〇学園・廊下(昼休み)
廊下に張り出された紙の前に人が集まっている。
男子生徒「成績上位者が張り出されたらしいぞ! 見に行こうぜ」
男子生徒「俺はどうせ五十位になんて入ってないよ」
ナレーション「ここ―― 私立野薔薇学園は名門校であり、成績優秀な生徒が揃っている。その中でも、特に優秀な生徒―― 定期考査の順位が五十位以内だった者――は、各学年の廊下に名前が張り出される。生徒たちは、ここに名前が載ることを目指す」
一位の欄には朔の名前が、二位の欄には凛の名前が書かれている。
女子生徒「今回も一位と二位は朔さんと凛さんなのね! さすがライバルだわ」
男子生徒「あの二人には誰も勝てないよ」
凛と朔が紙の前に立っている。
朔は満足げな雰囲気だが、凛は悔しいのを顔に出さないようにしている。
朔「今回は俺の勝ちだな」
凛「そうだね」
朔「これで十勝十敗一引分けだ」
凛「そうだね」
朔「悔しい?」
凛「……そうだね」
結局悔しさを顔に出してしまった凛を見て朔は柔らかく笑う。
朔「顔に出てるぞ王子様」
凛「キミが出させてるんだろ」
朔は凛の肩を軽く叩いて満足したように去る。
〇学園・教室(放課後・委員会)
教室に各クラスの風紀委員が集まって座っている。
黒板の前に凛と朔、三年生の元風紀委員長の三人が立っている。
元風紀委員長「――というわけで、前回行った投票の結果、今年度の委員長は合田さんに、副委員長は百瀬さんにお願いすることになりました。お二人とも、ご挨拶を」
凛「はい。風紀委員長になりました合田凛です。皆さんに選んでいただいたからには、その期待に応えられるように精進します。一年間よろしくお願いいたします」
朔「副委員長の百瀬朔です。僕も微力ながら委員長や皆さんのサポートができるように努めたいと思います。よろしくお願いします」
礼をする凛と朔。二人に拍手が送られる。
凛「では、ここからはボクが進行を務めますね。先週、生徒会より、制服を着崩す生徒の増加に対処してほしいという依頼がありました。そこで、風紀委員会では、生徒たちへの呼びかけ活動とポスター掲示を行いたいと考えています。皆さんには、次の委員会までにポスター案の制作をお願いします。服装の乱れは心の乱れ。まずは我々風紀委員が手本となるような着こなしをしていきましょう。以上です」
生徒たちは立ち上がり教室を出ていく。
凛と朔が書類を片付けていると、残っていた元風紀委員長に話しかけられる。
元風紀委員長「やっぱり君たちになったか。そうだろうなとは思っていたけど」
凛「先輩にそんなことを思っていただけていたなんて光栄ですね」
朔「去年先輩が忙しそうなの見てましたからね? 怖いですよ、今から」
元風紀委員長「あはは、大丈夫だよ。君たちは容量がいいから」
朔「先輩だってそうでしょ」
元風紀委員長「君たちには負けるよ。まぁ、何かあったらいつでも頼ってよ」
朔「いいんですか? じゃあいっぱい頼りにさせてもらおー」
元風紀委員長「あれ、僕失言したかな? とにかく、頑張ってね」
お礼を言う二人。元風紀委員長は手を振りながら帰っていく。
〇通学路(放課後)
委員会が終わって帰宅している二人。
朔「お前は相変わらず年上が苦手だな」
凛「キミは相変わらず年上たらしだね」
朔「甘えとけばいいのに」
凛「ボクは人に甘えるのが苦手なんだ」
凛は顔を顰めている。朔はそれを気にしていない。
凛「けれど、委員長投票ではボクが優位だったようだね」
胸を張る凛。朔は悔しそうにする。
朔「お前の方がしっかりして見えるからだろうなぁ。皆騙されてるんだよ」
凛「騙してる? それは違うな。ボクは与えられた仕事は絶対に遂行するし、皆はそれが分かっている。それだけだ」
朔「ま、責任感はあるか」
凛「キミと違ってね」
朔「親しみやすいのは俺のほうだけどな」
