〇キャンパスの裏側
人通りが全くない、普通に暮らしていたら近寄ることのない裏道の日陰で数人の男が集まっていた。
歌音は見つからないように壁に隠れ、そっと様子を伺う。
?「まじやってられねーわ!」
ヤンキーのように座りながらタバコを吸っている男は、イラついた様子で壁に吸殻を押し付けた。
ヤンキー1「警察が出てくるかもなんて聞いてねーぞこっちは!」
ヤンキー2「そうだぞ! もしも捜査されたら俺だってやべーんだから」
ヤンキー3「お前、一人だけ言い逃れしようとか考えてねーだろうな?」
?「まあ落ち着けって。短気はよくねーって教わらなかったのか?」
ヤンキーたちに囲まれて見えないが、奥にはもう一人男がいるらしい。
その男の声には聞き覚えがあった。
歌音(……! あの人)
黒髪に青の切れ長の目――確か、望月京という名だった気がする。
歌音(見た感じ……カツアゲ?)
カツアゲ現場などドラマなどでしか見たことなかったが、一見するとそういう場面のような気がする。
歌音(どうしよう……。誰か呼んできた方がいいのかな)
あわあわとする歌音だったが、続いて聞こえてきた言葉に体をこわばらせる。
京「警察呼ばれて困るのは学園もだ。なにせ俺には千賀教授にいろいろと融通してるからな。だからその話は教授が何が何でももみ消してくれるさ。なんの問題もないよ」
ヤンキー1「ならいいけどさー。こっちはひやひやしっぱなしだぜ」
京「それはお前らがいいとこでミスったからだろ。なんで制限時間程度の足止めもできないんだよ」
ヤンキー2「すまんって。俺だってあんなに早く見つけられるなんて思ってなかったわ」
京「誰かに見られてたんじゃねーのか? じゃなきゃあんな小娘一人、なにもできやしないだろ。……俺のことは言ってねぇだろうな?」
ヤンキー3「い、言ってねえって」
そういいつつ京もタバコをふかした。
京「……まあいい。これであの女……名前なんていったか。……ああそうだ。カノン、だったか。あの女が久遠の弱点だってことがはっきりした。これからはあいつを狙えばいいってことだ」
歌音「!」
息を殺していた歌音、突然自分の名前が出てきて冷や汗が出てきた。
歌音(話の内容から察するに、あの事件はこの人たちが……?)
明らかに聞いたらやばい話をしているのは分かる。
どうやら教授と癒着をしているらしい京が、この間の事件をもみ消そうとしているようだ。
そして京は、明らかに歌音を狙っていたことになる。
歌音(……でも、なんで?)
歌音には京からこんな風に狙われる理由がわからなかった。
知り合って1度しか会っていないし、それも図書館での数分のことだった。
こんな風に恨まれる覚えはない。
となると……。
歌音(さっき『久遠の弱点』って言っていた。……ということは陽くんが狙い?)
以前図書館で陽暁と京がにらみ合った時のことを思い出す。
明らかに友人という感じはしなかった。それどころか――
歌音(憎しみを持っているような……)
あの目には多少縁がある。
幼いころは才能にまみれた家に生まれた自分にも向けられていたものだ。
『才能をひけらかすな』
『優秀な家に生まれただけのくせに』
まだ自分に才能があるか分からなかったとき、周りの子が口にした言葉。
誰かをうらやむときにでる言葉だ。
俗な言い方で言うならば
歌音(陽くんのアンチってこと?)
以前みりあに注意されていた「ファンが多ければアンチも多い」という話を思い出し、歌音は頭を抱えた。
歌音(気をつけろと言われていたのに……!)
つまり陽暁を陥れるために自分が使われたのだということに気が付く。
悔しくて拳をにぎりしめた。
京「それにしても悪運の強い……。あのじじい教授も久遠に甘すぎんじゃねーか?」
ヤンキー1「まあ久遠とあのじいさん、愛人関係なんじゃねーかってウワサがあるくらいだからな。色仕掛けでもしてるんじゃね?」
京「ははっ、それで買収してんのか。あり得る!」
ヤンキー2「癪だけど顔はいいからな。イケメンは得だよな。なんの苦労もしねーでそうできてよ~」
歌音「っ!」
歌音の顔が怒りに染まる。
歌音(陽くんがなんの苦労もしていないですって!?)
歌音は知っていた。
陽暁がどれだけ血のにじむ努力をしていたか。
だから我慢できなかった。
気が付くと壁から飛び出し、京たちに声を荒げていた。



