キャンディスが仕事に慣れて立派な女官になった頃に、彼の宮へと侵入してウィリアムと出会うはずだから……そっか……主役二人が出会うのは、もうすぐなのね。

「どうか……落ち着いてください。うっかりしていて足を踏み外してしまうこと自体は、誰にでも起こりうることです。これから先、どうすれば失敗を減らせるかという回避策を、私と一緒に考えてみましょう」

 私は失敗して大混乱した新人に良く使っていた言葉を、ついついここで口に出してしまったけれど、キャンディスは目に見えて変な表情になり震えた声で言った。

「あの……ごめんなさい。とても、変なこと聞きますけど。もしかして……山下さんですか?」

 キャンディスが恐る恐る口にした名前を聞いて、私はその時、驚き過ぎて息が止まりそうになった。

 なんですって……山下さん。前世での私の名前。現代日本で使われる名前。この異世界では、絶対に聞くことがないはずの名前。

 もしかして……キャンディスも転生者で、前世の知り合いだということ?

「え? あの……そうです。確かに私が山下ですが、貴女は誰なんですか!?」