〇陽暁の部屋
ローテーブルに買ってきたケーキとその他お菓子を並べる二人。
歌音「本当におめでとう陽くん!」
陽暁「ありがとうノンちゃん!」
歌音・陽暁「「かんぱーい!!」」
チンッと小気味よい音が響き、一気に注がれたジュースを飲み干す。
口いっぱいにオレンジのほどよい酸味が広がった。
歌音「あーおいしい! やっぱり祝いの席で食べるものって普段よりおいしく感じるよね」
陽暁「あはは。普段から飲んでいるもののはずなのにね」
歌音「ふしぎだなー」
陽暁よりも歌音の方が浮かれている気がするけれど、そこはご愛嬌だ。
歌音「それにしても、もう教授たち動いてるの?」
今日は4日。
三が日は抜けているとはいえ、世間はまだ年末年始の休みの最中だ。
陽暁「あの選抜は結構スケジュール的にツメツメなんだ。それに教授たち、あの件で休みなしで会議とかしていたみたい」
歌音「あー……。お疲れ様です」
あの件といえば、ニュースになった件のことだ。
歌音(こちらに非があるわけでもないけど、なんだか申し訳ないなぁ)
さすがに休みなしは可哀そうだ。
歌音は心の中で合掌した。
歌音「ツメツメというと、これから陽くんどんな感じのスケジュールになるの?」
陽暁「そうだねー。……もともと鬼のようなレッスンが入ってたのに、さらに増える……かな」
歌音「うわ……」
陽暁は年始早々灰になった。
歌音はまたもや合掌をした。
歌音「でもそっか~。そうなるとさらに会えなくなるね。コンクールは3月だっけ」
陽暁「うん。だから3月の頭には向こうに行かないといけなくなると思う。……ノンちゃんが一番大事な時に傍にいられないのが気がかりだけど……」
陽暁はシュンとうなだれた。けれど歌音はニカっと音が付く様な笑みを向ける。
歌音「気にしないで! 私はどんなことがあっても陽くんを応援するって決めたんだ!」
陽暁「ノンちゃん……」
歌音「それにね、陽くんが頑張っているなら、私も頑張れるから。だからきっと陽くんと同じ大学に入るよ!」
いっておいて照れてしまうが、偽りのない本心だ。
今までも、そしてこれからも。それが変わることはないだろう。
にへりと笑った歌音を、陽暁は引き寄せた。
陽暁「ノンちゃん、可愛すぎ」
ふわり、と背中に腕が回された。
陽暁は歌音の首筋に顔をうずめ、甘えるようにすり寄ってくる。
陽暁「……ね。撫でて」
言われて撫でた陽暁の髪は見た目通り柔らかく、手触りがよかった。
歌音「ふわふわだね。初めて撫でたなぁ」
陽暁「いつもは僕が撫でてるもんね」
幼なじみとしていた今までも、恋人になってからも陽暁の頭をこうして撫でた記憶はない。
こうして甘えられるのは、陽暁が本当に心を許してくれた証拠なのだろう。
歌音は嬉しさをかみしめるように目を閉じた。
歌音(……うん。大丈夫。陽くんがこれだけ思ってくれているんだから、離れていたって大丈夫だ)
歌音はついに覚悟を決めることができた。
どれだけ離れようと、心が離れることはないのだと。



