2度目の初恋はセレナーデのように


 〇校舎裏・人目がない場所
 連れていかれたのは校舎裏にある花壇だった。
 さびれたベンチに座らせれる。


 みりあ「……あまり遠回しなのは好きじゃないの。だから単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言うわね」


 周りに人がいないことを確認したみりあは、きっと歌音を(にら)む。


 みりあ「あなた、陽暁とは距離(きょり)を置いた方が身のためよ」
 歌音「え……?」


 唐突(とうとつ)に告げられたことに驚きと戸惑(とまど)いが隠せない歌音。

 みりあはそんな歌音に構うことなく言葉を続ける。


 みりあ「あなたと陽暁じゃ、住む世界が違いすぎるから」
 歌音「っ!」


 みりあがどういうつもりでそんなことを言ってくるのかは分からない。

 けれどそんなことを今知り合ったばかりの子に言われてムッとしないわけがなかった。
 思わず睨み返してしまう。


 歌音「……みりあちゃんだったよね? なんで君にそんなことを言われないといけないの?」


 歌音の(とげ)の含まれた声にも、みりあは動じなかった。
 それどころか眉を寄せて不機嫌(ふきげん)そうに口を開いた。


 みりあ「そんなの、わたしがあいつのことをよく知っているからに決まっているじゃない」
 歌音「知っている、って。……ああっ!?」


 はっとする歌音。


 思い出したのは、中学のころに見かけた衝撃(しょうげき)光景(こうけい)
 陽暁と美少女が仲良さげに歩いていた光景だった。


 歌音(あのときの……!?)


 今まで忘れていたけれど、みりあがあの時の子だったような気がする。

 そんな子が牽制(けんせい)するように歌音に近づくなと告げる理由。
 それは――。


 歌音(陽くん、まだこの子と続いているんだ……!)


 自分の彼氏に他の女が近づいたら怒るのは当たり前のことだ。

 幼なじみだろうと異性なのだから、彼女という立場の人からしたら面白くないだろう。


 そう考えれば辻褄(つじつま)があう。


 歌音(……どうしてすぐに気が付かなかったの?)


 自分のバカさ加減に胸が締め付けられた歌音、みじめな思いになってきて泣きそうになり、(てのひら)に爪の後が付くほど(こぶし)を握る。


 みりあ「だからね、あいつは――」


 歌音「……わかったよ。ごめんね」


 みりあはまだ何かを言っていたけれど、謝罪(しゃざい)(さえぎ)って走り去る。
 みりあの前で泣き出すのは、さすがにみじめすぎて嫌だった。



 みりあ「あっ! ちょっと! 話はまだ――!」


 止める言葉が背後から聞こえたけれど、歌音が止まることはなかった。




 歌音(まだ付き合いが続いているって可能性(かのうせい)も、考えればすぐに分かったのに)

 歌音(チャンスなんて、あるわけなかったのに)

 歌音(陽くんに会えたからって浮かれていたんだ……)



 歌音はとにかく近くにいたくなくて下を向いて必死に走った。


 歌音「あっ!」
 虎「うわ!」


 階段を上る途中、上から降りてきた誰かとぶつかり、落ちそうになる。


 歌音(――落ちるっ!)




 衝撃(しょうげき)に備えてぎゅっと目を閉じる歌音だったが、しばらくたっても痛みはやってこず恐る恐る目を開ける。



 虎「お、おい。大丈夫か?」
 歌音「あ……」


 目を開けると虎の姿があり、腰には虎の腕が回って支えられていた。


 歌音「っだ、だいじょう」

 虎「うわっ!? なに、どっか痛めた!? なんで泣いて……!?」



 大丈夫だと言おうと思っても、ガマンしていた涙が零れ落ちてしまった。

 それを見た虎は自分が泣かせてしまったと慌てる。



 虎「足ひねったか!? 悪い! すぐに保健室に!」
 歌音「きゃあ!?」


 歌音が泣いているのを足をひねって痛むせいだと勘違いした虎は、強引に歌音を抱き上げ保健室まで一目散に走っていく。



 歌音「ま、まって虎くん! だい、大丈夫だから、おろして!」

 虎「口閉じてないと舌噛むぞ! すぐだから心配すんな!」
 歌音「ち、ちがっ!」


 放課後の夕暮れとはいえマンモス校なので人がたくさんいる。
 その中を姫抱きで連れていかれれば、たくさんの視線にさらされてしまうのは避けられない。


 歌音(は、恥ずかしい!)


 下ろしてもらおうとしても話を聞かない虎が止まることはなく、注目の的になってしまった。
 歌音は恥ずかしさから顔を赤くして、手で覆っていた。



 陽暁「――……」


 だからそのギャラリーの中に陽暁がいることも、そしていつもの笑みを消した無表情で見ていることも気が付かなかった。