みりあ「あいつって顔はいいじゃない?」
歌音「え?」
みりあ「ほら。ふわふわ系というか、俗にいうイケメンの部類に入るでしょ? さすがわたしの親戚って感じよね」
歌音「あ、うん」
歌音(自分で言うんだ……)
みりあ「でもね、見目がいいと苦労することも多いのよ。こっちは何もしていなくても周りがいがみ合ったり、独占しようと周りから孤立させられたりね」
恐らくみりあも今までそういう苦労をしたのだろう。
ちらりとみりあを見るとイヤそうに眉を寄せていたが、かわいらしさは少しも損なわれていない。
みりあ「適度な距離感を保ってくれるファンはありがたいんだけど、まあそうじゃない人たちも多いのよね。……特に有名になり始めたあいつのそばに来るような輩はファンもアンチも質が悪いわ。傍にいれば、目の敵にされるのよ」
歌音「それは……みりあちゃんみたいなかわいい子でも?」
みりあ「そりゃあそうよ」
憤慨するみりあ(ディフォルメで)。
みりあ「ファンには嫉妬を向けられるし、アンチにはあいつのせいで絡まれるし! お気に入りの本は破かれるわ、つけ回されるわで、ほんとろくなことがないんだから!」
歌音「そ、そんなに……」
みりあ「ああもう! 思いだしたら腹がたってきたわ!」
歌音「ど、どうどう」
みりあの圧に気おされた歌音だったがなんとかなだめる。
みりあは元に戻ると咳払いをした。
みりあ「……まあそう言う訳で、日本最高峰のコンクールを取ったあいつには、今後もっと多くの人が集まってくるようになるわ。そうなればあいつのそばにいる人に及ぶ害は格段に増えることになる。分かる? 今までとは住む世界が変わるわ。あいつの近くはもはや修羅の世界よ」
歌音「…………住む世界が違うってそういう……?」
以前「住む世界が違う」と警告されたことを思いだす。
あのときは陽暁と歌音の容姿が釣り合わないとか、才能の違いとかそういう意味だと思っていた。
けれどどうやら違ったみたいだ。
みりあ「え? ええ。元からそういう意味でしか言っていないわ。だってあなたのこと何も知らなかったもの。そんな人を悪く言う訳ないじゃない。……もしかしてそっちの意味で捉えていたの?」
歌音はおずおずと頷いた。
みりあ「やだっ! そんな風に思われてたの!? もー! わたしが悪質なファンみたいなことするわけないでしょ~!?」
歌音「ご、ごめん」
みりあ「……まあ変な言い方をして肝心な部分を伝えられなかったわたしにも非はあるけどさ~。陽暁のファンみたいに思われてたとか複雑~!」
ぷりぷりと怒るみりあは口を大きく膨らませて見せた。
どこかおちゃめな抜け感が出ていて、完璧美少女というよりは年相応な印象を受ける。
歌音「ファンというか……彼女なのかと……」
みりあ「っはああ!!? ないないない!! なんでそうなるのよ!?」
みりあは陽暁の反応とよく似た反応を示した。
みりあ「どう考えてもあいつはあなたしか見てなかったでしょ!?」
歌音「そ、そうなの?」
みりあ「まって。もしかしてそれにすら気が付いてなかった感じ?」
こくりと頷く。
みりあは呆けたように空を仰いだ。
みりあ「…………そう。ならあいつがあなたに近づく人を徹底的に排除していたのもしらないのね」
歌音「え?」
みりあ「だってあなた今まで陽暁のそばにいながらファンやアンチから危害を加えられたことないでしょ?」
歌音「……たしかに」
幼なじみとしてずっと近くにいたけれど、ファンやアンチに危害を加えられた記憶はない。
みりあ「男はもちろん、あいつ絡みであなたに危害を加えようとした女も遠ざけられていたわ。変な時期に転校とか引っ越しとかした人、いたんじゃない?」
歌音「え? ええと……いた、けど」
思い当たるふしがある歌音。中学のことを思いだす。
【中学であったこと→歌音のことを「芸術一家の落ちこぼれ」と呼んで笑ってきた女の先輩が急に引っ越していったこと】
みりあ「それ、あいつの仕業よ」
歌音「え? そんなのどうやって……」
みりあ「そんなのきょうh 陽暁「なんの話?」」
みりあが何かを言いかけたとき、後ろからにゅっと陽暁が現れた。
真っ白になって固まったみりあは、状況を把握すると猫のように飛び上がった。
みりあ「きゃーーー!? 出たわね!?」
陽暁「人を幽霊みたいにいわないでほしいんだけどね」
みりあ「似たようなものでしょ!? ていうかなんでここに!? ストーカー!?」
陽暁「まさか。お前じゃあるまいし」
みりあ「わたしがいつストーカーしたのよ!」
憤慨するみりあを涼しい顔でいなした陽暁が、歌音へと視線を向ける。
歌音「は、陽くん。どうしてここに?」
陽暁「音羽さんが呼んでいたから探してたら偶然ね。今日は家族そろっての映画鑑賞会だって聞いたけど、時間は大丈夫?」
歌音「あっ! そうだった!」
今日は毎年恒例の映画鑑賞会(それぞれの芸術性を伸ばすための恒例行事)で、夕方に帰ってきたらすぐ始める約束だったのを思い出す。
時計を見るともう始まる時間だった。
歌音「わー!! 時間ヤバい! ごめん二人とも! 私そろそろ行くね! また!」
歌音は慌てて帰っていった。
そのときにはすでに先ほどみりあが言いかけたことなど忘れていた。



