入学式を終えて、新一年生が正門前で立ち話をしたり写真を撮ったりしている。
真新しい白のセーラー服をまとった私――上田紅葉も、今日から中学一年生。
学校の敷地内に植えられた桜の木が、まるで私たちを祝福するかのように桜吹雪を降らせていた。
その桜の木を眺める、一人の男の子が目に入る。
「あの人も、一年生……?」
離れた位置からでもわかる、大人びた雰囲気と気品溢れる佇まい。
胸元には私と同じ“ご入学おめでとう”と書かれた胸章をしていたから、同じ一年生であることは間違いない。
シワ一つない白の学ランが、すらりとしたスタイルにピタッとハマっていて一際目立っている。
ミルキーブロンドの髪がサラサラと風になびくと、彼はふと私の方に顔を向けた。
宝石のようにキラキラとした碧い瞳が、私を映したようだった。
「っ……⁉︎」
心臓がギュッと飛び跳ねて、咄嗟に顔を背けてしまった。見惚れていたことがバレたら恥ずかしい。
もう一度彼の視線を確認する勇気はなくて、このまま帰ろうとした時。
「ねえ、君……」
「⁉︎ えっ……?」
誰のことを呼んだのかわからなくて、私はゆっくりと振り向く。
先ほどの彼が目の前に立っていて、それだけで私の心臓は再び大きく跳ねる。
整った顔立ちの彼に優しく微笑みかけられては、私じゃなくてもドキドキするはず。
「髪に桜の花びらがのってるよ」
「あっ」
「たくさん」
「た……たくさん!!」
ひとつふたつ、とかではなくて……⁉︎
私が慌ててはらおうと両手を上げると、彼に止められた。
「待って。可愛いツインテールが崩れちゃうから、俺がとってあげる」
「っ……!」
そう言って彼の手先が私の頭上に伸びてくる。
直接見ることはできないけれど、頭にのった花びらを丁寧にとってくれているのが伝わった。
彼の指先がチョンと頭に触れるだけで、ドキドキが加速する。
「はい、全部とれたよ」
「あ、ありがとう……」
柔らかい声で報告してくれた彼だけど、私の緊張は緩むことなく継続していた。
顔を上げられなくて、地面を見たままお礼の言葉を伝える。
すると彼の足が立ち去る準備をした。その瞬間――。
「桜の花びらが、君のピンクブラウンの髪色によく合ってた」
「……え?」
「じゃあね」
思わず顔を上げた私と目を合わせた彼は、王子様のように微笑んでいて。
軽く手を振ると、背を向けて立ち去っていった。
「っ……!」
同級生とは思えない振る舞いに、私は一瞬にして心を奪われる。
初めての恋に、真っ逆さまに落ちていった。
そんな、一年前の春の出来事――。



