〇学園・廊下(朝)
凛(黒髪のショートヘア。センター分け)と朔(少し癖っ毛の茶髪)が並んで歩いている。
生徒たちのざわめきと女子生徒の歓声が響く。
舞子「ご覧になって! 百合コンビが並んで歩いていらっしゃるわ!」
ナレーション「私立野薔薇学園――この学校には二人の『王子』がいる」
凛と朔は廊下にいる生徒たちに手を振ったり笑顔を作ったりしているが、一言も会話をしない。
ナレーション「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
冴子「百合コンビ、って?」
舞子「そっか、あなたは転校してきたばっかりだから知らないのね。あの二人は、『百合コンビ』って呼ばれてるの。黒い髪の方は合田凛さん。そのクールな雰囲気から、『氷の王子』って呼ばれているの! もう一人は百瀬朔さん。『爽やか王子』は今日も爽やかねぇ」
舞子はうっとりと二人を見つめる。
舞子「それで、お二人のお名前から一文字ずつとって『百合コンビ』なの」
冴子「でも、先ほどからあまり話しておられませんわね」
冴子は首をかしげながら二人を目で追う。
説明する舞子。
舞子「えぇ。お二人は幼馴染らしいのだけれど、それ以上に、学業に切磋琢磨するライバルでもあられるの。だから、お二人は必要以上に仲良くなさらないんだとか。意識が高くて素敵よね」
廊下を歩いている凛が冴子の方を見ながら微笑む。
冴子は顔を真っ赤にして照れる。その隣で、舞子は興奮している。
舞子「今、凛さんがこちらをご覧になったわ!」
冴子「えぇ、目が合いましたわ。しかも笑顔まで…… どうしましょう、私、凛さんのことを好きになってしまったかもしれません」
舞子は、冴子の言葉に驚きながらも深く頷いた。
舞子「流石は凛さん、罪深いお方ですわ…… 美しさに性別なんて関係ありませんものね」
冴子「性別? どういうことですか?」
舞子「あぁ、気付いていらっしゃらなかったのね。凛さん―― 氷の王子は、女性の方なの」
学園に冴子の驚きの声が響き渡る。
冴子に朔が話しかける。
朔「今声が聞こえたけど、どうかしたの?」
舞子「あっ、朔さん。この子はまだ転校してきたばかりですから、その……」
凛「あぁ、ボクを男性と間違えたんだね」
舞子の言葉を遮って、二人の間に割って入る凛。
凛の言葉に冴子は顔を真っ赤にしながら頷く。
冴子「あのっ、すみません。私、失礼なことを……」
凛「気にしないで。ボクにとってそれは失礼なことではないよ」
朔「そうだよ。凛は昔からよく男子と間違われていたんだ。今さら怒りなんてしないさ」
凛「朔の言う通りだ。それよりも、学園に慣れない内は大変だろう。貴女の学園生活がより良いものになるように願っているよ」
朔「うん。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてね」
去っていく二人を見つめる冴子と舞子。
冴子「お姿だけではなくて、性格までも王子なのね」
舞子「えぇ。あんなに完璧な方が二人も身近にいらっしゃるなんて、贅沢だわぁ」
〇教室(昼休み)
冴子が図書館で本を探している。
冴子(凛さん、素敵でしたわ…… あらやだ、私ったらまた凛さんのことばかり考えて…… 課題の本を探さないといけないのに)
本を見つけた冴子。
しかし、本棚の高い位置にあり冴子の身長では届かない。
背伸びをする冴子。どこからか手が現れる。
凛「これかな?」
本を取ってくれたのが凛だと気づいて照れる冴子。
冴子に気づく凛。
冴子「りっ、凛さん!」
凛「あれ、貴女は今朝の…… ふふ、また会ったね」
冴子「あの、ありがとうございます。私の身長では届かなくて……」
凛「気にしないで。それより、名前を聞いても? 今朝聞き損ねたよね。あ、ボクは合田凛」
冴子「あっ、峰田冴子です」
凛「冴子ちゃん。素敵な名前だね」
冴子「えっ、そんな、ありがとうございますっ!」
凛「ボクはそろそろ行かなきゃ。話せて嬉しかったよ。またね、冴子ちゃん」
微笑む凛に見惚れる冴子。
凛はどこかへ去る。
〇教室(昼休み)
舞子が教室の自席で考え事をしている。
舞子(冴子さん、凛さんに夢中だったわね…… まぁ、凛さん素敵だものね。でも私は…… 「爽やか王子」派!)
