佳。
笑顔で振り向く。
苺佳「びっくりした。ふふっ。お疲れ」
苺佳の隣に付く皐月。
皐月「苺佳、できた?」
苺佳「うーん、微妙だな」
皐月「私もだよ」
リュックに荷物を詰める苺佳。
皐月は苺佳の隣に立つ。
皐月「あのさ」
苺佳「何?」
苺佳の耳元へ口を近づける皐月。
皐月「雄馬君とは、仲直りしないの?」
苺佳「うーん、無理」
皐月「えっ、諦めるの早ッ」
驚き、目を見開く皐月。
苺佳は微かに笑う。
苺佳「まあどこかのタイミングで仲直りすると思うから」
皐月「ふーん」
リュックのチャックを閉める苺佳。
苺佳「早く練習行くよ」
リュックを背負いながら言う苺佳。
手にギターケースを持つ。
皐月「んー、りょーかい」
教室を出て行く生徒たち。
リュックに荷物を詰める皐月。
雄馬は苺佳のことを見ては、視線を逸らす。
苺佳も、ばつが悪そうにする。
皐月「お待たせ」
苺佳「うん」
揃って教室を出て行く苺佳と皐月。
雄馬は視線で苺佳を追う。
そして拳を握る。
雄馬「くそっ」
拳を震わせる。
○野茂家・苺佳の部屋(夜)
体育座りをしている苺佳。
机の上。画面が消えているスマホ。
苺佳、画面をタップする。
18:25の表示。
瞬間、画面の下に表示されるメッセージ。
雄馬(声)「テスト、お疲れ様」
画面を消す苺佳。
仰向けにゆっくり倒れる。
天井を眺める苺佳。
溜め息を吐く。
再び画面が光る。
雄馬からのメッセージが表示される。
近づいてくる足音。
苺佳の部屋の前で止まる。
純黎(声)「苺佳、ご飯よ」
起き上がる苺佳。
苺佳「はい。今行きます」
スマホを残し、部屋を出る。
○竹若高校・生徒玄関(翌週)(小雨)
傘をさして歩いてくる苺佳。
和柄のデザイン。
入るなり、傘を閉じる。
そして、傘立てに置く。
靴を脱いでいく苺佳。
走って来る足音。
皐月「おはよー、苺佳!」
苺佳、振り返る。
笑顔で立つ皐月の姿。
苺佳は軽く手を振る。
苺佳「おはよう。走って来たの?」
皐月「来てる途中で降り出したから」
苺佳「じゃあ、なんで傘、ささないの?」
皐月「面倒だった! ハハハ」
制服に付く水滴を拭く皐月。
苺佳も笑顔になる。
○同・2年2組教室(曇り)
着席している生徒たち。
各々で読書をしている。
苺佳は少し頬をゆるませる。
苺佳N「試験が終わった翌週。嫌がらせが止まって約2週間のタイミング。教室では、テストの返却が始まろうとしていた」
× × ×
着席している生徒たち。
苺佳はテスト用紙を眺める。
現代文の回答用紙。85点の表記。
宮田「学年1位の点数は90点。2組の最高は85点。平均点は――」
× × ×
着席している生徒たち。
苺佳はテスト用紙を眺める。
世界史の回答用紙。77点の表記。
溜め息を吐く。
雄馬はテスト用紙を折り畳む。
透けている点数。91の表記。
城山「学年及び2組の最高得点は同じ。91だ。ただ、平均点は60点と今年イチ最低だった。だからな、今から――」
× × ×
着席している生徒たち。
教壇前の幸子。
生徒に回答用紙を手渡していく。
幸子「ハイ次、野茂ちゃん」
立ち上がる野茂。
歩いて教壇の方へ向かう。
幸子「はい」
テスト用紙を渡す幸子。
野茂は恐る恐る受け取る。
野茂「ありがとうございます」
幸子「例の件があったけど、よく頑張ったね。学年でもクラスでも1位だったよ」
若干名、ザワザワとする。
雄馬は嬉しそうに微笑む。
目もくれず、自分の席に座る苺佳。
テスト用紙。100点と幸子のコメントが表記されている。
安堵の表情の苺佳。
壁掛けの時計。
11時15分をさしている。
× × ×
(時間経過)
壁掛けの時計。
12時ちょうどをさしている。
皐月の机の上。
置かれているのは、苺佳の弁当箱と、ジャムパン2個とサラダ。
ハンカチで手を拭く苺佳。
椅子に座る。
苺佳「あー、お腹空いた」
遅れて座る皐月。
皐月「だねー」
弁当箱の蓋を開ける苺佳。
詰められている白米とおかず4種類。
苺佳「いただきます」
箸でおかずを掴む苺佳。
そして口に入れ、微笑む。
皐月はパンの封を開ける。
皐月「いただきます」
