藤の花舞い散る頃、
俺は君を愛しているだろう -
宮廷の庭の藤が満開になった。
空が高く抜けるように青く、雲ひとつない5月の空。
藤棚からあふれんばかりに垂れ下がる紫、青、そして白、と色が重なる大きな房。
見事なまでの雅やかさに、見る者がみなため息をついている。
俺は少将として参加者の末席に座り、時折飛んで来る花びらをするり払いながら、次々と出される演目を、ただただ退屈な気持ちで眺めていた。
正直な話、
宮中のこうした何かの折に触れ行われる行事に参加するのは、あまり気が進まなかった。
仲間の内にはこうした行事が大好きで、庭の花を愛でるついでに、宮中に勤める花達にも手を出して行く、と言う輩も少なくはなかったが、
(一体どっちの花が目的で来るのだろうか)
俺はどちらにも大して興味はなかった。家で書物でも読んでいたほうがましだ。
親はあせっているだろうけれど。
俺はもう成人している。自分の伴侶は自分で決める。
(藤見は楽しいが)
次の演目か。
参加者達で四画を作り、その真ん中が舞台となる。
その舞台の中心に、進み出たひとりの白拍子。
真っ白な直垂(じかたれ)に水干(すいかん)姿。水干のすそから、真っ直ぐな細く白い足が伸びる。
その存在は、この青い空にただひとつ現れたきらりの雲のよう。
後ろでくくった長い黒髪。きりりとした少し釣り気味の大きな黒い目。
(美しい)
まるで若い竹が、天を目指して昇り竜のように真っ直ぐ伸びて行くその姿。
伴奏の鼓と笛が鳴り出した瞬間、俺は、思わず息を呑んだ。
細い指が、伸びやかに空へ向かっていく。
腕がたわみ、しなり、小首を傾げ、手を前に突き出す。ゆっくりと、だがまっすぐ。
手足が長い。引き結んだ薄い唇に差したぽっとした紅の色が艶っぽい。
まだ、ほんの少女であるはずなのに。
伏せた目。伸ばした背筋。ゆったりと、しかし正確に、かつ伸びやかに動くその腕と足。
まるで、全てのものを抱きしめるかのように。そこから若い果実の甘い香りが漂って来そうな程に。
若竹は、空に昇る。
その瞬間、
その踊り手は性別をなくし、見る者全てを惹きつけ、その心の均衡を乱して行く。
俺の心はすっかり実りの途にある果実の香りに甘く酔いしれていた -
俺は君を愛しているだろう -
宮廷の庭の藤が満開になった。
空が高く抜けるように青く、雲ひとつない5月の空。
藤棚からあふれんばかりに垂れ下がる紫、青、そして白、と色が重なる大きな房。
見事なまでの雅やかさに、見る者がみなため息をついている。
俺は少将として参加者の末席に座り、時折飛んで来る花びらをするり払いながら、次々と出される演目を、ただただ退屈な気持ちで眺めていた。
正直な話、
宮中のこうした何かの折に触れ行われる行事に参加するのは、あまり気が進まなかった。
仲間の内にはこうした行事が大好きで、庭の花を愛でるついでに、宮中に勤める花達にも手を出して行く、と言う輩も少なくはなかったが、
(一体どっちの花が目的で来るのだろうか)
俺はどちらにも大して興味はなかった。家で書物でも読んでいたほうがましだ。
親はあせっているだろうけれど。
俺はもう成人している。自分の伴侶は自分で決める。
(藤見は楽しいが)
次の演目か。
参加者達で四画を作り、その真ん中が舞台となる。
その舞台の中心に、進み出たひとりの白拍子。
真っ白な直垂(じかたれ)に水干(すいかん)姿。水干のすそから、真っ直ぐな細く白い足が伸びる。
その存在は、この青い空にただひとつ現れたきらりの雲のよう。
後ろでくくった長い黒髪。きりりとした少し釣り気味の大きな黒い目。
(美しい)
まるで若い竹が、天を目指して昇り竜のように真っ直ぐ伸びて行くその姿。
伴奏の鼓と笛が鳴り出した瞬間、俺は、思わず息を呑んだ。
細い指が、伸びやかに空へ向かっていく。
腕がたわみ、しなり、小首を傾げ、手を前に突き出す。ゆっくりと、だがまっすぐ。
手足が長い。引き結んだ薄い唇に差したぽっとした紅の色が艶っぽい。
まだ、ほんの少女であるはずなのに。
伏せた目。伸ばした背筋。ゆったりと、しかし正確に、かつ伸びやかに動くその腕と足。
まるで、全てのものを抱きしめるかのように。そこから若い果実の甘い香りが漂って来そうな程に。
若竹は、空に昇る。
その瞬間、
その踊り手は性別をなくし、見る者全てを惹きつけ、その心の均衡を乱して行く。
俺の心はすっかり実りの途にある果実の香りに甘く酔いしれていた -



