「…これから抜け出しませんか?」
そんな誘いは生まれて初めてだった。
恥ずかしげもない堂々とした振る舞いに、女たらし。なんて思いながらも心臓の音は早くなっていくばかり。
舞踏会の喧騒から逃れ、彼と二人きりで過ごす。
こんなにも魅力的な彼からの誘いを断る女性など居ないだろう。
しかし私は仮にも婚約者としてこの場から去ることは許されない。
「とても素敵なお誘いありがとうございます、ですが……」
「大丈夫です。貴方にご迷惑はかけません。
少しの間だけで良いので2人きりになりたいんです。」
わざとらしく甘えた声を出すルナの言葉は、単純なセシリアの意志を揺るがせる。
彼女は周囲の視線やアリスの笑顔から解放されることを望んでいた。
セシリアは心の中で葛藤しながらも、この華やかな舞踏会から連れ出してくれる彼の手に引き寄せられるように、静かに頷いた。
「少し…だけなら。」
セシリアは、心の中の不安を振り払い、
舞踏会の喧騒を背に、静かな庭へと足を運んだ。
ーー月明かりが照らす中、セシリアはルナの隣を歩きながら彼の存在がどれほど特別なものかを感じていた。
「ここなら2人きりになれますね。」
そう言って連れてこられたのは、庭の一角にある花園だった。
色とりどりの花々が咲き誇り儚くも綺麗な場所。
夜の静けさの中で様々な花の香りだけが漂っている
「ここは…」
ー私の特別な場所。
彼女が辛くなった時に逃げ込むのは決まってこの花園だった。
花達だけは私を拒まないで居てくれる。そんな気がするから。
それに、あの黒猫に出会った場所でもあった。
「先程舞踏会の方から見えたのです。とても美しい所だと思いまして。」
ルナは花園を静かに見つめ、何かに浸っているようだった。
闇夜に照らされる寂しげな彼の横顔は私の胸を締め付ける程に美しかった
「……ここは私にとって特別な場所ですわ。」
そんな彼を見てセシリアは思わず口にしてしまった。
彼女は初めて自身の秘密を打ち明けることに少しだけ勇気を持った。
「特別な場所、ですか?」
ルナは興味深そうに尋ね、彼女の目をじっと見つめた。
その揺るがぬ視線に、セシリアはこの人になら心を許してもいい。そんな気がしてしまいそうだった。
「そう、ここは私を現実から救ってくれる唯一の場所なの。
それに猫………いえ、、なんでもありませんわ」
そして、まさに今この場であの猫に出会った。
お話ができる猫と出会ったなんて口にしたら、私が変な女だと思われてしまうわよね。
「猫…?」ルナは微笑みながら、彼女の言葉に耳を傾けた。「この場所には猫も居るんですか?」
「…ええ。飼ってはいないのだけれど、前にここで黒猫を見ましたの。」
「黒猫、ですか。」
「そうです。…皆さん、黒猫は不吉の象徴と言いますが、私は神秘的で儚く、とても美しい存在だと思っております。」
そう呟くとルナは静かに笑った。
「僕も猫は大好きです、もちろん黒猫も。」
「…ふふ、私たち好みが合うようで嬉しいですわ。」
セシリアはあの神秘的で愛らしく、口煩い黒猫のことを思い出す。
またあの子に会いたいわ。一体どこで何をしているのかしら。
「そうですね。黒猫が好きな僕たちは運命の相手なのかもしれません。」
冗談交じりにルナは笑いながら、彼女の手を優しく包み込んだ。
その瞬間、セシリアの頬は熱くなっていく。
彼の温もりは、彼女の心に安らぎをもたらしてくれていた
「ふふ、そんなこと言ったらお互い運命の相手が多すぎて大変だわ。」
セシリアは微笑みながら、ルナの冗談に応じた。
彼女を苦しめる存在を忘れさせてくれる。
この瞬間だけは、まるで夢の中にいるかのように心地よかった。
「……運命の相手がいくら居ても選べないのも困ったものです。所詮私は籠の中の鳥でしかないのですから。」
セシリアは少しだけ冗談めかして言った。その言葉には、どこか切なさが混じっている。
「…………。」
ルナは何も口にすることはなく、ただ真剣な表情で彼女を見つめた。
彼の目には、彼女の心の奥に潜む不安や葛藤を理解しようとする優しさが宿っている事をセシリアは分かっていた。
ああ、変な事を言ってしまった。どうか聞かなかったことにして欲しい。
「……ふふ、洒落たことを言ってしまいました。
なんだか肌寒くなってきましたし、もう皆の所へ戻りましょうか」
彼の温かさに漏れた本音に蓋をするように、息苦しい鳥籠へとまた戻りたくなった。
「セシリア様…」
彼に背を向け、何の返事も待たずにセシリアが歩き出そうとしたその瞬間、舞踏会の明かりが漏れ出す中で、誰かがこちらに近づいてくるのが目に入った。
暗い夜を照らすような艶やかな純白の髪。
淡く儚げな桃色の瞳。
日焼けを知らない滑らかな肌。
その姿は一瞬にしてセシリアの心を闇へと突き落とした。
「あっ!セシリア様じゃないですかぁ!
