大好きより、もっと

〇学校・図書室(放課後)
図書委員の仕事として、本棚の整理をしている透衣。
透衣が窓の外に目をやると、一昨日の体育祭の日の大雨が嘘みたいに晴れている。

透衣(体育祭、中止になっちゃったなぁ)
手を止めて窓の外の空を見つめる透衣。

矢染「すーいちゃん」
背後から肩に手を置き透衣の顔を覗き込む矢染。

透衣「わ、矢染先輩」
驚いて、振り返る透衣。

矢染「どうしたの?分かんないことあるなら教えるよ?」
矢染が微笑みながら首をかしげ、セミロングの金髪が揺れる。

透衣「先輩の髪、綺麗ですよね」
矢染「下ろすためにケアしてるからかな。俺、結ぶの下手なんだよね」
自分の手首についているヘアゴムを見つめる矢染。

透衣「あ、ハーフアップだったら全部結ぶより簡単かもしれませんよ」
矢染「へー、どんなの?透衣ちゃん結んでみてくれない?」
自分のヘアゴムを差し出して、椅子の背もたれに腕を置いて後ろ向きに座る矢染。

矢染の髪を手ぐしで整え、結ぶ準備をする透衣。
ドアが開く音がして、透衣と矢染が目を向ける。
吹雪がずかずかと入ってきて近づいてくる。
透衣の腕を掴む吹雪。

吹雪「何してんの?」
透衣「えっと、先輩の髪を結ぼうと」
吹雪「何で」
透衣「…吹雪?どうしたの?」
戸惑った顔で吹雪を見上げる透衣。

一瞬目をそらした後、まっすぐに透衣を見る吹雪。

吹雪「…透衣は下がってて」
訳も分からず、困惑しながらも下がる透衣。

透衣が持っていたヘアゴムを奪い、矢染の背後に立つ吹雪。

矢染「俺は透衣ちゃんに頼んだんだけど?」
椅子に座ったまま吹雪を見上げる矢染。
無言のまま矢染の髪を結ぶ吹雪。

小さくため息をついて、仕方なくじっとしている矢染。
吹雪の手つきを見る透衣。

透衣(私の髪を結んだ時とは全然違う…なんか…もっと、優しくて温かい感じだったよね)
(『好きだからね』って、もしかして、私のことが…ってこと…?でも、それってどういう好き…?)

吹雪「帰るよ、透衣」
はっとして顔を上げる透衣。

透衣「え、でもまだ仕事が残ってるから…」
矢染「もう終わるし、今日は帰っていいよ」
矢染が呆れたような笑顔で吹雪の方を見る。

なんだかぴりついた空気を感じて戸惑う透衣。
ドアに向かって歩き出す吹雪。

透衣「あ、待って…!し、失礼します」
矢染に会釈をして吹雪の後ろをついていく透衣。

矢染「これは勝ち目なさそうだなぁ」
吹雪を見る透衣の表情を見て、独り言を言う矢染。

〇駅のホーム(図書室を出た後)
クーラーのきいた待合室のベンチに座って電車を待つ透衣と吹雪。
透衣の両手を取り自分の頭にもっていく吹雪。

透衣「な、何?」
吹雪「マーキング」
戸惑いながらも吹雪の髪を手ぐしでとかす透衣。

透衣(吹雪、綺麗な黒髪だなぁ…)

吹雪「透衣も丁寧じゃん」
透衣「え?」
吹雪「俺の髪の触り方」
目をぱちくりさせたまま吹雪を見つめ、体育祭の日のやり取りを思い出す透衣。

透衣(なんで、だろ…)