誠実の花束

 瑠奈さんのバイトが終わるのを待っていたら、観たかった映画のDVDを見つけた。買おうかな、と思ったけれど、少しだけ高い。人気な映画だからか、と諦めて棚に戻そうとした。
「買ってあげようか?」
 瑠奈さんが急に近づいてきて、華やかないい香りがふわっと鼻腔をくすぐった。
 同じ女の子の私ですら恥ずかしくなってしまうほどの距離に顔が赤くなるのを自覚する。
「その映画観たいって言ってたでしょう?買ってあげるよ」
 瑠奈さんの綺麗な顔が私に笑いかける。
 私より背が高くてすらりとした瑠奈さんは顔が小さくて、スカートからのぞく脚も真っ直ぐだった。
「いや、いいですよ。これ高いし」
「店員だから、割引してもらえるんだよね」
 瑠奈さんの笑顔はきらきらしてる。見惚れてしまうほどで、きっとモテていたんだろうな、と思った。
 どうしても私と比べてしまって、少しだけ悲しくなってしまう。
「待たせちゃったし、買うよ」
 瑠奈さんはお姉ちゃんみたいで、去年から慕っていた。家にいるお母さんとお兄ちゃんは嫌いじゃないけど、好きになれるほどの関係性でもない。お父さんは海外に単身赴任中だから、家には中々帰ってこない。
「……ありがとうございます」
「いいよ。これくらい。牡丹は妹みたいで可愛いから」
 瑠奈さんはいつも私の話を聞いてくれる。今日みたいにお互い時間が合えば有名チェーン店しかない駅をふらついてはくだらない話ができる関係性だった。
「今度何かお礼しますね」
「じゃあ、またここ来てよ」
 瑠奈さんはそう言ってレジへと進む。後ろ姿を見て、私もいつかああなりたいな、と思った。追いかけたとき、窓ガラスに映った自分を見ただけでその気持ちは萎んでしまう。
 バランスの悪い体型に可愛さの欠片もない丸顔で、厚い前髪が余計に暗い印象に見せている。
 小さくため息をついて俯いた。
「牡丹、何してるの?」
 振り向いた瑠奈さんが声をかけてくれる。
 我に返った私は急いで瑠奈さんを追いかけた。
「ごめんなさい。外の桜が綺麗だなって思ったので」
「ああ、桜、綺麗だよね。私もよく見てる」
 瑠奈さんがにこっと笑って窓の外の桜を眺める。瑠奈さんは綺麗だから、桜の花も似合うだろう。
 憧れの瑠奈さんは可愛いデザインのお財布にスマホ、鞄までおしゃれだ。垢抜けない制服の着方にキーホルダーも何もつけていない黒いリュックが恥ずかしくなってしまった。