だがそれ以上に問題なのは、もう十二月になろうというのに寒々しいパンプスを履いてきてしまったことかもしれない。

 自宅を出た瞬間、あまりにも足元が冷えるので、いつものショートブーツに変えようか悩んだけれど、寒さをぐっとこらえてお洒落度の高い今のパンプスを選んだ。

 街を歩きながら、同じようなパンプスの女性を見かけては仲間意識を感じ、〝お互い頑張ろうね〟とひっそり念を送っていた。

 まあ、これから行くのは映画館だし、外を長時間歩き回るわけでもないからいいか。

 切り替えは早い方で、頭の中から気がかりをさっさと追い出すと、私は手元の小説に集中した。

 この小説はドラマ化もされた人気の医療ヒューマンストーリーで、舞台は病院。主人公のシンは新米外科医。やる気と正義感に溢れ、体当たりながらも患者に寄り添う熱血医師である。

 興味を持ったきっかけは、今から会う彼――真宙さんだ。

 彼の職業は脳神経外科医。シンのように日々一生懸命、患者と向き合っているのかなと思うと胸が熱くなる。

 ……まあ、真宙さんの場合は新米外科医ではなく敏腕外科医らしいから、ドジで猪突猛進なシンと違ってスマートに患者を助けていそうだけれど。

 そんなことを考えながら読み進めていると、テーブルの上でことりと音がした。

 反射的に視線を上げる。コーヒーの入ったマグカップと、それを置く手が視界に入った。