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本作品は試し読みとなります。
2章以降は2025年4月に発売予定の
ベリーズ文庫にてお楽しみください。
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「婚姻届にサインしてくれるなら、手術を引き受けるよ」

 若くして脳外科トップの手術スキルを持つ凄腕医師・武凪真宙(たけなぎまひろ)は、悪魔のような台詞を言い放ち、尊大な眼差しで私を覗き込んだ。

〝成功率五パーセント以下〟――そんな難手術さえも、彼なら九九パーセント成功するという。母を助けるには彼に頼るしかない。

 しかし、その代償は大きい。

「横暴です。執刀する代わりに結婚しろだなんて」

「君の覚悟を知りたいんだ。助けてって泣きついておいて、君自身なんの対価も払わないなんてフェアじゃないだろ? 一緒にリスクを背負ってくれなきゃ」

 もはや条件というより嫌がらせで、バカ正直に相手をする方が間違っている――が、こちらは母を救うために藁にも縋る思いだ。

 私と結婚すると都合がいい、彼がそう言って悪びれもなく求婚してきたのは、一カ月前の話。

 私の父は脳外科の治療実績で名高い、ここ『永福記念総合病院』で重要な役職に就いていて、その義息になれば特典が盛りだくさんなのだという。

 当然断ったが、まさか母の手術を餌に契約結婚を持ちかけてくるほど悪辣な男だとは思わなかった。