怪盗が最後に盗んだもの

「世界で一番綺麗なあなたを、私が盗んでもよろしいでしょうか?」

少女は両手で口元を覆う。腫れてしまったその目は大きく見開かれ、体が小刻みに震えていく。

「……この家から、逃げてもいいんですか?」

その目からまた涙が溢れ出す。月の光を浴びて煌めくその雫は、どんな宝石よりも美しくその男には見えた。

「あなたはずっと孤独だった。独りで人一倍頑張り、戦ってきた。もう自由になっていいんです。幸せを掴んでいいんです」

少女の口から嗚咽が漏れる。男は少女を抱き締めた。折れてしまいそうなほど少女の体は軽い。

「私に攫われてくれますか?」

「……はい」

男の問いに、少女は泣きながら消えてしまいそうな声で答える。男は少女の艶のないミルクティーブラウンの髪を撫でた。