陽暁「ごめん、おまたせ」
歌音「ううん。大丈夫だった?」
陽暁「うん。特に問題なかったよ」
歌音「そっか。よかった! ……ねえ、陽くん」
陽暁「ん?」
歌音「陽くんはさ、これから先、世界に行くつもりなの?」
陽暁「うーん……。プロになるんだったらいずれはって感じだけど、どうしたの?」
歌音「……やっぱり、そうだよね」
歌音の様子に首をかしげる陽暁。
一方の歌音はその言葉に覚悟を決め、陽暁へ真っ直ぐ視線を向けた。
歌音(陽くんが世界に行くのを止めることはできない。……でも)
歌音(また伝えもしないで終わるのはイヤだから……)
今ここで、自分の想いにかたをつけよう。
歌音はそんな思いで口を開いた。
歌音「私ね……陽くんのことが好き。ずっと好きだったの」
陽暁「え」
歌音「会えなくなってから諦めたつもりだったけど、会ったらやっぱり好きだって思っちゃった」
シンとする室内。
陽暁はいつもの笑みを消して、驚いたように歌音を見ていた。
歌音「……いきなりこんなこと言われても困っちゃうよね。ごめん」
陽暁の反応に脈なしだと感じ取り、ジワリと涙が浮かんでくる。
妹のように思われているとは分かっていたけれど、はっきり現実を突きつけられるとやはり心が痛い。
けれど歌音は心配させまいと涙をぐっとこらえ、痛々しい笑みを浮かべた。
歌音「でも……応えてほしいわけじゃないから安心して。自分の気持ちにケリをつけたかっただけだから――」
陽暁「なんで?」
歌音「え?」
陽暁「なんで応えてほしいわけじゃないなんていうの?」
陽暁の言葉の意味が分からずに陽暁の顔をまじまじと見ると、なぜか悲しそうな顔をした陽暁と目が合った。
陽暁「ノンちゃんは、僕がどんな想いを君に抱いているか、知らないでしょ?」
歌音「え、っと。それってどういう……?」
陽暁「知りたい?」
悲しそうな顔は一瞬で、気が付くと陽暁はいつもの笑みを浮かべていた。
陽暁「でもだーめ。今、僕と君は仮にも教師と生徒だもん。だから、宿題にしてあげる」
歌音「しゅ、宿題?」
陽暁「そう。僕が明空を去るまでにこの問題を解き明かしてみて」
陽暁はそう言いながら歌音の手を取った。
陽暁「――気になるのなら、暴いてみせてよ」
ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた陽暁は、歌音の左手の薬指へキスを落とした。
チュッという可愛らしい音が響く。
歌音「!!?」
陽暁「……さて。遅くなるといけないから、今日はもう帰りなさい」
動揺している間にいつもの雰囲気に戻った陽暁に帰りを促され、呆然としたまま帰る歌音。
歌音「~~~~~っ!?」
自分の部屋に戻ったら脳が動き出して、先ほどされたことの意味を理解し、真っ赤に。
ドアを背に、ズルズルとしゃがみ込む。
歌音「ど、どういうことなの~~~!?」
思い浮かぶのは今まで見たことがなかった陽暁の顔で……。
もしかしたら陽暁は、自分が思っているような優しいだけの人ではないのかもしれない。