舞子の目線の先には朔と女子生徒がいる。
ノートを重そうに運んでいる女子生徒のノートを朔が持つ。
驚く女子生徒。
朔「あと運んでおくよ。力仕事は男子に任せなって」
女子生徒「えっ、いいよ! これ、日直の仕事だし……」
朔「そんなの関係ないよ。てか、もう一人の日直は?」
朔が尋ねると、女子生徒は気まずそうに目を逸らす。
女子生徒「えーっと…… 田中くんなの」
朔「あー。田中ね。あいつも自由人だからなぁ。でも言えばやってくれると思うよ。ちょっと馬鹿だけどいい奴だから。でももし何か言われたら俺に言ってね、ぶん殴っとくから」
悪い顔をする朔と笑う女子生徒。
舞子(凛さんも素敵だけど、やっぱり私は朔さん派だわ。あの爽やかさは凛さんにはないのよね。百合コンビは王子同士だけど性格は反対、とまで言われているし…… でも、お二人はどんな会話をするのかしら? ……私には想像もつかないわ)
〇通学路(放課後)
凛と朔が鞄を持って並んで帰路を歩いている。
朔「それにしても、今日も凄かったな。特に今朝のお前」
凛「あの女子生徒は可愛らしかった。昼休みに図書館で再会したんだ。あぁしまった、連絡先を聞いておけばよかった。今度会ったら聞いておこう」
うきうきとしている凛に朔は顔を顰める。
朔「またそれか。誰だよ、お前に『氷の王子』なんてあだ名をつけたのは。お前は氷の王子なんかじゃなくて、ただのチャラ男だろ」
凛「チャラ男? キミはボクが女だってことを忘れてしまったのかな? キミこそ、なんだ『爽やか王子』って。キミの腹黒さに騙されている子たちが可哀想だ」
朔「人聞きの悪いことを言うな。騙してるんじゃない、リップサービスだよ。お前だってそうだろ?」
凛「ボクは嘘をついたりなんてしないよ」
朔「それが嘘じゃねぇか」
あっけらかんとしている凛に、朔は呆れたような顔をする。
凛はそんな朔の顔を見て笑う。
凛「なんだい、嫉妬か?」
朔「誰がお前なんかに嫉妬するか」
凛「おや、昔はボクの後を泣いてついて回っていたのに、随分寂しいことを言うね」
朔「はぁ? 何年前の話してんだ」
凛の言葉に険しい顔になる朔。
凛「はは、悪かったって。怒らないでよ、怖いなぁ」
朔「また嘘ばっかり。お前が俺を怖がるわけないだろ」
凛「そんなことないと思うけど?」
朔「いいや。お前は俺に怖がらないで、倍にして返すことだけ考える」
凛「キミもまたその倍にしようとするだろう」
朔「どっちか折れればいいのに、両方負けず嫌いだから絶対折れない」
凛「よく分かってるじゃないか。ももちゃんも大人になったね」
朔「いい加減ももちゃんって呼ぶのやめろってば。母さんにもそう呼ばれるときがあるんだぞ。母さんも百瀬なのに」
怒る朔を笑う凛。
朔は拗ねたようにそっぽを向く。
凛「でも、ももちゃんはももちゃんだからなぁ」
朔「お前のこと凛ちゃんって呼ぶぞ」
凛「おや、ボクは構わないよ。キミが恥ずかしがってそう呼ばなくなったんじゃないか」
朔「クソ……」
凛「悔しかったらボクを照れさせてみるんだね。ももちゃんには無理だろうけれど」
飄々としている凛の腕を朔が突然掴み、電柱に手を置く。
朔が凛に壁ドンしているような状態になる。
少し驚いている凛。
朔「はは、照れてるんじゃないか? ――だってお前、俺のこと好きだろ」
勝ち誇ったような顔をする朔。
凛は目の前の朔の顎を人差し指であげる。
凛「それはキミの方でしょ」
お互い顔には出ないが鼓動は脈打っている。
ナレーション「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
凛(びっくりした……顔に出てはないけど、キミ照れてるだろ)
朔(ビビったー! てか多分こいつ照れてるよな?)
凛・朔((早く告白してくればOKするのに…… でも自分から言うのは負けた気がして嫌だ! 絶対向こうから告白させてやる……!))
