「これから一年間このクラスで過ごすことになるので、隣の人と自己紹介をしてください」
高校二年生に進級した四月のある日、眼鏡をかけた担任教師がクラスに声をかけた。
隣に目をやり、こっそりため息をつく。隣の席に座る男の子は、つまらなそうに足を組みワイヤレスイヤホンで音楽を聴いているみたいだ。
白に近い金髪にイヤホンの影から見えるピアス。ワイシャツが第二ボタンまで開け放たれたせいで浮いた鎖骨が見える。学校指定のネクタイは結ばず、机の横にかけられたぺったんこのリュックからネクタイの端が顔をのぞかせていた。
「あの……」
声をかけても、反応はない。
音楽を聞いている上に周りの話し声もあるので、小さな私の声は届かず消えてしまった。
自己紹介とはいえ、数分の話だ。彼が話す気がないならば、担任に気づかれないように上手くこの場をやり過ごすしかない。
「おい葛西、島川困ってるぞ」
彼の後ろの席に座る男の子が彼の肩を叩く。
めんどくさそうにイヤホンを外した彼が私の方を見た。白い前髪の隙間から美しくも鋭い視線が私めがけて刺さってくる。
睨まれたように感じて、居心地が悪くなってしまう。
「あ? なんだよ」
「今自己紹介しろって言われただろ。ちょっとくらい話してやれよ」
小さく舌打ちをしたのが聞こえる。
私の小さな声は届かないのに、彼の舌打ちは聞こえてしまう。
「葛西桔梗、帰宅部」
葛西くんはイヤホンをケースにしまいながら、ポケットからスマホを取り出した。
つまらなそうな表情でいじっている。
「そっちは?」
不機嫌な声に怯んでしまう。
偏差値があまり高くない田舎の高校だから、多少のやんちゃな子は去年も同じクラスにいた。
それでも、葛西くんは頭一つ抜けたやんちゃさだ。
「島川、牡丹。私も帰宅部」
「ふうん」
いい加減に相槌を打って、葛西くんはまたイヤホンを耳に挿した。
そこまで聞きたい音楽なんてあるだろうか。クラスの中で浮いていることをかっこいいと思ってしまっているのかもしれない。
隣の席になった以上、関わらなくてはならないときがあるだろう。
そのときはそのときで、時間を上手く埋めればいい。
周りの楽しそうな声を聞きながら、私は大人しくスカートに乗せた指先を見つめた。
高校二年生に進級した四月のある日、眼鏡をかけた担任教師がクラスに声をかけた。
隣に目をやり、こっそりため息をつく。隣の席に座る男の子は、つまらなそうに足を組みワイヤレスイヤホンで音楽を聴いているみたいだ。
白に近い金髪にイヤホンの影から見えるピアス。ワイシャツが第二ボタンまで開け放たれたせいで浮いた鎖骨が見える。学校指定のネクタイは結ばず、机の横にかけられたぺったんこのリュックからネクタイの端が顔をのぞかせていた。
「あの……」
声をかけても、反応はない。
音楽を聞いている上に周りの話し声もあるので、小さな私の声は届かず消えてしまった。
自己紹介とはいえ、数分の話だ。彼が話す気がないならば、担任に気づかれないように上手くこの場をやり過ごすしかない。
「おい葛西、島川困ってるぞ」
彼の後ろの席に座る男の子が彼の肩を叩く。
めんどくさそうにイヤホンを外した彼が私の方を見た。白い前髪の隙間から美しくも鋭い視線が私めがけて刺さってくる。
睨まれたように感じて、居心地が悪くなってしまう。
「あ? なんだよ」
「今自己紹介しろって言われただろ。ちょっとくらい話してやれよ」
小さく舌打ちをしたのが聞こえる。
私の小さな声は届かないのに、彼の舌打ちは聞こえてしまう。
「葛西桔梗、帰宅部」
葛西くんはイヤホンをケースにしまいながら、ポケットからスマホを取り出した。
つまらなそうな表情でいじっている。
「そっちは?」
不機嫌な声に怯んでしまう。
偏差値があまり高くない田舎の高校だから、多少のやんちゃな子は去年も同じクラスにいた。
それでも、葛西くんは頭一つ抜けたやんちゃさだ。
「島川、牡丹。私も帰宅部」
「ふうん」
いい加減に相槌を打って、葛西くんはまたイヤホンを耳に挿した。
そこまで聞きたい音楽なんてあるだろうか。クラスの中で浮いていることをかっこいいと思ってしまっているのかもしれない。
隣の席になった以上、関わらなくてはならないときがあるだろう。
そのときはそのときで、時間を上手く埋めればいい。
周りの楽しそうな声を聞きながら、私は大人しくスカートに乗せた指先を見つめた。
