〇帰り道・夕方
下校している歌音のもとに走ってくる足音が近づいてきた。
みりあ「ちょっとあなた!」
大声で呼びかけられ、驚いた様子で振り返る歌音。
息を切らしながら立っていたのはみりあだった。
歌音「あ、えっと……柏木さん?」
みりあ「あなたねえ! せっかく忠告してあげたのに……って」
つかつかと近寄ってきたみりあは、歌音の額にあるケガを見つけて怪訝な顔になった。
みりあ「……なに? そのおでこどうしたのよ」
歌音「え、ああ。これはその……」
かくかくしかじか。
みりあ「陽暁に頭突きしたぁ!?」
驚くみりあにこくりとうなずく。
みりあ「え、あの顔に??」
歌音「……はい」
みりあ「あのふわふわお兄さんの顔に?」
歌音「はい」
しゅんとうなだれる歌音をしり目にみりあはしばらくぶつぶつと何か口にしていたけれど、やがてふるふると震え始めた。
歌音(お、怒ってる!?)
そりゃそうだ。身内にけがをさせたら怒らないわけがない。
と思った歌音は急いで頭を下げた。
歌音「あ、あの。ごめんなさい。従兄妹って聞きました。親戚ににけがを負わせてしまって本当にごめんなさい!」
みりあ「あっはははは!! さいっこう! あなた最高ね!!」
歌音「え?」
みりあはお腹を抱えて笑っていた。
みりあ「っひーーーー! お腹いたいっ! ざまあみろ陽暁~~~~!」
歌音「え、あ、あの。怒ってないんですか?」
みりあ「なんで怒るのよ。むしろすっきりしたくらいなのに!」
歌音「ええ……?」
みりあの目には涙が浮かび、笑いすぎて息も絶え絶えだった。
どうやら見た目の割にゲラらしい。
しばらく笑い続けたみりあはやがて涙を拭って歌音を見た。
みりあ「はあ~。もう一生分笑ったわ。あなた……歌音ちゃんだったっけ。そりゃああの陽暁のそばにいるだけのことはあるわ。豪胆というかなんというか」
歌音「え?」
みりあ「昔からあいつと関わってきた身としてはさ、あいつに近寄るとろくな目に合わないだろうから避けた方がいいわよって忠告したかったんだけどね。まさかあいつが振り回される側だとは思わなかった~! んっふふふ」
ツボから抜け出しきれていないみりあは未だに笑いを引きずっているらしい。
言葉の節々に笑いを隠しきれていない。
歌音「……その、柏木さんはどうして近寄るなっていうんですか?」
みりあ「みりあよ」
歌音「え?」
みりあ「みりあって呼んでくれたら教えてあげる。わたし、あなたのこと気に入っちゃったからそう呼んで?」
正直どこで気に入られたのか理解できない歌音だったが、みりあからはそう呼ばないと話を進めない気配を感じた。
歌音「ええっと……みりあちゃん?」
みりあ「ふふ、いいわ。教えてあげる! っと、たぶん長話になるからそっちの公園に入りましょうか」
入口の自販機でジュースを買い、ちょうど空いていたブランコに腰掛けるとみりあはようやく口を開いた。



