2度目の初恋はセレナーデのように



 〇音大・選抜の少し前
 暗くなりかけの夕空の下、音大に到着する歌音(イヤリングをつけている)とみりあ。

 会場の前で待っていた陽暁はみりあを見つけるとげっという顔をした。


 陽暁「なんでお前が?」

 みりあ「ふふん。歌音ちゃんに誘われたのよ。残念だったわね、わたしたちが仲良しで」
 陽暁「嘘つけよ」


 顔を合わせるとすぐにケンカ腰になる二人に苦笑いをこぼす歌音。

 けれどその笑みもすぐに寂しそうな表情になる。


 陽暁「ノンちゃん?」


 一瞬だったはずなのに、陽暁は歌音の僅かな変化に気が付いて首を傾げた。


 陽暁「どうかしたの?」
 歌音「あ、うん。……弾くのは陽くんなのに、なんかこっちが緊張しちゃって。頑張ってね陽くん!」

 陽暁「……」


 にっこりとごまかす歌音だったが、陽暁はじっとこちらを見ていた。


 陽暁「あのさ、ノンちゃん」


 陽暁がなにかを言いかけたとき、奏者(そうしゃ)たちのウォーミングアップが始まったようで、音が漏れてきた。


 歌音「あっ、ほら。こんなところで油を売ってないで、陽くんもウォーミングアップしないと!」
 陽暁「あ、うん。そうだけど……」

 歌音「ほらほら。急いで~!」


 歌音は一緒にいると抱いている不安が伝わり応援できないと思って、陽暁を控え室へと送り出す。

 陽暁はしぶしぶではあったが控室に向かっていった。


 バレなかったことにほっとする歌音。


 歌音「じゃあ私たちも会場に入ろうか」
 みりあ「そうね。えっと席は……2階4列の……」


 会場は緊迫(きんぱく)した空気に包まれていた。

 流石はコンクール出場権のかかった大一番だ。


 歌音「すごいね。皆気合の入り方が違うや」
 みりあ「そうね。見ているこっちが緊張するわ」


 思わず小声になる。


 しばらくすると、観客もぞろぞろと揃ってきた。
 もうすぐ始まるのだろう。


 歌音「ごめん。始まる前にお手洗い行ってくるね」
 みりあ「分かった」


 12月中旬の夜、しかもこの緊張感の中、すべての奏者が終わるまで何時間かかるのか分からない。
 前もって準備は必要だろう。


 歌音はそう告げると上着だけ置いて席を外した。