恋するわたしはただいま若様護衛中!



 初戦、そして二回戦も勝利に終わった二年C組のサッカーチーム。
 トーナメント方式で試合が行われるため、次はいよいよ決勝戦。
 その間に行われた、私と沙知が参加している女子バレーボールの試合は二回戦敗退。
 チームメイトと全力を出したから悔いはない。
 その分、サッカーの応援を頑張ろうとクラスが一致団結している。
 そうして、二年生のサッカー決勝戦の時間が近づいてきた。
 もうすぐ試合がはじまるという緊張感が漂う観客エリアで、沙知はとある計算をしていた。

「初戦は伊吹が二点、倫太郎が二点……」
「沙知? なにぶつぶつ言ってるの?」
「二回戦は、伊吹が一点、倫太郎が二点か〜」
「え、もしかしてそれって……」

 私が尋ねるより先に、沙知がニヤリと微笑んだ。

「そう。今までの試合の、伊吹と倫太郎の得点数!」
「な、なんで把握してるの⁉︎」
「高田先生に教えてもらった」

 サッカーの二回戦とバレーの時間が被っていたから、私たちは応援できなかった。
 それでも高田先生から情報入手するほどに、沙知は二人の勝負の行方を気にしているらしい。

「倫太郎が一歩リードしてるのね。まあ現役サッカー部だから当然か」
「で、でも伊吹もすごくサッカー上手だし、倫太郎も一目置いているんだよ?」
「んー。継続的な経験の差には敵わないんじゃないかな〜?」
「っ……」

 沙知の公平な見解に、なにも言い返せなかった。
 私は伊吹が好きだから、どうしたって伊吹を贔屓してしまう。
 それでも私は伊吹を信じて、なにがあっても応援することだけは変わらない。
 私は手を組んで、伊吹の勝利を祈った。

「試合開始!」

 笛の音が響いて、二年生サッカーの決勝戦が開始した。
 はじめは敵チームがボールを支配して、伊吹と倫太郎も守備を徹底していた。
 サッカーコートの端から端まで走る二人に、私は感心してしまう。
 すると同じことを考えていた沙知が、目を丸くして呟いた。

「あんなに走って、二人の体力どうなってんの?」
「ほんとだね。すごいなぁ……」

 必死にボールを追いかける姿が本当にかっこよくて。
 伊吹をサッカーに推薦して良かった、なんて思ってしまった。
 その時、敵チームのボールパスを伊吹がスティールして、カウンターのチャンスが訪れた。
 声援が一気に伊吹一色となり、私も負けないように大きな声を出した。

「伊吹ー! がんばれー!」

 伊吹はそのままシュートを放って、見事先取点を獲得した。
 黄色い声援と拍手で、観戦エリアは大盛り上がり。
 するとポジションに戻ろうとしていた伊吹は、大勢いる観客の中に紛れた私と目を合わせた。
 人差し指を空に向けると、爽やかな笑みを向けてくれた。

「っ……!!」

 ギュン!と心臓を鷲掴みにされた私は、しばらく息ができなくなった。
 伊吹の笑顔の破壊力は、今までも何度か経験している。
 けれど、スポーツ中に爽やかな汗を光らせて微笑む伊吹は初めてだった。

「かっこ良すぎて言葉が出ない……」
「はいはい。今の得点で伊吹と倫太郎の合計が並んだよ」
「そっか! まだ勝敗はわからないよね」

 C組チームが一点をリードしながら、前半戦が終了した。
 ハーフタイムは十分間。選手たちは水分補給をしたり作戦を練ったりして、後半戦に備えた。
 伊吹と倫太郎も、ベンチに座りタオルで汗を拭う。
 その姿を見て、観戦エリアの女子たちは惚れ惚れしていた。

「なんか、二人ともキラキラしてる……」
「やば、あたしには虹が見える……」

 後ろにいる女子たちの会話を聞いて、私は心の中で大きく頷いていた。 
 その時、キーンという耳鳴りがして目を細めた。
 耳を押さえながら空を見てみると、風に乗って灰色の厚い雲が流れてくる。
 雨でも降るのかな。その前に試合が終わるといいけれど。
 そんなことを考えていると、あっという間にハーフタイムが終わってしまう。
 伊吹と倫太郎、他の選手たちもサッカーコートに向かっていった。