翌日のホームルームでは、それぞれの委員会の委員を決める時間があった。
クラスの中では大人しくあまり積極的ではない私は、黙って時間が過ぎるのを待つだけだ。
ただ、学級委員だけが決まらずクラスメイトもお互いに顔を見合わせていた。
学級委員なんて、だいたいクラスの真面目くんと真面目ちゃんが引き受けてくれるものだと思っていたが、この高校ではそう上手くいかないみたいだ。学級委員の仕事はとにかく多く、二年連続でやろうと思う人はほとんどいないらしいという噂を耳にしたことがある。
部活熱心な人や面倒な仕事を好まない人は学級委員に立候補することはあり得ないだろう。
一人くらい、やってもいいという人がいてもおかしくないのに、担任が声をかけ続けて十分近くが経過していた。
「クラスメイトの推薦でも構いません」
そう声をかけると、一人の生徒が手を挙げた。
担任が指名すると、椅子と床が擦れる鈍い音がする。
「私は、島川さんを推薦します」
不意に名前を呼ばれて、過剰に体が反応する。
ハキハキとした声で発言する彼女の方を見た。
彼女の顔を見て、納得する。あの子は、去年もクラスが同じで苦手意識を持っていた。
日直などの仕事を任せてくれて嬉しかったけど、あの子はそういうつもりじゃなかったみたいだ。なんでも引き受けてくれるから、と私は彼女に利用されていた。
「推薦されましたが島川さん、いかがですか」
担任……いや、菱川先生は、いつもつまらなそうだ。ロボットのように仕事をこなすだけで、先生らしさが全くない。
田舎の底辺高校だから仕方ない、と済ませていいのだろうか。
「いや、私は……」
学級委員のような人前に立つ仕事は私には向かない。ただ、断ってしまえばみんながまた困ってしまうと思うと、はっきり断ることもできなかった。
何も言えずにもごもごしていたら、ずっとつまらなそうにスマホをいじっていた葛西くんが急に立ち上がった。
「じゃあ、俺がこいつとやります」
だらしなく着た制服が、窓から吹き付ける春の風に揺れていた。
驚いて葛西くんを見上げると、新学期のためにボブに切った髪が少し乱れて、俯き隠していた顔が教室の空気に晒された。
「え、それは……」
このクラスで学級委員が一番似合いそうな女の子が声を上げた。
葛西くんが学級委員というのは、どうやら受け入れられないらしい。
「嫌ならお前やる?」
「いや……」
「じゃあ文句言うな」
冷たくて、優しさの欠片もない声が教室に響き渡った。
静まった教室で、葛西くんは周りの目なんて気にせず黒板へと向かった。
「よし、決まり!」
やたらと嬉しそうに葛西くんは黒板に私と彼の名前を書いた。
葛西くんは手についたチョークの粉を雑に払う。
「じゃあ、よろしくね」
まだ少しだけチョークが残った右手を目の前に差し出される。
恐る恐る、その右手と私の手を重ねた。
葛西くんは私の手をしっかり掴む。こんな形で彼と関わることになるとは思っていなかった。少し細くて骨ばった葛西くんの手は、冷たかった。
クラスの中では大人しくあまり積極的ではない私は、黙って時間が過ぎるのを待つだけだ。
ただ、学級委員だけが決まらずクラスメイトもお互いに顔を見合わせていた。
学級委員なんて、だいたいクラスの真面目くんと真面目ちゃんが引き受けてくれるものだと思っていたが、この高校ではそう上手くいかないみたいだ。学級委員の仕事はとにかく多く、二年連続でやろうと思う人はほとんどいないらしいという噂を耳にしたことがある。
部活熱心な人や面倒な仕事を好まない人は学級委員に立候補することはあり得ないだろう。
一人くらい、やってもいいという人がいてもおかしくないのに、担任が声をかけ続けて十分近くが経過していた。
「クラスメイトの推薦でも構いません」
そう声をかけると、一人の生徒が手を挙げた。
担任が指名すると、椅子と床が擦れる鈍い音がする。
「私は、島川さんを推薦します」
不意に名前を呼ばれて、過剰に体が反応する。
ハキハキとした声で発言する彼女の方を見た。
彼女の顔を見て、納得する。あの子は、去年もクラスが同じで苦手意識を持っていた。
日直などの仕事を任せてくれて嬉しかったけど、あの子はそういうつもりじゃなかったみたいだ。なんでも引き受けてくれるから、と私は彼女に利用されていた。
「推薦されましたが島川さん、いかがですか」
担任……いや、菱川先生は、いつもつまらなそうだ。ロボットのように仕事をこなすだけで、先生らしさが全くない。
田舎の底辺高校だから仕方ない、と済ませていいのだろうか。
「いや、私は……」
学級委員のような人前に立つ仕事は私には向かない。ただ、断ってしまえばみんながまた困ってしまうと思うと、はっきり断ることもできなかった。
何も言えずにもごもごしていたら、ずっとつまらなそうにスマホをいじっていた葛西くんが急に立ち上がった。
「じゃあ、俺がこいつとやります」
だらしなく着た制服が、窓から吹き付ける春の風に揺れていた。
驚いて葛西くんを見上げると、新学期のためにボブに切った髪が少し乱れて、俯き隠していた顔が教室の空気に晒された。
「え、それは……」
このクラスで学級委員が一番似合いそうな女の子が声を上げた。
葛西くんが学級委員というのは、どうやら受け入れられないらしい。
「嫌ならお前やる?」
「いや……」
「じゃあ文句言うな」
冷たくて、優しさの欠片もない声が教室に響き渡った。
静まった教室で、葛西くんは周りの目なんて気にせず黒板へと向かった。
「よし、決まり!」
やたらと嬉しそうに葛西くんは黒板に私と彼の名前を書いた。
葛西くんは手についたチョークの粉を雑に払う。
「じゃあ、よろしくね」
まだ少しだけチョークが残った右手を目の前に差し出される。
恐る恐る、その右手と私の手を重ねた。
葛西くんは私の手をしっかり掴む。こんな形で彼と関わることになるとは思っていなかった。少し細くて骨ばった葛西くんの手は、冷たかった。