……と、あれっ。こちらの素敵な方は誰?」
アリスの甘ったるい声が、花園の静けさを破る。
彼女の目は彼に対する驚きと好奇心で輝いていた。
「……アリス。」
セシリアは思わずその名を口にした。心の中で渦巻く黒い感情を抑えきれず、彼女の視線を避けるように俯いた
…ああ、貴方はどこまで私を苦しめたいの。
そんな誘いは生まれて初めてだった。
恥ずかしげもない堂々とした振る舞いに、女たらし。なんて思いながらも心臓の音は早くなっていくばかり。
舞踏会の喧騒から逃れ、彼と二人きりで過ごす。
こんなにも魅力的な彼からの誘いを断る女性など居ないだろう。
しかし私は仮にも婚約者としてこの場から去ることは許されない。
「とても素敵なお誘いありがとうございます、ですが……」
「大丈夫です。貴方にご迷惑はかけません。
少しの間だけで良いので2人きりになりたいんです。」
わざとらしく甘えた声を出すルナの言葉は、単純なセシリアの意志を揺るがせる。
彼女は周囲の視線やアリスの笑顔から解放されることを望んでいた。
セシリアは心の中で葛藤しながらも、この華やかな舞踏会から連れ出してくれる彼の手に引き寄せられるように、静かに頷いた。
「少し…だけなら。」
セシリアは、心の中の不安を振り払い、
舞踏会の喧騒を背に、静かな庭へと足を運んだ。
ーー月明かりが照らす中、セシリアはルナの隣を歩きながら彼の存在がどれほど特別なものかを感じていた。
「ここなら2人きりになれますね。」
そう言って連れてこられたのは、庭の一角にある花園だった。
色とりどりの花々が咲き誇り儚くも綺麗な場所。
夜の静けさの中で様々な花の香りだけが漂っている
「ここは…」
ー私の特別な場所。
彼女が辛くなった時に逃げ込むのは決まってこの花園だった。
花達だけは私を拒まないで居てくれる。そんな気がするから。
それに、あの黒猫に出会った場所でもあった。
「先程舞踏会の方から見えたのです。とても美しい所だと思いまして。」
ルナは花園を静かに見つめ、何かに浸っているようだった。
闇夜に照らされる寂しげな彼の横顔は私の胸を締め付ける程に美しかった
「……ここは私にとって特別な場所ですわ。」
そんな彼を見てセシリアは思わず口にしてしまった。
彼女は初めて自身の秘密を打ち明けることに少しだけ勇気を持った。
「特別な場所、ですか?」
ルナは興味深そうに尋ね、彼女の目をじっと見つめた。
その揺るがぬ視線に、セシリアはこの人になら心を許してもいい。そんな気がしてしまいそうだった。
「そう、ここは私を現実から救ってくれる唯一の場所なの。
それに猫………いえ、、なんでもありませんわ」
そして、まさに今この場であの猫に出会った。
お話ができる猫と出会ったなんて口にしたら、私が変な女だと思われてしまうわよね。
「猫…?」ルナは微笑みながら、彼女の言葉に耳を傾けた。「この場所には猫も居るんですか?」
「…ええ。飼ってはいないのだけれど、前にここで黒猫を見ましたの。」
「黒猫、ですか。」
「そうです。…皆さん、黒猫は不吉の象徴と言いますが、私は神秘的で儚く、とても美しい存在だと思っております。」
そう呟くとルナは静かに笑った。
「僕も猫は大好きです、もちろん黒猫も。」
「…ふふ、私たち好みが合うようで嬉しいですわ。」
セシリアはあの神秘的で愛らしく、口煩い黒猫のことを思い出す。
またあの子に会いたいわ。一体どこで何をしているのかしら。
「そうですね。黒猫が好きな僕たちは運命の相手なのかもしれません。」
冗談交じりにルナは笑いながら、彼女の手を優しく包み込んだ。
その瞬間、セシリアの頬は熱くなっていく。
彼の温もりは、彼女の心に安らぎをもたらしてくれていた
「ふふ、そんなこと言ったらお互い運命の相手が多すぎて大変だわ。」
セシリアは微笑みながら、ルナの冗談に応じた。
彼女を苦しめる存在を忘れさせてくれる。
この瞬間だけは、まるで夢の中にいるかのように心地よかった。
「……運命の相手がいくら居ても選べないのも困ったものです。所詮私は籠の中の鳥でしかないのですから。」
セシリアは少しだけ冗談めかして言った。その言葉には、どこか切なさが混じっている。
「…………。」
ルナは何も口にすることはなく、ただ真剣な表情で彼女を見つめた。
彼の目には、彼女の心の奥に潜む不安や葛藤を理解しようとする優しさが宿っている事をセシリアは分かっていた。
ああ、変な事を言ってしまった。どうか聞かなかったことにして欲しい。
「……ふふ、洒落たことを言ってしまいました。
なんだか肌寒くなってきましたし、もう皆の所へ戻りましょうか」
彼の温かさに漏れた本音に蓋をするように、息苦しい鳥籠へとまた戻りたくなった。
「セシリア様…」
彼に背を向け、何の返事も待たずにセシリアが歩き出そうとしたその瞬間、舞踏会の明かりが漏れ出す中で、誰かがこちらに近づいてくるのが目に入った。
暗い夜を照らすような艶やかな純白の髪。
淡く儚げな桃色の瞳。
日焼けを知らない滑らかな肌。
その姿は一瞬にしてセシリアの心を闇へと突き落とした。
「あっ!セシリア様じゃないですかぁ!
……と、あれっ。こちらの素敵な方は誰?」
アリスの甘ったるい声が、花園の静けさを破る。
彼女の目は彼に対する驚きと好奇心で輝いていた。
「……アリス。」
セシリアは思わずその名を口にした。心の中で渦巻く黒い感情を抑えきれず、彼女の視線を避けるように俯いた
…ああ、貴方はどこまで私を苦しめたいの。
