誠実の花束

「学級委員、本当にやるの?」
 帰りのホームルームも終わり下校しようとリュックを背負ったとき、後ろから莉里に声をかけられた。
 莉里は私にとって、唯一自分から友達と言える友達だ。中学生のときお互い演劇部に所属していて、私は裏方専門で莉里は演者だったけれど、莉里の方から仲良くしてくれていた。
 同じ高校に入学できて、人見知りの私は莉里の存在に救われたことがたくさんあった。
「うん……葛西くんに言われたし、やるしかないよね」
「でも牡丹、そういうの苦手でしょ?」
「そうだけど、断る方が無理だもん」
 私は、本音が言えない。いつも人に合わせてばかりで、自分の意見を口にするのが苦手だった。その代わり愛想笑いは得意で、楽しくなくても気を遣って笑うことができる。
 ありがとうもごめんなさいも、本音であればあるほど言えなかった。本音を言葉にできないだけで、損な生き方をしているような気すらしてきてしまう。
「困ったらいつでも声かけてね」
「うん。ありがとう」
 莉里はいつも私を気にかけてくれる。
 誰かと一緒になりたいときに、一緒にいてくれる人だ。
「莉里はこれから部活だもんね。頑張って」
「うん。頑張る。気をつけて帰ってね」
 明るくて優しくて可愛い莉里は、みんなに好かれる。私以外の友達もいっぱいいるみたいだ。SNSに投稿されたプリクラを見て、どうしてももやもやしてしまう。
 部活で賑わう声を遮るようにイヤホンを耳に挿した。スマホから少し前に流行った映画の主題歌を流す。
 家には帰りたくないから、駅でふらふらしていた。
 田舎だから映画館はないけれど、DVDやBlu-ray、CDの中古販売店がある。そこで気になるのを見つけては買うのが私の放課後の日課だ。
「牡丹ちゃん、久しぶり」
「瑠奈さん、お久しぶりです」
 瑠奈さんはこのお店でバイトをしている大学二年生だ。一年生のとき、私が頻繁にこのお店に立ち寄るので、声をかけてくれた。
 私の高校と同じ制服、と笑ってくれた瑠奈さんはこんな田舎の人だなんて信じられないくらい綺麗な人だ。
 大学に行くために実家を出て一人暮らしをする人が多い中、瑠奈さんはここに残ったみたいだった。
「しばらくバイト入ってなかったみたいですけど、勉強忙しいんですか?」
「うん。大事な試験があったからさ」
 綺麗なメイクに可愛らしいポニーテール。
 私とは正反対だけど、仲良くしてくれて嬉しかった。
「私あと三十分くらいで終わるんだけど、このあと暇?」
「はい。門限もないので、いつまででも」
「じゃあ、またあとで」
 瑠奈さんはこうしてたまに誘ってくれる。
 カフェに行ったり、夜ご飯を食べたり、学校で大人しい私が青春を感じることができる時間だった。
 洋画の棚を見ながら、放課後の時間をゆったりと過ごした。