さらに机を一つ追加して、私は沙知の隣に座り、正面に伊吹が座ろうとしたら倫太郎が強引に割り込んで座る。
「……」
「……」
なんだか二人の視線の間に火花が見えたような気がして、私は勝手にハラハラした。
でもすぐに何事もなかったように伊吹と倫太郎が隣同士に座って、四人で迎える初めてのランチ時間がはじまった。
いつもと違った状況だけれど、不思議と苦手な感じはしなくて。
伊吹と倫太郎が交流するきっかけを設けられたことを、私は喜んでいた。
「わ〜倫太郎のお弁当大きいね!」
「育ち盛りだからな。沙知も紅葉も、弁当それで足りんの?」
「足りるよ〜! でも家帰ったらすぐお菓子食べちゃう」
「それ足りてねーだろ」
話し上手な沙知は、倫太郎とうまくコミュニケーションをとっている。
私も見習いたいところだけど、伊吹と倫太郎の共通の話といえばサッカーしか出てこなくて。
それはそれで露骨すぎるかな?と話題にできず、思い悩んでいた。
すると沙知が伊吹に質問する。
「伊吹も倫太郎に興味あった?」
「え?」
「いつもは他の人と食べてるのに、今日に限って私たちと一緒にランチって、なんでかなーと思って」
確信を迫る沙知に、私は内心ヒヤヒヤしていた。
伊吹と倫太郎の昔の関係を沙知は知らないから、そう思うのも仕方ない。
すると伊吹は、嫌な顔せず落ち着いた様子で答えた。
「倫太郎は、昔一緒にサッカーした仲間なんだよ」
「え! そうだったの?」
「約三年ぶりの再会だから、一緒にランチでもどうかなって」
言いながら伊吹がちらりと倫太郎を見た。
けれど、倫太郎は少しだけ伊吹と目を合わせたけれどプイと顔を背ける。
そして伊吹も特に落ち込んだ様子はなく、今度は私に話しかけてきた。
「倫太郎はどうして紅葉をランチに誘ったんだろうね?」
「え⁉︎ えーと……」
それは倫太郎に尋ねるべき質問では?と思っていると、ようやく倫太郎が伊吹に話しかけた。
「俺が誰と弁当食おうと伊吹に関係ねぇだろ」
「紅葉は俺の護衛を担っているんだよ。また倫太郎が危険なことしてきても困るし」
「……もうしねぇよ。紅葉と約束したから。なあ紅葉?」
倫太郎の問いかけに、私は昨日の会話を思い出す。
伊吹と倫太郎が仲直りできるように協力する代わりに、伊吹への攻撃をやめるという約束の件。
昨日のうちに明確な返事は得られていなかったけれど、たった今倫太郎が承諾してくれた。
それが嬉しくて、私は笑顔で頷いた。
「そうなの! 倫太郎が、もう危ないことしないって約束してくれて」
「っ……⁉︎」
私がそう答えると、伊吹は目を丸くして眉がぴくりと動いた。
少し考えるような時間ができて、私の瞬きが増える。
「……倫太郎……って、呼んでるんだ」
「え? あ、うん……?」
「いつから?」
「き、昨日から……」
「ふーん」
そんな会話をしたあと、伊吹はお弁当に視線を落として沈黙してしまった。
私が何か気に障るようなことを言ってしまったのかな。
何か声をかけたくて、でも何て声をかけたらいいかわからなくてあたふたしていた。
すると隣に座る沙知の腕が伸びてきて、私をめいっぱい抱きしめる。
「なーんかよくわかんないけど、今のところ紅葉は私のものだから」
「さ、沙知??」
「そこんとこよろしく」
まるで正面に座る伊吹と倫太郎に見せつけるように、私と抱擁する沙知。
私はただ、伊吹と倫太郎のわだかまりが解けて、仲良くなって欲しいだけなんだけどな。
一日二日じゃ、そううまくはいかないことを痛感したランチ時間となった。
*
見た目は不良そうだけれど、意外に優しかったり正直なところがある倫太郎はすぐにクラスに打ち解けた。
サッカー部への入部も決めて、これから部活も忙しくなるらしい。
女子の間では密かに話題になっていて、伊吹に負けず劣らず人気上昇中だった。
そうしてあっという間に九月に突入。
籐黄学園では、毎年この時期に球技大会が行われる。
学年ごとにトーナメント戦を繰り広げ、学年内一位を目指していく。
午後のホームルームは、その出場選手を決める時間だった。
「みんな、やりたい種目を決めてください。人数が偏った場合はじゃんけんです」
高田先生がそう説明すると、クラス内がザワザワと話し合いをはじめた。
私は沙知とバレーボールを選択予定だったから、もう迷う必要はない。
だから私が今もっとも注目すべきことは、伊吹と倫太郎の選択する種目にあった。
男子の球技種目は、バスケットボール、バレーボール、そして……サッカー!
伊吹と倫太郎が同じサッカーを選択すれば、嫌でも協力プレイが必要になる。
練習や試合を重ねていくうちに、昔二人で楽しくサッカーをした気持ちを思い出してもらう。



