恋するわたしはただいま若様護衛中!



 後半戦がはじまった。
 他の学年の生徒たちも加わって、今まで以上の大きな声援がグラウンドに響く。
 このまま後半戦を無事に乗り越えてほしいと思いながら、私は試合を見守っていた。
 互いに譲らない時間が続いて、中盤に差し掛かったとき。
 ――危ない!
 そう思った時には遅く、最悪のアクシデントが起こってしまった。
 伊吹と敵チームの選手が、プレー中に激しくぶつかり合って転倒した。

「あ……伊吹っ!」

 助けに行けない距離にいた私は、伊吹を護衛することができなかった。
 どうしよう、大きな怪我だったら……。
 相手の選手はすぐに立ち上がったけれど、伊吹が左足首を押さえて苦しそうにしている。

「伊吹! 大丈夫かっ」

 倒れる伊吹のもとに、真っ先に駆け寄ったのは倫太郎だった。
 二人の会話は私の場所からは聞こえないけれど、倫太郎が心配そうに声をかけたあと伊吹へ手を差し伸べる。
 その手を取って、伊吹はなんとか立ち上がることができた。
 不安な気持ちで見つめていた私は、ほっと胸を撫で下ろす。
 いまだに和解はできていないけれど、二人の間にはちゃんと友情がある。
 そう確信して、私は胸を熱くさせた。
 でも伊吹の足は観戦エリアのみんなも心配しているようで、心配の声でザワザワしていた。

「伊吹、大丈夫かな……」
「ベンチに戻らないってことは、試合続けるの?」

 私と沙知も心配する中、試合は再開された。
 伊吹は何事もなかったようにプレーを続けるけれど、私には前半戦よりも左足を庇っているように見えた。
 すると、伊吹がパスボールを取り損ねて、敵チームに渡る。
 そのボールは最前線に待機していた敵チームのフォワード選手に繋がって、そのままゴールを決められる。
 初戦、二回戦と失点がなかったC組チームが、初めて同点の試合状況を迎えた。

「試合時間は、残り五分かぁ〜」

 沙知が厳しそうな表情を浮かべる。
 伊吹がボールを取り損ねてしまったのも、きっと左足を痛めてしまっているのが原因。
 それでも伊吹はコートに立ち続けている。倫太郎との勝負のため? それとも――?
 私は両手を組んで、頑張っている二人の勝利を願った。
 すると突然、ディフェンス中の倫太郎が伊吹に向かって大声で指示を出す。

「伊吹!」
「っ⁉︎」
「忍法Aでいくぞ!」

 聞き間違いでなければ、倫太郎は今“忍法”と言った?
 よく意味がわからなかったけれど、どうやら伊吹には伝わっている様子。
 小さく頷いた伊吹は、急に敵のゴールに向かって走り出した。
 同時に倫太郎が敵ボールのパスをカットして、再びカウンター攻撃のチャンスを作る。
 倫太郎は軽快なドリブルで相手のディフェンスをかわし続け、強烈なキックを最前線に送った。
 そこにはすでに、伊吹が待機していた。

「伊吹! 撃て!」

 ものすごいスピードで飛んできたボールを、伊吹は胸で受け止めた。
 地面にボールをつけないまま、思い切りシュートを放つ。
 二人の初めての連携プレー。敵チームのキーパーは対応しきれず、伊吹のシュートが気持ちよく決まった。

「わーー! やったー!」

 私と沙知は手を取り合って喜びを爆発された。
 今の一点は特別だってことがわかっているから、なおさら感動する。
 今まで一度も互いにパスをしない伊吹と倫太郎が、忍法Aという合言葉で動きが変わった。
 そして敵のボールを奪った倫太郎から、伊吹へ託された追加点のチャンス。
 それを見事に決めた伊吹は、倫太郎の元に駆け寄って肩を組んでいた。
 今までのすれ違いが嘘のように、サッカーを通して二人の仲が復活したと確信した。
 一点差でリードする中、敵チームは同点を狙って果敢に攻めてくる。
 でも時間は刻々と過ぎていき――試合終了!
 私たち、C組のサッカーチームは、八クラスある二年生の中で一位となった。

「おめでと〜!」
「伊吹! やったな!」

 たくさんの祝福の声が響く中、整列するためにコートの中心に集まる選手たち。
 伊吹と倫太郎は隣同士に並んで、ちらりと視線を合わせる。
 そして、全てを許したような柔らかい笑顔を交わし合っていた。
 
「沙知、二人が笑い合ってる……!」
「本当だ!」

 私と沙知も、二人の活躍と仲直りが嬉しくて微笑み合った。
 キーーーン。
 そんなお祝いムードの中、私は三度目の耳鳴りに襲われた。同時に周辺が一気に薄暗くなって、異様な風が吹きはじめた。
 ジャージを着た男性の先生が、慌ててグラウンドに走ってくる。

「たった今、竜巻注意報が発令された! 生徒たちは速やかに校舎に避難!」

 先生の大きな声は、観戦エリアにいた生徒たちに届いた。
 竜巻注意報が発令? 私の耳鳴りは気圧の変化によるものだったんだ。
 私の周囲には、その危険さを実感できない生徒もいれば恐怖で震える生徒もいて様々だった。
 それでも先生が必死に呼びかけるおかげで、みんなが急いで校舎に向かって走る。
 コートに整列していた選手たちも、駆け足で校舎を目指していた。
 私と沙知も流れに身を任せようとした時、グラウンドに突如竜巻が現れた。