2度目の初恋はセレナーデのように




 だから言葉にしてみせた。



 歌音「……陽くんが留学に行っても、遠距離になっても、ちゃんと応援するからね」
 陽暁「ん? 留学?」


 ピクリと動いた陽暁が首をひねる気配がした。


 歌音「うん。留学。行くんでしょ?」
 陽暁「え、僕が?」

 歌音「うん」
 陽暁「僕、在学中は留学するつもりないよ?」

 歌音「……ん?」
 陽暁「留学するなら卒業後かなって。いろいろと調整も必要になってくるし」


 予想外の答えに固まる歌音。



 歌音「え、ええ、ええええ!?」



 陽暁「ああ、やっぱりすぐにでも留学しちゃうと思ってたんだ?」


 陽暁は(あき)れたように笑った。


 歌音「だ、だってコンクールにでた人は留学するってジンクスがあるって聞いたからっ!
 それにいずれ世界に向かうって……」

 陽暁「まあ確かにそう言ったけど、そんな急に決まるわけじゃなし、ジンクスはジンクスだよ。それに僕はまだ大学で学びたいことも多いし、尊敬できる師もいるからね。……ていうか」



 陽暁は苦笑いを浮かべた。


 陽暁「ようやくノンちゃんと気持ちを通わせられたのにそんなにすぐ置いていくなんて……。しかも相談もしないで? ……僕そんなに無責任な男に見えてたかなぁ?」
 歌音「あ、え、いやそういうわけじゃ」

 陽暁「ふふ。冗談(じょうだん)だよ」



 陽暁は歌音の髪をひと房(すく)い、口づけた。



 陽暁「そんなの、僕が耐えられないよ」
 歌音「っ!」



 ぼっと顔が火照る。
 陽暁の瞳はいつになく真剣で、吸い込まれてしまいそうだ。



 陽暁「心配しないで。僕はちゃんと歌音のもとに帰ってくる。約束するよ」
 歌音「……うん」


 二人の視線が絡み、自然と顔が近づく。


 安心で心が満たされるようなキスだった。


 唇が離れると、笑い合う。



 陽暁「僕もいつだって応援しているよ。ノンちゃんなら、きっと合格できる。傍にはいられないけれど、ずっと応援しているから」


 陽暁はそう言いながら歌音の手に何かを握らせた。


 見てみるとそれは合格祈願のお守りだった。


 歌音「これ……」
 陽暁「うん。なにかできないかなって思ったんだけど……安直(あんちょく)すぎたかな?」



 歌音「っ、ううん」


 歌音は首を勢いよく横に振り、満面の笑みを浮かべた。


 歌音「すっごく嬉しい! ありがとう!」
 陽暁「ならよかった。僕は傍にいてあげられないけれど、代わりにこれを僕の心だと思って持っていて」


 陽暁もにへらとほほえむ。




 歌音「あ、あのね陽くん。私も陽くんに渡したいものがあるの」
 陽暁「渡したいもの?」


 歌音は(うなづ)くと照れくさそうにバッグから何かを取り出した。


 陽暁「これって……」


 歌音「えっとね……陽くんを想いうかべて作った応援曲、みたいな……。ほら、昔一回だけ作った曲をあげたでしょ? 陽くん喜んでくれていたから、またあげたいなって思って。……ってなんか恥ずかしいな!?」



 歌音はごまかすように頬を掻いたけれど、その赤みは隠せていない。

 陽暁はまじまじと楽譜を眺めた。


 陽暁「……君は本当に……」
 歌音「え?」



 ぎゅっと抱きしめられる歌音。


 陽暁「応援してくれてありがとう。嬉しいよ」


 その声は少し涙ぐんでいた。だから恥ずかしかったけど、渡せてよかったと思えた。


 歌音「……よかった。一緒に頑張ろうね」
 陽暁「うん。頑張ろう」



 陽暁の体温が伝わってくる。

 穏やかな心音が、耳に心地いい。