怪盗が最後に盗んだもの

フローレンスは伯爵家の娘だが、屋敷の外に出ることは禁じられている。十八歳になってもデビュタントを迎えることもなく、彼女の容姿すらこの屋敷にいる人間以外は知らない。

ジョディは大きく咳払いをした後、「フローレンス様をここに呼んでください」とアーサーに言う。アーサーたちは口々に抗議の声を上げたものの、ジョディはそれを遮るよう大声を上げた。

「この予告状には、どちらのお嬢様を攫うのか書かれていません!!なのでフローレンス様にも警護をつける必要があります!!従っていただけないのでしたら、私たちは捜査を放棄させていただきます!!」

「……あれをここに連れて来い」

レジーナの警護がなくなるのはまずいと判断したのだろう。アーサーは舌打ちをしつつ、近くにいた使用人に命じた。無表情な使用人は軽く頭を下げ、大広間から出て行く。ジョディがフローレンスを目にしたのは、それから数分後のことだった。

フローレンスは、ミルクティーブラウンの長い髪に紫の瞳の少女だった。レジーナとも似ている。しかしその髪は伸び放題で艶がなく、体もレジーナに比べるとかなり痩せている。おまけに着ている衣服は美しいドレスではなく、使い古されたであろう使用人の服だった。