2度目の初恋はセレナーデのように


 〇歌音の家
 母(見雪(みゆき)音羽(おとわ))と父(見雪(つづり))と向き合って座る歌音は、真剣な表情で進路の話をしていた。


 歌音「ママ、パパ。私ね、やっぱり作曲家になりたい。大切な人たちを表す曲を、そして好きだという気持ちを曲に込めて……聴く人を元気づけられるような曲を作りたいの」

 歌音「パパは物語を通してそうしているし、ママはピアノを弾いて人を感動させている。私もそんなことができるようになりたいって思ったんだ」


 歌音は少しだけうつむき、言いにくそうに口を開いた。


 歌音「……私に才能がないのなんて分かっている」


 今までの生活で突出した才能がなかったことを振り返る。

 母のようにピアノが上手なわけでも、父のように文才があるわけでも、兄のように手先が器用(きよう)でもない。


 それでも



 歌音「でも! それでも夢を諦めたくないの。できるところまで……ううん。できなくてもできるまでやりたいの。私、器用じゃないし、頑張り続けることくらいしかできないけど、それでもやりたいんだ」


 言い切ると思い切り頭を下げた。


 歌音「だからお願い。音大に行かせてほしい」


 自分からお願いをするなんて本当に久しぶりのことで、ドキドキと鼓動(こどう)が大きく聞こえてくる。


 父「……が」
 歌音「え? ……!?」


 緊張(きんちょう)しながら頭を下げていると、父が何かをつぶやいた気がした。


 けれど聞こえなくて顔を上げると、父は号泣していた。


 父「ノンちゃんがそんなこと言ってくれるなんて~~~~~!」
 母「あらあら……」


 それを若干(じゃっかん)引きぎみで笑っている母。

 歌音はなぜそうなったのか分からずに狼狽(うろた)える。


 歌音「えっ、パ、パパ? なんで泣いて……!?」

 父「うお~~ん」
 母「まあ気持ちはわかるわ。娘にそう言ってもらえて喜ばないクリエイターはいないわよね。……でもパパ、泣き過ぎよ」

 父「だ、だって~~~!」
 母「もう」


 母は呆れぎみに笑い、歌音をみつめた。


 母「歌音。こっちに」
 歌音「え、あ、はい」


 背筋を正した母につられて背筋を伸ばす。


 真っ直ぐに見つめれば、真剣な母の瞳とぶつかりあった。



 母「音楽の道は、芸術の道は楽しいことばかりではないわ。息詰まることもあれば、自分の能力に限界を感じてしまうときもある。挫折(ざせつ)しないとも限らない。……しかも、それで食べていける人なんてほんの一握(ひとにぎ)りよ。それを分かっていて、その道に進みたいと言っているのよね?」



 確かめるような、見定めるような母の視線。

 けれど歌音は視線を反らすこともなく頷いた。


 歌音「……わかってるよ。私だって中途半端な気持ちで言っている訳じゃない。それでもここで一般大学を選んだら、絶対に後悔しちゃうと思う。始める前から諦めたくはないの。ママも知っているでしょう。私の諦めの悪さを。できないなら、できるまでやりたいんだ」
 母「もちろん知っているわ。……そう、決意は固いのね」


 歌音をじっと見つめる母。

 しばらくするとふっとほほえんだ。


 母「ようやく、道を見つけられたのね。さすがはママとパパの子! 私たちは貴女の選択を応援するわ。頑張りなさい」


 母はそう言うと優しく歌音の頭を撫でる。


 歌音「……いいの?」
 母「いいもなにも、貴女が選んだ道だもの。私たちが応援しないでどうするの。それに私たちはね、貴女ならやれるって信じているのよ」

 歌音「え?」


 思いも寄らない母の言葉に首を傾げる歌音。


 母「貴女は自分に才能がないと思っているのだろうけれど、誰に言われずとも努力を続けられる子よ。……それはどんな才能よりも大切で、何かを為すにはなによりも必要なものだわ」
 父「そうだよ。ノンちゃんはいずれ誰よりも大きな花を咲かせるだろう。だから自分を信じて、おもいきりやりなさい」

 歌音「ママ……パパ……」


 歌音(二人が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて……)


 歌音は両親が芸術一家にうまれておきながら突出した才能を持ち得なかった自分のことを恥ずかしく思っていると思っていた。
 けれど実際はその真逆で、期待されていたことを知り涙ぐむ。


 歌音「――うん。私、頑張るよ」


 期待を裏切らないために。自分の道を進むために。


 涙を拭って笑う歌音と、優しい顔つきの両親。



 母は空気をまとめる様に手を叩いた。



 母「それじゃあ、急いで手続きとか始めないとね!」
 父「なら僕は銀行に行ってくるよ!」

 母「お願いね! 歌音は私と残ってレッスンを始めましょう!」
 歌音「……え?」

 母「え? じゃないわよ。座学は心配していないけど、作曲コース志望って言っても実技演奏は試験に含まれるじゃない」
 歌音「そうだけど……ママがレッスンしてくれるの?」

 母「ええ! 私がしっかりとサポートしてあげる! さあ、時間もないから詰め込み気味で行くわよー!」


 気合十分な母に少しだけ腰が引ける歌音(母のレッスンはかなりのスパルタだと知っているため)だったが、頑張ると決めたからと意識を変える。


 歌音「……頑張ってついていくから、お願いします!」
 母「その意気や良し! やるわよ!」


 こうして見雪一家は慌ただしく動き出したのだった。


 (入試対策をする様子をダイジェスト ※志望する音大の入試は「作曲」や「演奏」などの実技と「音楽理論」や「一般学科」などの座学、そして面接がある)


 ・授業を真面目に受ける様子

 ・模擬面接を学校で受ける様子

 ・学校が終わるとすぐに帰宅して母のレッスンを受ける(必死な形相をデフォルメで)→課題を出されて悲鳴を上げる

 ・五線譜に書き込んで作曲している様子

 ・机に向かって勉強をしている様子

 など

 (ダイジェスト終了)


 そうして月日はあっという間に流れ、10月後半に。