2度目の初恋はセレナーデのように


 〇図書館
 一面の本棚に圧倒(あっとう)され、ワクワクする歌音。

 いろんな棚から本をとって、奥の方にあった二人掛けの席に腰を下ろす。


 そんな歌音に一人の男が近づいてきた。


 (けい)「ねえ君、歌音さん、だよね?」
 歌音「え?」


 驚いて顔を上げると黒髪の見たことのない男の姿が。

 知らない相手に名前を呼ばれたことに警戒(けいかい)する歌音だったが、男はふっと笑みを浮かべた。


 京「突然ごめんね。俺は望月(もちづき)(けい)。久遠君と同じピアノ専攻の院生で彼とは友人なんだ」
 歌音「陽くんの友達、ですか」


 じっと京の様子を見つめる歌音。


 望月京:柔らかそうな黒の短髪で、青の切れ長の目が大人の色気を(かも)し出している。陽暁とは種類の違うイケメン。大学院生(23歳)。


 歌音(さっきの演奏会にはいなかった気がするけど、院生だからかな?)


 疑問を浮かべていると、京はしゃべりながら向かいの席に腰を下ろし、歌音をじっくりと見回す。


 京「そうそう。さっき偶然(ぐうぜん)久遠君が歌音さんと話しているのを見ちゃってね。あいつが女の子と親し気に話しているのを見るのは初めてだったからさ」
 歌音「は、はあ」

 京「もしかして彼女とか?」
 歌音「え!?」


 彼女という単語にびくりと反応する歌音に、にんまりとした笑みを浮かべる京。



 京「やっぱりね。確かに歌音さん可愛らしいから、久遠君が好きになるのもわかるな」


 京はふいに歌音へと手を伸ばし、顔にかかっていた髪を耳にかける。

 じっと目を合わされ慌てる歌音。どう反応していいのか分からない。


 歌音「え、えと。あの……」

 京「いいなあ。俺も付き合えたりしない?」
 歌音「ええ!?」

 京「俺こう見えて親もピアニストだし、俺も将来有望だって言われているんだけど、どうかな?」
 歌音「ど、どうって……」


 歌音(なんだか変な雰囲気(ふんいき)になってきちゃった……!)


 歌音「あ、あの! 私そろそろ時間がっ!」


 歌音は慌てて逃げ出そうと席から立ち上がろうとする。
 けれどそれを見越し立ち上がった京に肩を押え込まれ、立ち上がることができなかった。


 京「まあまあ。話だけでも聞いてよ」
 歌音「いやあの……。困ります」


 終始(しゅうし)笑顔の京だったが、雰囲気はどんどん怪しくなっていく。


 歌音(なんだか危ない感じがするんですけど……!?)


 怖気ついた歌音は青ざめて困り顔になったが、京はお構いなしにしゃべり続けた。


 京「こんな可愛い子がいるなら口説かないと失礼ってもんでしょ? それに久遠君はすぐにでも留学に行っちゃうかもしれないんだしさ」
 歌音「っ!」


 歌音が一番気にしていた部分を指摘してきた京に息をのむ。


 京「海外との遠距離だといろいろと寂しいでしょ? その間、俺が君の寂しさを埋めてあげる」

 京「俺、顔も悪くないと思うし、悪い話じゃないだろう?」



 思わず京を見上げると、その目には獲物を狙うような鋭い光が浮かんでいた。


 歌音(なんだか、怖い……!)


 口説かれることに慣れていない歌音でも、その目が可愛いと思っている人を口説く目ではないということだけはわかった。


 京「だから、ね?」






 陽暁「――何してんの」


 再び伸ばされてきた手に怯える歌音だったが、京の腕が歌音に届くことはなかった。


 顔を上げれば歌音の後ろには陽暁が立っており、歌音を守るように京の腕を掴んで止めていたのだ。



 歌音「はるくん……」


 ほっと息を吐く歌音。

 対してにらみ合う陽暁と京は険悪(けんあく)な雰囲気だった。


 京「……別に? かわいい子がいたからお話していただけだよ」
 陽暁「……お前が?」

 京「まあね。だってかわいい子がいたら口説かないと失礼だろ?」
 陽暁「相手が怯えているのを無視して口説くなんて、失礼以前の問題だと思わないか?」

 京「思わないね。久遠君の価値観(かちかん)を押し付けないでもらえるかな」
 陽暁「……」


 一触即発(いっしょくそくはつ)の雰囲気で、どうみても友達という雰囲気ではない。


 京「……興がそがれたな」


 そうつぶやくと京は案外すんなりと(きびす)を返した。



 京「じゃあね歌音さん。また今度」


 【去り際にもう一度歌音を見て口角を上げる京。その目は歌音のことを獲物(えもの)と認識したような目だったが、二人からは見えなかった】