## 恋愛小説『君に咲く花』

### 第一章 出会い

春の風が桜の花びらを運び、街中を淡いピンク色に染めていた。大学入学を控えた日向(ひなた)は、新生活への期待と不安を胸に、古びた駅のホームに立っていた。

「遅延か……」

電光掲示板に映し出された赤い文字に、ため息をつく。ふと隣を見ると、一人の女性が座っていた。長い黒髪が風に揺れ、儚げに舞う花びらが彼女の肩に落ちる。彼女は、どこか寂しげな瞳で空を見上げていた。

「きれいだね、桜」

思わず声をかけると、彼女は驚いたようにこちらを振り向き、少しだけ微笑んだ。

「うん……でも、すぐ散ってしまうのが悲しい」

その言葉に、日向は何か胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女の名前は、紗月(さつき)。偶然の出会いが、二人の運命を大きく変えていくとは、この時はまだ知る由もなかった。

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### 第二章 約束

日向と紗月は、それからも駅で会うたびに話すようになった。共通の趣味や将来の夢を語り合う時間は、二人にとってかけがえのないものとなっていた。

「いつか、満開の桜を一緒に見に行こうね」

ある日、紗月がそう言って笑った。その笑顔が、日向にとって宝物になっていく。

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### 第三章 別れ

春が過ぎ、夏が訪れる頃、突然紗月は駅に現れなくなった。不安が募る中、日向はようやく真実を知る。紗月は重い病に侵され、入院しているのだと。

病室で再会した紗月は、かすかに笑って言った。

「ごめんね、黙ってて。でも……どうしても、日向には元気な私でいたかったんだ」

涙が止まらなかった。日向は震える声で叫んだ。

「一緒に桜を見る約束、まだ果たしてないだろう!」

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### 第四章 最後の春

その翌年、桜が満開を迎えた日。病室の窓から、遠くの桜が見えた。

「ほら、桜……きれいだよ」

紗月は日向の手を握りしめながら、静かに微笑んだ。

「一緒に見れて、よかった……ありがとう、日向」

その手が冷たくなったとき、日向は空を見上げ、咲き誇る桜を見つめ続けた。涙が頬を伝い、桜の花びらと共に舞い落ちた。

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### エピローグ

数年後、日向は桜の名所として知られる公園にいた。そこには一本の桜の木が植えられていた。

「紗月、見てるか?今年も綺麗だよ……」

空に向かって微笑む日向の横で、花びらが舞い踊っていた。

【完】