2度目の初恋はセレナーデのように





 歌音「今の言葉、撤回(てっかい)しろオラアアアア!!」


 完全に頭に血が上っていた。
 歌音は粗暴(そぼう)な言葉遣いでケンカ腰に進んでいく。


 4人「「「「キャアアアア!?」」」」


 4人はよほど驚いたのか、甲高い悲鳴を上げて一斉に振り返った。

 けれど我を忘れた歌音の勢いは止まらない。

 男達の前まで進むと仁王立(におうだ)ちになる。


 歌音「陽くんは確かに才能の塊だよ。でもその才能を伸ばしたのは紛れもなく彼のたゆまぬ努力なの! 血のにじむような練習をこなしてきたの!」


 練習のし過ぎで手を痛めたことだってある。

 誰も知らないところで泣いていたことも知っている。



 それでも立ち止まらず、立ち上がって走り続けてきたからこそ今があるだけだ。


 歌音「陽くんがなんの苦労もしていない!? そんなことあるわけないわ!」


 陽暁の頑張りを分かってほしい。

 いいや、分からないまでもなかったことにされるのは我慢できなかった。



 赤い顔で怒る歌音だったが、彼らには届かなかったようだ。

 我に返った京は歌音のうったえを鼻で笑った。



 京「おやあ。誰かと思えば歌音ちゃんじゃないか。ずいぶんおもしろいことを言うね。頑張れば報われるって?」


 嘲笑(あざわら)うように湿度の高い笑みを浮かべた京が一歩進む。



 京「笑わせるな。頑張ったところで報われないことの方が多いんだ。なら手段を選ばずのし上がる。何をしてでもな。……才能をもって生まれた奴には、持たずに生まれてきた俺の気持ちは分からんだろうが」


 その顔には(さげす)みと見下しの色が濃く出ていた。

 けれど歌音はひるまないで真っ直ぐとその視線を受け止めた。



 歌音「私に才能なんてないし、がんばっても報われないこともあるのも分かってるわよ!」


 どれだけ必死に努力したって実らないことも多い。

 自分の才能のなさに悩んで、つぶれてしまう人だっている。



 歌音(私だって、そうだもの)


 歌音は過去を思い出す。

 才能に囲まれ、なぜ自分だけなにもないのかと悩んだ日々を。



 歌音(……それでも)


 歌音「それでも頑張ることすらやめてしまったら、なんにも残らない。だからどれだけ悔しくても、なんどくじけそうになっても、歯を食いしばって立ち上がるのよ!」



 歌音はキッと京を睨んだ。



 歌音「少なくとも陽くんはそうだった! だから今の彼があるの! だから応援してあげたいって思うの! なにも知らないくせに、悪く言わないでよ!!」



 歌音の剣幕(けんまく)に押された京だったが、ふんと鼻で笑った。


 京「おめでたい頭してんなぁ。おい」


 京は顎でヤンキーに指示を出した。

 二人がかりで歌音を押さえようと近寄ってくる。


 歌音「な、なによ」
 京「家で震えていればよかったのに。一人でのこのことやってきて、なにもされないだなんて思ってねえよな?」

 歌音「!」


 京の顔には下卑た笑みが浮かんでいた。


 じりじりと近づいてくる男達に、背筋が凍る。


 そりゃあそうだ。
 明らかにやばい場面を見てしまったのだから、無事に返されるわけがない。


 今更ながらに後悔するけれど、後の祭りだ。


 歌音はなんとか逃げ出そうとじりじりと後ずさった。
 けれど複数の男から逃れられるわけもなく、ヤンキーの手が歌音の腕を掴んだ。


 歌音(まずいっ――!)



 そう思ったとき



 ――バシン!!


 大きな音を立てて、男の腕が叩き落とされた。

 そして、歌音の視界に大きな背中が広がる。