袋から出し、豪快に齧りつく。
皐月「んーま」
苺佳「皐月って、ホントそのパン好きだよね」
皐月「うん。小学生の頃から、一途に恋してるパンだからね」
皐月は大きな口を開けて頬張る。
もう1個のジャムパンを手に取る苺佳。
軽く微笑む。
苺佳「そういえば昔、雄馬とよく食べていたなぁ」
にやける苺佳。
皐月、食べる手を止める。
皐月「やっぱり、苺佳、雄馬君と仲直りしたいんじゃないの?」
苺佳「うーん、どうだろ」
皐月「そうやって、気にしてないフリしてるけどさ、顔に出ちゃってるよ。幸せだったなオーラが」
苺佳「えっ、嘘」
両頬を手で挟む苺佳。
皐月はニコリと笑う。
皐月「何事も早く終結させた方がいいよ。後々面倒になるから」
苺佳「そうだよね。でも、何て話かけたらいいかな」
皐月「いつもみたいにすればいいじゃん。気心知れてる幼馴染なんだし」
苺佳「そうだけど……」
頬を赤らめる苺佳。
照れ笑いする。
皐月「何なら今呼んであげようか?」
立ち上がろうとする皐月。
皐月の両腕を引っ張る苺佳。
首を横に振る。
苺佳「い、いい! ちゃんと、自分で声掛けるから!」
焦り顔の苺佳。
皐月は笑顔を浮かべる。
皐月「そんな慌てなくてもいいのに」
笑い合う2人。
× × ×
苺佳と皐月を見ている雄馬。
スマホの画面を見る。
苺佳とのトーク画面が表示される。
雄馬が送信しているメッセージ。
既読マークのみが付いている。
画面を消す雄馬。
フッと短い息を吐く。
× × ×
エナジードリンクを飲んでいる真玲。
その真向かいに座る慧聖。
少し怯えている様子でいる。
小さな口で麺を啜っていく。
真玲の目はつり上がっている。
視線の先に映るのは、会話している苺佳の背中。
ドリンクを飲み干す真玲。
机に、力強く空の瓶を置く。
真玲M「また始めるとしよう」
口角を上げ、ニヤッとする。
○同・廊下(夕)(曇り)
音楽室のプレートが出ている。
聞こえてくる演奏と苺佳の歌声。
○同・音楽室(夕)(曇り)
演奏中の苺佳、皐月、関本。
顔を見合わせ、微笑み合う。
苺佳N「皐月と喧嘩……とまではいかない言い争いをしたことが、馬鹿だったと思えるぐらい、この瞬間は楽しいものだった」
壁掛け時計の針。
16時40分をさしている。
○同・生徒玄関(夕)(曇り)
壁掛けの時計の針。
16時40分をさしている。
傘立てを物色している真玲。
慧聖は後ろから見ている。
真玲「ねえ、傘、どれ?」
慧聖「えっと、その白い持ち手のが――」
真玲「(遮って)慧聖のじゃない。奴の」
目をぱちぱちさせる慧聖。
真玲「早く」
慧聖を睨む真玲。
後ろから顔を覗かせる慧聖。
和柄(花)の傘を指す。
慧聖「これだよ」
真玲、傘を手に取る。
そして、じっくり眺める。
真玲「ふーん」
慧聖「それ、どうするの?」
ニコッと微笑む真玲。
自分の傘を手に、出て行く真玲。
慧聖も後を追って出て行く。
○コンビニ・店内(夕)(曇り)
コンビニの制服を着ている雄馬。
加藤のネームプレート。
プレートには初心者マークが貼られている。
レジに立っている。
雄馬のレジにカゴを置く男性客。
雄馬「らっしゃいませー。お預かりしまーす」
レジ打ちする雄馬。
男性客は無言を貫く。
雄馬「954円になります。あ、ポイントカードはお持ちでしょうか?」
ポイントカードを取り出す客。
雨が降り出す音。
カードのスキャン音が鳴る。
店長(声)「あらら、降り出しちゃったわね」
女性客(声)「本当ね」
店長(声)「足元気を付けて帰ってね」
女性客(声)「ありがとう」
雄馬(声)「ありがとうございましたー」
袋を手に出て行く男性客。
自動ドアが開く。
雄馬は外を眺める。
雄馬「降り出すん、早いな」
駆けこんでくる女性客。
ビニール傘を手にレジへ。
雄馬「らっしゃいませー。お預かりしまーす」
○同・音楽室(夕)(雨)
片づけをしている苺佳、皐月、関本。
突然、激しく降り始める雨。
立ち上がる皐月と関本。
窓から外を眺める。
皐月「うわー、降り始めたー。帰り自転車なのに。めんどっ」
苺佳「自転車なのはいつものことでしょ」