ナレーション「争う姿は―― 何の花?」
凛(黒髪のショートヘア。センター分け)と朔(少し癖っ毛の茶髪)が並んで歩いている。
生徒たちのざわめきと女子生徒の歓声が響く。
舞子「ご覧になって! 百合コンビが並んで歩いていらっしゃるわ!」
ナレーション「私立野薔薇学園――この学校には二人の『王子』がいる」
凛と朔は廊下にいる生徒たちに手を振ったり笑顔を作ったりしているが、一言も会話をしない。
ナレーション「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
冴子「百合コンビ、って?」
舞子「そっか、あなたは転校してきたばっかりだから知らないのね。あの二人は、『百合コンビ』って呼ばれてるの。黒い髪の方は合田凛さん。そのクールな雰囲気から、『氷の王子』って呼ばれているの! もう一人は百瀬朔さん。『爽やか王子』は今日も爽やかねぇ」
舞子はうっとりと二人を見つめる。
舞子「それで、お二人のお名前から一文字ずつとって『百合コンビ』なの」
冴子「でも、先ほどからあまり話しておられませんわね」
冴子は首をかしげながら二人を目で追う。
説明する舞子。
舞子「えぇ。お二人は幼馴染らしいのだけれど、それ以上に、学業に切磋琢磨するライバルでもあられるの。だから、お二人は必要以上に仲良くなさらないんだとか。意識が高くて素敵よね」
廊下を歩いている凛が冴子の方を見ながら微笑む。
冴子は顔を真っ赤にして照れる。その隣で、舞子は興奮している。
舞子「今、凛さんがこちらをご覧になったわ!」
冴子「えぇ、目が合いましたわ。しかも笑顔まで…… どうしましょう、私、凛さんのことを好きになってしまったかもしれません」
舞子は、冴子の言葉に驚きながらも深く頷いた。
舞子「流石は凛さん、罪深いお方ですわ…… 美しさに性別なんて関係ありませんものね」
冴子「性別? どういうことですか?」
舞子「あぁ、気付いていらっしゃらなかったのね。凛さん―― 氷の王子は、女性の方なの」
学園に冴子の驚きの声が響き渡る。
冴子に朔が話しかける。
朔「今声が聞こえたけど、どうかしたの?」
舞子「あっ、朔さん。この子はまだ転校してきたばかりですから、その……」
凛「あぁ、ボクを男性と間違えたんだね」
舞子の言葉を遮って、二人の間に割って入る凛。
凛の言葉に冴子は顔を真っ赤にしながら頷く。
冴子「あのっ、すみません。私、失礼なことを……」
凛「気にしないで。ボクにとってそれは失礼なことではないよ」
朔「そうだよ。凛は昔からよく男子と間違われていたんだ。今さら怒りなんてしないさ」
凛「朔の言う通りだ。それよりも、学園に慣れない内は大変だろう。貴女の学園生活がより良いものになるように願っているよ」
朔「うん。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてね」
去っていく二人を見つめる冴子と舞子。
冴子「お姿だけではなくて、性格までも王子なのね」
舞子「えぇ。あんなに完璧な方が二人も身近にいらっしゃるなんて、贅沢だわぁ」
〇教室(昼休み)
冴子が図書館で本を探している。
冴子(凛さん、素敵でしたわ…… あらやだ、私ったらまた凛さんのことばかり考えて…… 課題の本を探さないといけないのに)
本を見つけた冴子。
しかし、本棚の高い位置にあり冴子の身長では届かない。
背伸びをする冴子。どこからか手が現れる。
凛「これかな?」
本を取ってくれたのが凛だと気づいて照れる冴子。
冴子に気づく凛。
冴子「りっ、凛さん!」
凛「あれ、貴女は今朝の…… ふふ、また会ったね」
冴子「あの、ありがとうございます。私の身長では届かなくて……」
凛「気にしないで。それより、名前を聞いても? 今朝聞き損ねたよね。あ、ボクは合田凛」
冴子「あっ、峰田冴子です」
凛「冴子ちゃん。素敵な名前だね」
冴子「えっ、そんな、ありがとうございますっ!」
凛「ボクはそろそろ行かなきゃ。話せて嬉しかったよ。またね、冴子ちゃん」
微笑む凛に見惚れる冴子。
凛はどこかへ去る。
〇教室(昼休み)
舞子が教室の自席で考え事をしている。
舞子(冴子さん、凛さんに夢中だったわね…… まぁ、凛さん素敵だものね。でも私は…… 「爽やか王子」派!)
