〇家の前
いろいろと近況報告をしながら歩いて帰ってきた二人。
陽暁「そうだ、ノンちゃんに見せたいものがあるんだ」
歌音「見せたいもの?」
陽暁「うん。よかったら寄っていかない?」
陽暁に誘われて少しだけ家におじゃますることに。
部屋に上がると見せられたのは大きなトロフィーだった。
陽暁「ほら、これ!」
歌音「これって、コンクールのトロフィー?」
陽暁「そうそう! ノンちゃんトロフィー見たがってたでしょ。はい」
歌音「はいって……。こ、これ私が触っていいやつなの!?」
陽暁に渡されたトロフィーを受け取りあたふたする歌音。
陽暁「もちろん。ノンちゃんがいたからこそとれたようなものだし」
歌音「ええ? 私なにもしてないよ?」
陽暁「ううん。ノンちゃんがいなかったらここまでピアノを続けてなかったよ。だから絶対に見せてあげたくてさ」
照れたように笑う陽暁に首をひねる。
陽暁にそこまで言われるようなことをした記憶が歌音にはなかった。
考えても分からずにトロフィーへ視線を落とす。
キラキラと輝くトロフィーは陽暁が日本一に輝いたことの証明で、誇らしい気持ちになった。
歌音「本当にすごいなぁ。陽くん、ずっと頑張っていたもんね! 本当におめでとう!!」
陽暁の頑張りが報われたことが嬉しい。
歌音(嬉しい……けど)
幼なじみが離れていった証明のようで、少しだけ胸が痛んだ。
歌音「…………なんだか寂しいな」
陽暁「え?」
歌音「っ! ううん、なんでもないよ!」
思わずこぼれてしまった呟きをごまかし愛想笑いを浮かべる。
陽暁「……あのさ、ノンちゃん」
陽暁が何かを言おうとしたとき電話がなった。
陽暁「……教授からだ。何だろう。ちょっとごめんね」
そう言って出ていく陽暁に息を吐き、机に突っ伏す。
歌音(危なかった。言えるわけないよ。……会えなくなるのが寂しい、なんて)
だって日本一になったということは、これから先、世界に羽ばたいていくことが決まっているということ。
それはつまり、再び離れ離れになるということだ。
歌音(……陽くんを応援しているのは本当。だってずっと頑張っているところを見ていたんだもん。頑張った分だけ、報われてほしい)
歌音(でも……)
歌音の脳裏に何も伝えることすらできずに会えなくなったときのことが思い浮かぶ。
会えなくなった後に残ったのは、伝えておけばよかったという後悔だった。
歌音(またあんな思いをするなんて、いやだな)
せっかくまた会えたのに、また同じことの繰り返しをするなんて耐えられそうにない。
そうなるくらいなら、いっそ――。
歌音(当たって砕けたほうがいいのでは……?)
はっとした顔になる歌音。
歌音(そうだよ。一人でモンモンとしているくらいなら、やってみろ私ぃ!)
そんなことを考えていると陽暁が戻ってきた。