皐月「そーだけどさー」
振り返り、苺佳を見る皐月。
関本「でもさ、あそこ行くだろ?」
皐月「まあね」
仰け反り、苺佳を見る関本。
関本「いっちゃんも、行くだろぉー?」
苺佳「ごめん、今日私用事があって」
手を合わせる苺佳。
関本「え~、打ち上げしよーって言ってたのに」
唇を尖らせ、拗ねる関本。
関本の頬を抓る皐月。
関本は口を広げて痛がる。
皐月「天龍、そうやってすぐいじけない。仕方ないじゃん。家の用事でしょ?」
苺佳「うん。ホントごめんね。どうしても外せない用事なの。今度また誘って」
皐月はまだ関本の頬を摘まんでいる。
関本「わかりゃひた」
ギターケースのチャックを閉める苺佳。
ケースを関本に手渡す。
苺佳「ごめん、天ちゃん、これ戻しておいて」
関本「んー」
ケースを受け取る関本。
皐月、苺佳に手を振る。
皐月「じゃあ、また来週」
苺佳「うん。バイバイ」
関本も手を振る。
手を振りながら教室を出る苺佳。
そのまま歩いていく。
○同・生徒玄関(夕)(雨)
激しい雨が降っている。
上履きを脱いでいる苺佳。
スマホを手に持っている。
靴を履き、傘立てに向かう。
傘立てに立つ3本の傘。
苺佳はキョロキョロする。
苺佳「あれ、ない……?」
他のクラスの傘立ても見る苺佳。
溜め息を吐く苺佳。
苺佳「仕方ない……か」
走って玄関を出て行く苺佳。
雨の中、1人走って帰る。
○コンビニ・店内(夜)(雨)
客がいない店内。
商品の品出しをする雄馬。
歩み寄る店長。
店長「お疲れ様。それ並べ終えたら、もう上がっていいわよ」
雄馬「いやでも、まだ次のシフトの人、来てないですよね」
店長「大丈夫。雨が降るとね、この店、お客さん来なくなるから。それまでは私1人でも問題ない」
雄馬に微笑み掛ける店長。
雄馬「そう、ですか。分かりました」
○同・バックヤード(夜)(雨)
学校の制服に着替える雄馬。
リュックを肩にかける。
そして傘を手に持つ。
ロッカーの扉を閉める。
そして出て行く。
○雄馬の家・外観(夜)(雨)
傘をささずに立つ苺佳。
髪の毛、服共にずぶ濡れ。
手を合わせ、息を吹きかける苺佳。
ポッケからスマホを取り出す。
画面に雨粒が付いていく。
スマホの画面を見る苺佳。
画面。20:15の表示。
苺佳「寒い……」
身震いする苺佳。
傘をさして歩いてくる雄馬。
立ち止まり、すっと顔を上げる。
ずぶ濡れの苺佳と目が合う。
雄馬「苺佳!?」
駆け寄り、傘を差し出す。
苺佳「雄馬……」
水滴を髪から落とす苺佳。
雄馬「えっ、苺佳、傘は!?」
苺佳「無かったんだよね……」
雄馬「もしかして、盗られたんか?」
視線を逸らす苺佳。
雄馬は溜め息を吐く。
雄馬「めっちゃ濡れとるけど、いつから待ったん」
苺佳「えへへ……」
苦笑いをする苺佳。
雄馬は苺佳の頬に触れる。
雄馬「冷えてるやん。そのままやと風邪ひくから、とりあえず、俺の家に――」
苺佳「雄馬、本当にごめん」
頭を下げる苺佳。
雄馬は手で苺佳の頭を撫でる。
雄馬「今は謝らんでいいから、とりあえず家入って。な?」
苺佳の手を掴む雄馬。
棒立ちし続ける苺佳。
俯く。
髪の毛から雫が滴り落ちていく。
苺佳「私、唯一の幼馴染の雄馬にずっと黙っていたの。許されるわけがない。だから、家にも行けないよ。ごめんね」
雄馬「苺佳」
雄馬の手を離す苺佳。
顔を上げ、薄ら笑い。
苺佳「私、家に帰るね。ごめんね、雨の中引き留めちゃって。バイトお疲れ様。それじゃ」
苺佳、踵を返す。
再び雨に濡れ始める苺佳。
雄馬「苺佳、待ってや!」
苺佳の後を追って走る雄馬。
苺佳「来ないで」
振り向かない苺佳。
立ち止まる雄馬。
苺佳「ごめん。ごめんね、雄馬」
歩き始める苺佳。
雄馬は俯く。
そして、悔し涙を流し始める。
傘に大粒の雨が当たる。
雄馬の目の前、ドサッという音。
顔を上げる雄馬。
道路に倒れている苺佳。
雄馬「苺佳!?」
投げ捨てられる傘。
雄馬は駆け寄る。
ぐったりとしている苺佳。
ずぶ濡れの苺佳を抱き上げる雄馬。
雄馬「苺佳、苺佳!!」
2人に強い雨が打ち付ける。

