歌音の番がやってきて部屋に入ると、視聴席に見知った顔を見つける。
歌音(あ)
理事長が軽く手をあげて笑いかけてきた。
軽く会釈をしてピアノの席に着く。
審査員「まずは課題曲の演奏をお願いします」
歌音「はい」
課題として提示された曲はベートヴェンのソナタ『悲愴 第2楽章』。
歌音(陽くんみたいにはできないし、ピアニストの演奏を普段から聞いている人たちからしたらたどたどしいかもしれないけど)
歌音(これが今の私にできる最高の演奏だから……出し切ろう)
気合を入れ、けれど曲の雰囲気のジャマにならないように丁寧に弾いていく。
儚くも美しく、愛情深い旋律を……。
(演奏で時間経過)
目立ったミスもなく進み、審査員が何かを書き込んでいくのが見える。
審査員「ではつぎに、作曲課題の審査に移ります。今回のお題は『物語』となりますが、まずは作ってきた曲のタイトルを教えてください」
歌音「はい。私が作ってきた曲は――」
自分『好き』を詰め込んだ曲だ。
前までは自信を持てずに委縮して、『好き』を外に出すことを戸惑っていたけれど……
歌音(今は違う)
私は私が思っているよりもずっと多くの人に支えてもらっている。
歌音はもうそのことに気が付いていた。
歌音(だから、自信をもって弾こう。この曲――)
歌音「――『春を待つ唄』」
【そして試験が終わり、結果を待つ私の元に桜が咲いたのだった】
(時間経過で、パソコンの前で大盛り上がりしている家族のコマと早咲きの桜の花びらが舞う様子のコマを挟む)