お互いににらみ合う二人。
朔がやれやれと首を振る。
朔「まぁ、考査で勝ったからな。これは譲るってことで」
凛「今回ので累計引き分けになっただけだろう」
朔「勝ちは勝ちだろ。てか、引分けってなんだよ。そんなことある?」
凛「ボクたちは負けず嫌いだからね。キミが大人しく負けてくれればいいんだけど」
朔「そんなこと言って、わざと負けたら怒るくせに」
凛「当たり前じゃないか。キミだってそうだろう」
朔「それはそうだけど」
歩いているとコンビニが見えてくる。朔がそれを指さす。
朔「コンビニ寄ろうぜ。委員会頑張ったら腹減った」
凛「キミは特に何もしていないだろう」
朔「細かいことはいいから。ほら、なんか奢るからさ」
凛「結構だ」
あまり乗り気ではない凛の肩を朔が両手で押して進む。
〇コンビニ・店内(放課後)
凛はお菓子の棚を見ている。ペットボトルのジュースを持って凛のところに来た朔。
朔「何買うか決まった?」
凛「いや…… 見つからなくて……」
眉を顰める凛に、朔が干し梅を手に取る。
朔「どうせこれだろ?」
凛「あっ、それだ。よく分かったね」
朔「お前昔からこればっか食ってるじゃん。買ってくるわ、外で待ってて」
レジへ向かう朔。凛は追いかけようとするが、やめて店の外に出る。
〇コンビニ・店外(放課後)
お会計を済ませた朔が自動ドアから出てくる。
朔「はいこれ」
朔が干し梅を凛に渡す。凛は干し梅の代金を朔に渡そうとする。
凛「これ、お金」
朔「別にいいけど。これくらい」
凛「キミに借りを作りたくないのだけど」
朔「じゃ、委員長就任祝いってことで」
朔はお金を受け取らないので、凛は諦めてそれを財布にしまう。
凛「それなら。ありがとう」
朔「ん」
朔は袋からアメリカンドッグを取り出し、ケチャップをかけて頬張る。
朔「うま。うまい?」
凛「あぁ。やはりこれが一番だ」
朔「お前のファンが見たら腰抜かすんじゃねぇの。氷の王子が渋いもん食ってるって。訳分かんねぇ横文字のスイーツが好きだと思われてそう」
凛「ふふ、そうかもしれないね。だからこれはあの子たちの前では食べないよ」
朔「楽しいの? それ」
怪訝な顔をする朔に、満面の笑みで答える凛。
凛「うん。ものすごく」
朔「あっそ。ならいいけど」
凛「心配してくれたのかい? ももちゃんは可愛いね」
朔「それヤメロ。俺はお前のファンじゃない」
凛「リップサービスじゃないんだけどなぁ」
朔は呆れたようにしているが、凛はそれを気にしていない。
アメリカンドッグを食べ終わった朔は手に提げていたビニール袋からジュースを取り出して飲む。それを見ている凛。
朔「お、気になる? これ期間限定のレモン味だって。うまいよ」
朔がペットボトルを差し出す。
首をかしげる凛。受け取らない凛に朔も不思議そうにしている。
朔「一口飲むだろ?」
凛「……あぁ、そういう。じゃあいただこうかな」
ジュースを一口飲む凛。
凛「おいしいね。ありがとう」
凛がペットボトルを朔に返すと、朔は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
朔「間接キスだ」
凛「キミは本当に子どもっぽいな。ボクたちがいつから一緒にいると思ってるんだ。こんなの今に始まったことじゃないだろ」
朔「それはそうだけどさぁー。たまにはノッてくれたっていいじゃん」
朔は唇を尖らせる。凛は呆れたように首を振る。
凛「ドキドキした…… とでも言ってほしかったのかな? それはキミの方なんじゃないの?」
朔「お前相手に今さらするわけないだろ」
凛「その言葉、そっくりそのままキミにお返しするよ」
二人はなんでもないような顔をしているが、二人とも耳の端が赤くなっている。
凛・朔((びっっくりしたー! バレてなくてよかった!!))
