歌音「てな具合でさ。もう大変!」
虎「あははは! 面白い兄ちゃんじゃん」
歌音「笑い事じゃないんだよー! めっちゃ心配してくるし、気持ちはありがたいんだけど、正直うるさいっていうか。それに陽くんもお兄ちゃん相手だと言葉に棘が入るっていうかさ。間に入ってると空気が悪くて。仲は悪くないと思っていたんだけどな。なんでなんだろう?」
首をひねる。
だって自分がいないところでは普通に談笑しているところを見たことがあるから。
虎「でもまあ、オレはどっちの気持ちもわかるなー」
歌音「分かるの!?」
思ってもいない言葉に前のめりになる。
虎「ほら、オレにも妹いるからさ。兄の気持ち的にはいつまでも妹は心配なもんだし。それから先生の気持ちはなー。あれだろ。独占欲」
歌音「へあ!? ど、どくせん……!?」
虎「だって先生、お前のこと好きなんじゃねーの? 家まで運んでいるときなんて睨まれたし。まあ他の男が好きな女と密着してたら心穏やかにはいられないよな。悪いことしたと思ってたんだよ~」
歌音「ちょ、ちょっと待って虎くん!」
慌てて虎の口を押さえる。
だって虎の言い方では……。
歌音「もしかして虎くん、陽くんの気持ちに気がついて……!?」
虎「ん? あ、もしかして内緒だったか? すまん!」
手を合わせられ謝られたけれどそれどころじゃない歌音、顔を両手で押さえて悶える。
歌音(ウソでしょー!?)
自分ですら昨日気が付いた……というか分からせられたばかりなのに、虎が気が付いていたことにショックを隠せない。
虎「別に言いふらすつもりんなんてないから安心してくれ! ……んで?」
歌音「え?」
虎「お前らは付き合ってるの?」
歌音「ええ!?」
虎からそんなことを聞かれると思っていなかった歌音、瞬時に赤くなって頬を押さえる。
歌音「な、なんで」
虎「いや、友人のそう言うのってやっぱ気になるじゃん。見立てが間違ってなかったら、先生はお前のこと好きだと思うんだけど、お前は違うの?」
歌音「そ、そりゃあ……好きか嫌いかで言われたら間違いなく好き、だけど……」
期待のこもった虎の視線に言葉が詰まる。
陽暁のことは間違いなく好きだ。けれど付き合うのかと聞かれると……。
歌音(陽くんは海外にいっちゃうかもしれないから……)
いずれ世界に羽ばたくつもりだという言葉を思い出す。
歌音(もし付き合ったとしても、遠距離なんて耐えられるのかな……)
本当は当たって砕けるつもりだった。
それなのに自分の予想と違う反応をされて、両想いだということを知らされた。
知らないでいたら離れていくのも我慢できただろうけど、好き同士でいるのに離れ離れになって平気でいられる自信は、歌音にはなかった。
歌音(陽くんとはずっと一緒に……。ってだめだ。どんどん欲深くなっちゃう)
と思案気な表情になる歌音に、虎はなにかを感じ取って頭の後ろで腕をくんだ。
虎「ふーん? なんかいろいろあるみたいだな。でもまあ、付き合う前から考えてても仕方ないことは考えない方がいいぞ?」
歌音「え?」
虎「ほら、案ずるより産むがやすしって言うし? もしも嫌いじゃないのなら付き合ってみてからその先を考えてみたらいいんじゃね?」
歌音「……私恋愛経験ないからわかんないけど、そういうもの?」
虎「そーそー。行動あるのみ! まあでも、今は教師と生徒っつー立場の違いの問題はあるからな。無責任にイケイケとか言えないかー」
歌音「え?」
虎「ほら、オレらまだ一応未成年だろ? 手出しちゃアウトだからさ。もし付き合っても卒業まではお預けか~。……同じ男としては先生に同情するぜ」
歌音「手ぇ!? ちょ、と、虎くん!? 何言ってるの!?」
赤くなる歌音に、ニヤリと笑みを浮かべる虎。
虎「なーに、その反応? もしかして……?」
歌音「ちがっ! 違うから!!」
虎「まーだろうな。先生は分別ある大人って感じだもんな。いいなー。オレも大人の余裕欲しいぜ」
そのときチャイムが鳴った。
虎「あ、時間か。じゃ、そう言うことだから、ガンバ!」
歌音「もう!」
虎は言いたいことだけいうと手をふって席に向かっていった。
歌音は息を吐き、席に座る。
歌音(……でも、今考えても分からないことは考えない方がいいっていうのはそうかも)
陽暁とどうしたいのか。
そりゃあもちろん傍にいたいのだが、歌音にとってはその先に待ち受けている問題が気がかりだった。
歌音(留学するにしても、遠距離になるにしても、まずは付き合ってみないと分からないもんね)
歌音(……なら誕生日までのリミットでどうなってもいいように覚悟を決めておこう)
歌音は決意をした顔つきになった。



