『君と見る夕焼け』を読んで幸せに浸りながら、いつの間にか眠りについた……はずだった。


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 とりあえず、落ち着いて自分の現状把握しましょう。

 ……そうよ。それが今一番に、私がやらなければいけないことだから。

 ベッドで横になり温かなお布団に包まれて、仰向けで本を開き、大好きな小説の世界にどっぷり入り込んでいたはずの私は、きらびやかなドレスを身に纏い、ハイライトなんて見えない真っ黒な目をした男の子と見つめ合っていた。

 もちろん。未だかつて会ったこともない初対面。一体、彼は誰なの……?

 こちらを睨んでいる男の子の歳の頃は、十七ほどだろうか。麗しい容姿と王子様然としている貴族服は、良く似合っていて、目の保養と言えるほどに素晴らしい。

 だけど、どう考えても長い間櫛を通していない癖のある黒髪は、あまりにも不自然過ぎる。ところどころ毛玉が出来ているようだった。

 ……誰かに用意されていた服は、どうにかして自分で着られても、髪の毛の毛玉の処理方法までは自分んでは出来なかったのかもしれない。