実際には、彼のことなんて怖くともなんともない。だって……私はここから自力で逃げる気満々だもの。

 鉄格子を両手に持って、昏い目で私をじっと見つめるダスレイン大臣。なんだか……あの頃のウィリアムを思い出してしまう。

――――希望の光が一切見えぬ、絶望の目。

 あれから短い期間しか経っていないというのに、彼ら二人の立場は逆転してしまったようだ。

 いえ……そもそもウィリアムだって、この大臣の策略さえなければ、幸せなままだったかも知れない。

 だから、この人だけは、絶対に許せない。

「ここから……出してください」

 思わず怒りで震えてしまった声でそう言えば、ダスレイン大臣は満足したように、鼻をふんっと鳴らした。

「お前の態度次第ということにしよう。夜に一度戻る……おい。良く見張っていろよ!」

「……かしこまりました」

 そこに残されたのは、一人の兵士。

 昏い目に無表情。

 彼だって何かダスレイン大臣に、耐え難い弱みを握られているのかも知れない。