舞子の目線の先には朔と女子生徒がいる。
ノートを重そうに運んでいる女子生徒のノートを朔が持つ。
驚く女子生徒。
朔「あと運んでおくよ。力仕事は男子に任せなって」
女子生徒「えっ、いいよ! これ、日直の仕事だし……」
朔「そんなの関係ないよ。てか、もう一人の日直は?」
朔が尋ねると、女子生徒は気まずそうに目を逸らす。
女子生徒「えーっと…… 田中くんなの」
朔「あー。田中ね。あいつも自由人だからなぁ。でも言えばやってくれると思うよ。ちょっと馬鹿だけどいい奴だから。でももし何か言われたら俺に言ってね、ぶん殴っとくから」
悪い顔をする朔と笑う女子生徒。
舞子(凛さんも素敵だけど、やっぱり私は朔さん派だわ。あの爽やかさは凛さんにはないのよね。百合コンビは王子同士だけど性格は反対、とまで言われているし…… でも、お二人はどんな会話をするのかしら? ……私には想像もつかないわ)
〇通学路(放課後)
凛と朔が鞄を持って並んで帰路を歩いている。
朔「それにしても、今日も凄かったな。特に今朝のお前」
凛「あの女子生徒は可愛らしかった。昼休みに図書館で再会したんだ。あぁしまった、連絡先を聞いておけばよかった。今度会ったら聞いておこう」
うきうきとしている凛に朔は顔を顰める。
朔「またそれか。誰だよ、お前に『氷の王子』なんてあだ名をつけたのは。お前は氷の王子なんかじゃなくて、ただのチャラ男だろ」
凛「チャラ男? キミはボクが女だってことを忘れてしまったのかな? キミこそ、なんだ『爽やか王子』って。キミの腹黒さに騙されている子たちが可哀想だ」
朔「人聞きの悪いことを言うな。騙してるんじゃない、リップサービスだよ。お前だってそうだろ?」
凛「ボクは嘘をついたりなんてしないよ」
朔「それが嘘じゃねぇか」
あっけらかんとしている凛に、朔は呆れたような顔をする。
凛はそんな朔の顔を見て笑う。
凛「なんだい、嫉妬か?」
朔「誰がお前なんかに嫉妬するか」
凛「おや、昔はボクの後を泣いてついて回っていたのに、随分寂しいことを言うね」
朔「はぁ? 何年前の話してんだ」
凛の言葉に険しい顔になる朔。
凛「はは、悪かったって。怒らないでよ、怖いなぁ」
朔「また嘘ばっかり。お前が俺を怖がるわけないだろ」
凛「そんなことないと思うけど?」
朔「いいや。お前は俺に怖がらないで、倍にして返すことだけ考える」
凛「キミもまたその倍にしようとするだろう」
朔「どっちか折れればいいのに、両方負けず嫌いだから絶対折れない」
凛「よく分かってるじゃないか。ももちゃんも大人になったね」
朔「いい加減ももちゃんって呼ぶのやめろってば。母さんにもそう呼ばれるときがあるんだぞ。母さんも百瀬なのに」
怒る朔を笑う凛。
朔は拗ねたようにそっぽを向く。
凛「でも、ももちゃんはももちゃんだからなぁ」
朔「お前のこと凛ちゃんって呼ぶぞ」
凛「おや、ボクは構わないよ。キミが恥ずかしがってそう呼ばなくなったんじゃないか」
朔「クソ……」
凛「悔しかったらボクを照れさせてみるんだね。ももちゃんには無理だろうけれど」
飄々としている凛の腕を朔が突然掴み、電柱に手を置く。
朔が凛に壁ドンしているような状態になる。
少し驚いている凛。
朔「はは、照れてるんじゃないか? ――だってお前、俺のこと好きだろ」
勝ち誇ったような顔をする朔。
凛は目の前の朔の顎を人差し指であげる。
凛「それはキミの方でしょ」
お互い顔には出ないが鼓動は脈打っている。
ナレーション「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
凛(びっくりした……顔に出てはないけど、キミ照れてるだろ)
朔(ビビったー! てか多分こいつ照れてるよな?)
凛・朔((早く告白してくればOKするのに…… でも自分から言うのは負けた気がして嫌だ! 絶対向こうから告白させてやる……!))
ナレーション「争う姿は―― 何の花?」
