〇町家カフェ
落ちついた雰囲気で、可愛らしい小物があしらわれた店内。歩き回って疲れたので休憩中。
歌音「あ~! 美味しかった~! たくさん食べたね」
陽暁「そうだね。みたらし団子は絶品だった」
歌音「それね! 毎日でも食べたいくらい!」
陽暁「あはは。ノンちゃんらしいや」
デート前にあれだけ緊張していた歌音だったが、すっかり気恥ずかしさを忘れてデートを楽しんでいた。
ふと窓の外を見ると夕暮れの空が見える。
歌音「たくさん遊んだね~。もう陽が沈みそう」
陽暁「早いね。そうだ、もう一か所だけ行きたいところがあるんだけど、大丈夫そう?」
ちらりと歌音の足を見る陽暁。
歌音(心配してくれているんだ)
途中で何度も休ませてもらったけれど、なれない草履で歩き回っていたので足は疲れ切ってはいる。
それでもまだ一緒にいたい。
歌音「うん大丈夫!」
だから歌音は笑顔で言い切った。
陽暁「それならいいけれど、無理はしないでね?」
歌音「大丈夫だよ。どこに行くの?」
陽暁「それはついてからのお楽しみ。でも損はさせないから楽しみにしていて」
陽暁はイタズラな笑みを浮かべた。
歌音(あ……)
陽暁「さて、それならここを出る前にお手洗いに行ってくるよ」
歌音「あ、うん。分かった」
陽暁を見送りぼんやりとする歌音。
歌音(陽くんもああいう顔するんだなぁ)
先ほどの笑みを思い浮かべる。
いつもより無邪気というか、ワクワクとした顔のようで、思い出すだけで胸が高鳴る。
思わず歌音まで笑みを浮かべた。
再会してから、知らなかった陽暁の一面をたくさん見ている気がする。
それは歌音にとっては嬉しいことだった。
歌音(……もっと知っていけるといいなぁ)
歌音「……ん?」
なんて思いながらぼんやりしていると、緊張ぎみの店員さんが目にとまった。
歌音(あの子……新人さんなのかな?)
一生懸命に先輩らしき店員についてまわり、時折メモを取っている店員は初めて一人でパフェを運ぶところのようだ。
なんとなく目で追っていると、ぎこちなく配膳を始めた。
歌音(がんばれ……)
思わず心の中で応援する歌音。
そのとき信じられない光景を目撃する。
歌音(ええ!?)
明らかに新人店員なのに、テーブルの客は態と足を引っかけた。
――ガシャーーン!
女性客「ちょっと!! なにしてんのよ!」
新人店員「も、もうしわけありません!」
運んでいたパフェが客に掛かり、激高するギャルっぽい客。
一緒に座っていた男性客はヤンキーのようで、ニヤニヤと笑っている。
ヤンキー「あーあー。せっかくの服がシミだらけになっちまったじゃねーか。どう責任とってくれんだ?」
新人店員「も、もうしわけ……」
新人店員はガタガタと震え、泣きそうになっている。
歌音は見てしまった理不尽に耐えられず声を上げた。
歌音「ちょっと! さっきわざと足を引っかけていたの見ましたよ!?」
新人店員を庇うように前に出る。
ギャル「はあ? なにあんた? あんたが服のクリーニング代だしてくれんの?」
歌音「なんで私が!? ていうかそうなったのはあなたが原因じゃない! 自業自得よ!」
ギャル「関係ないやつが出しゃばらないでよ!」
激高していた女性客の怒りの矛先が歌音に向く。
ギャル「……って、あれ? あんたもしかして見雪歌音?」
歌音「……え?」
ふと名前を呼ばれて首をかしげる。
マジマジと女性客の顔を見上げれば……
歌音「――あ」
歌音の顔から血の気が引いていった。
歌音「――わ、たなべさん?」



