〇家の前
いつものふんわり系ではなく少しかっちりとした雰囲気(カーディガンではなくジャケットとタートルネックを合わせている&左耳だけに赤い石のピアスをつけている)の陽暁が待っていた。
陽暁は歌音に気が付くとすぐに甘い笑みを向ける。
陽暁「ノンちゃん」
歌音「わーごめん! 時間ギリギリになっちゃった!」
陽暁「僕もさっき出たところだし急がなくても大丈夫だよ。でも早く会いたかったから嬉しいな。いつもの雰囲気も好きだけど、今日の服装も可愛いね」
歌音「うっ」
にこりとほほえまれ赤面。
陽暁「あ、ほら。急いだからか髪が」
歌音「え、乱れてる?」
陽暁「整えるからじっとしていて」
歌音「う、うん」
歌音の顔にかかった髪を払った陽暁は、そのまま歌音の耳もとを触った。
陽暁「イヤリング付けてくれているんだ。嬉しいな」
歌音「そうなの! これ可愛くてすごい気に入っちゃった!」
今日のコーデには誕生日プレゼントとして貰ったイヤリングを使っている。
しゃらしゃらと揺れるのも気に入りポイントだ。
くるりと回ってみるとクスクスと笑われた。
陽暁「うん、可愛いよ。……ちなみにイヤリングとかピアスを異性に送る意味って知ってる?」
歌音「え、意味なんてあるの?」
陽暁「もともとアクセサリーには魔除けの意味合いもあってね、そこから転じて贈った相手を見守るっていう意味があるんだって。僕もノンちゃんを守るって決めていたから、ちょうどいいかなって思って選んだんだよね」
歌音「!」
陽暁は話しながら愛おしそうに頬を撫でてきた。
手つきが優しくて、宝物に触れるかのようで照れてしまう。
歌音「そ、そうなんだ。嬉しいな。……なら、ずっとつけていようかな。そしたら離れていても陽くんが近くにいるみたいだし」
陽暁「ふふ。そうしてくれると僕も嬉しいよ」
ちらりと陽暁を見上げると、とにかく甘い目をしていた。
そして手が差し出される。
陽暁「さ、行こうか」
歌音「あ、うん」
陽暁は何のてらいもなく恋人繋ぎをしてくるが、歌音は心臓が破裂しそうなほど緊張していた。
歌音(手、大きいな)
ピアニストだからなのか、男の人だからなのか。
男性経験の乏しい歌音では分からないが、自分の手が包み込まれているのを感じると、どうしても意識してしまう。
ちらりと隣の陽暁を見上げると涼しい顔をしていたので、変に意識しているのは自分だけなのだろう。
歌音(なんだか、悔しい)
たった2歳の差でここまで違うものなのだろうか。
そんな風にモンモンとしている歌音だったが、陽暁の弾んだ声で現実に引き戻された。
陽暁「奏くんもついに個展か~。楽しみだね」
歌音「あ……うん」
陽暁「ん? どうかした?」
歌音「ううん! なんでも!」
変に意識していたことを悟られたくなくて被りを振る。
歌音「そ、それより楽しみだね! 音楽以外の美術ってあんまり馴染みはないけど、お兄ちゃんのガラス細工は小さいころから好きだったからさ。ついに個展までって感慨深くなっちゃう」
兄・奏と歌音は6つ年が離れている。
そして奏は中学のころにガラス細工に出会い、すぐに専門学校へと進んだ。
そのおかげで歌音は小学校のころからガラス細工の作品に触れてきている。
陽暁「確かノンちゃんへの誕生日プレゼントも手作りのアクセサリー入れだったよね。ほら、あのピアノ型の」
歌音「そうそう! あれすごいよね。よくあんな細かいモノ作れるなって感心したもの」
陽暁「奏くん、SNSですごい話題になっていたよね。僕も見たよ。『新進気鋭の謎ガラス細工職人 souに迫る!』ってやつ」
歌音「パパ譲りの発想力とママ譲りの繊細さを受け継いでいるから、美しい作品をバンバン生み出しているから注目されているみたいだね」
陽暁「そう言えば今回の個展では顔出しされるかもって話題になっていたよね」
陽暁の言葉にぴくりと反応する歌音、苦笑いに。
歌音「そうなんだよね。今まで顔出ししていなかったから謎だったsouの顔が、ついに今日分かるんじゃないかって盛り上がってるみたい。……でも」
兄を思い浮かべる歌音。
【タンクトップに大工さんのようなダボっとしたパンツ。頭にタオルを巻いた奏がニカっと笑っている】
歌音(……うん。どう考えてもあの繊細な作品を生み出す顔じゃない)
歌音「……お客さん達がお兄ちゃんの顔を見てイメージとかけ離れてるってショック受けないか心配だなぁ」
陽暁「あはは! 奏くん、見た目完全にガテン系の兄ちゃんだもんね」
歌音「三白眼で怖い印象持っちゃうもんね。いや、本当は優しいんだけどさ……。それでもガラスの靴を持った王子様かと言われたら……、ちょっとね」
記事の人物像では『ガラスの靴を持ってくる王子様のような人』ではと騒がれていたので、歌音は複雑な心境だった。
歌音「大丈夫かなぁ……」



