2度目の初恋はセレナーデのように


 〇帰り道
 歌音は虎に支えられつつ帰り道を歩いていた。


 歌音「ほんと、迷惑(めいわく)かけてごめんね」

 虎「いいって。それより大したことなくてよかったぜ。マジで焦ったんだからな」
 歌音「申し訳ない……」


 あのあと保健室に担ぎ込まれた歌音は、軽い捻挫(ねんざ)だと診断された。

 歩けないわけではなかったが、落ちそうになった時に変な風にひねったので痛みが出ていた。


 という訳でそのまま虎に付き添われて帰ることになったのだった。


 虎「つーか慌てすぎてお前の了承も取らずに抱き上げちゃって悪かったな」
 歌音「え!? いや、そんなこと」


 しゅんとする虎に慌てて否定する。


 歌音「虎くんが謝ることじゃないよ。ていうか前を見ずに走っていた私の方が謝らなきゃ」
 虎「そんなこといいって。お前が大けがしなくてよかったよ、本当に」


 歌音「虎くん……」


 安心したと胸をなでおろす虎に思わずきゅんとする。


 虎「つーか今って家、一人なのか?」
 歌音「え?」

 虎「ほら、階段とか大丈夫なのかと思って」
 歌音「ああ……たぶんこの時間だとママは買い物行ってるかも。でもパパがいると思うし」

 虎「そうか? ならいいけど。もし一人だったら誰か帰ってくるまで一緒にいるけど」
 歌音「ええ? そこまでしてもらう訳にはいかないよ」



 そんなことを話していると家につくと、門の前で陽暁が立っていた。


 陽暁「おかえり」


 ニコリとほほえまれるけど、どこか棘のある雰囲気(ふんいき)の笑みだった。

 歌音の背に本能的な悪寒(おかん)が走る。



 歌音(……?)


 虎「あれ、先生? なんでここに?」

 虎はわずかな笑みの変化に気が付かないで、いつもの調子で話しかけた。



 陽暁「ここ、僕の家だからね」
 虎「あ、そっか。お隣さんだったんだっけ。いいなー! 先生みたいな人が近くにいたら楽しいだろうな~!」

 陽暁「まあね。それより二人はどうしたの?」
 虎「あ、そうそう。見雪が階段から落ちそうになって、足ひねったから送り届けにきたんっすよ」

 陽暁「それは大変だ。後は僕が見ておくから君はもう帰りなさい」
 虎「え? でも」


 陽暁「いいから」


 にっこりとした陽暁に気おされる虎。
 穏やかな表情とは裏腹に、その言葉には強い圧があった。


 虎「……分かりました。じゃあオレ帰るけど」


 虎が心配そうな顔で歌音を見る。


 虎「お前はムリすんなよ?」

 歌音「あ、うん。えっと、ありがとね送ってくれて」
 虎「おう! また学校でな!」


 虎は歌音の背中を軽く叩いて去っていった。

 残された二人の間に気まずい空気が流れる。


 歌音(……どうしよう。さっきのこともあるし、今は二人になりたくない)
 歌音(だって……あの子と付き合っているのなら、きっと昨日のことはからかわれただけってことだもん)


 歌音「……えっと、じゃあそう言うことで」


 歌音はみりあの話を聞いた手前、陽暁といる訳にはいかないと家へと体を向ける。


 陽暁「まって。足ひねったんでしょ? ノンちゃんの部屋二階だから一人だと危ないよ。僕も一緒にいく」
 歌音「え? だ、大丈夫だよ。ママがいるし……」

 陽暁「音羽(おとわ)さん(歌音のママ。陽暁のピアノの先生でもある)、さっき買い物にでかけたよ」
 歌音「パ、パパがいる」

 陽暁「おじさん取材って言ってたよ」
 歌音「……お兄ちゃん」

 陽暁「まだガラス工房から帰ってないよ」
 歌音「……」


 完全に退路を絶たれた歌音、押し黙る。


 陽暁「ほらね。だから僕が付き添っていてあげるよ」
 歌音「……け、結構です」


 今は陽暁といたくない。
 だから断ろうとするけれど、陽暁は笑顔の圧を強くしてきた。


 陽暁「ケガ、増やすつもり?」
 歌音「うっ」


 結局押し切られて家に上がったのだった。