◯波瑠の部屋 帰宅後の夜
家に帰ってきて夕飯を済まし、お風呂も上がった波瑠。パジャマに着替えてベッドで横になる。
波瑠(はあ〜今日は予想外のことばっかりで疲れた)
一日を思い出して、疲れた表情を浮かべる。
するとスマホが鳴り、電話が来たことを知らせる。月の名前がスマホに表示された。
波瑠「もしもし、月くん?」
月『なんでちょっと怯えてるんだよ。俺が電話かけたら、波瑠は嫌なの?』
電話越しでも月のむっとした表情が浮かび、慌てて否定する波瑠。
月は部屋の小窓から夜空を見上げながら波瑠に電話をかけている。
波瑠「そ、そんなことないよ! それよりどうしたの?」
月『別に何もないよ。波瑠の声が聞きたかっただけ』
甘い月の声に心臓が跳ねる。
波瑠(そんな言い方、ずるいよ)
月『あ、でも今日の歌の感想は聞きたかった。俺が歌ったあと、逃げるように帰ったから聞けなかったし』
波瑠「佐古くんと月くんの空気があまりにもバタバタしてたから、気まずくて。ごめんね」
月『一緒に帰りたかったのに。まあでも、今ちゃんと感想伝えてくれたら許す』
波瑠はもちもちの丸いクッションをぎゅうと、握りしめて膝を立てて座っている。
改めて感想を伝えようとすると緊張してきた。
波瑠「え、えっとね」
月『うん』
返事をしただけなのに、砂糖菓子のように甘い月の声。耳が溶けてしまいそうだと感じる波瑠。
月はスマホを耳に当て、とても優しい顔で笑っている。
波瑠「‥‥すごく上手、でした」
月『なんで敬語?笑 そんなところも可愛いけど』
波瑠「か、可愛いとかいちいち言わなくていいよっ」
月『やだ、俺が伝えたいの。でも、感想それだけ?』
顔を合わせて話していないのに、やっぱり月にはなんでもお見通しな気がする波瑠。
月には敵わないと感じる。
波瑠「あと勘違いかもしれないけど、月くんがボーカルしようと思ったのって、昔私が月くんの歌を褒めたから‥‥?」
息を呑んだ月が黙ってしまう。
波瑠はとんだ勘違いだったのかもしれないと不安になる。
波瑠「ご、ごめん! もしかして全然ちが」
月『波瑠、覚えててくれたんだ』
波瑠が話しているのを遮り、月が話しだす。
月『どうしよう、俺、今すげえ嬉しい』
月の声が少し震えていて、波瑠は思わず聞いてしまう。
波瑠「月くん、もしかして泣いてる‥‥?」
月『な、泣いてない!』
月は熱くなった目頭を擦り、否定する。
月『でも、波瑠はもう覚えてないと思ってたから、本気で嬉しかった』
波瑠「月くんが歌い出した時、その時のことが頭に浮かんだんだ」
波瑠も微笑む。
月『‥‥波瑠、窓の外、見て』
不思議に思ったが、月に言われた通り部屋の小窓から空を見上げる波瑠。
空には美しい形の三日月が浮かんである。
波瑠「わ、綺麗な三日月だね」
月『うん。でも、いつか満月みたいに波瑠が俺のことを100%好きだって思えるよう頑張るから、よそ見しないでね』
あまりにもロマンチックな表現に、波瑠は驚いてスマホを落としそうになる。
波瑠(どこでそんな言葉覚えてくるの‥‥?!)
波瑠は幼い頃、引っ込み思案だった月の成長に驚かされてばかりだ。
月と話すと、いつも心臓が痛い波瑠。
波瑠「も、もう寝なきゃ。月くんも夜更かししちゃダメだよ、おやすみ!」
月『え、なに急にーー』
ぶち、と電話を切り、強制的に月との通話を終了してベッドに戻って布団を被る波瑠。
波瑠(心臓、うるさい。治れ、治れ、治れーー)
波瑠は月の言葉を思い出し、胸が締め付けられる。
ーー波瑠、覚えててくれたんだ。
波瑠(月くん、本気で驚いてた)
波瑠は自分が思い出を覚えていただけで、喜ぶ月に対して初めての感情を覚える。
波瑠(どうしてこんなに、鼓動が速いんだろう)
波瑠はその夜、なかなか眠れなかった。
◯翌日の学校 授業前の休み時間
本を読んでる波瑠の後ろで三人の目立つ女子たちが集まって話している。
女子生徒A「知ってる? 一年生に神田月くんっていうすごいイケメンが入ってきたの」
女子生徒B「知ってる! その子、軽音部でボーカルするらしいよ」
女子生徒C「なにそれ、激アツじゃん。今のうちから推して古参にならないと」
盛り上がっている中、月に告白されたなどと口が裂けても言えない波瑠。
そっと気配を消して彼女たちになにも悟られないように大人しくしている。
女子生徒B「でもさ、神田くんってどんなに可愛い子に声かけられても基本冷たいらしいよ」
女子生徒A「そうなの? もう彼女いるとか?」
女子生徒C「彼女いたらめっちゃ萎えるんですけど」
女子生徒B「今度あったら聞いてみようよ」
Bの話に二人も賛成している。
本当に月に聞いた時、彼が自分のことをなにも言わないことを願う波瑠。
こうしてクラスメイトに月が噂されていると、どうしても彼が遠くの存在に感じる。
波瑠は窓のほうを見つめ、空を眺める。
波瑠(どうして月くんは、私のことが好きなんだろう)
あまりにも突然で、月には告白された理由を聞けなかった。思い当たるところがなく、波瑠は考えても考えても答えが出ない。
風が吹いて波瑠の髪を揺らす。
気になるけど、月には聞けない。
波瑠(こんな私じゃ、月くんと付き合うなんて無理だよ)
波瑠は暗い表情のまま、授業が始まった。
◯図書室 委員会の当番にて
カウンターの中で座って本を読む波瑠。
遅れて杏介がやってきた。
杏介「逢坂さん来んのはっや〜」
波瑠「いや、佐古くんが遅刻してるだけだよ」
杏介「冗談やん、手厳しいわあ」
普段通りラフに話していると杏介も当番のため、隣に座る。
杏介「それ好きな作家さんの新作? おもろい?」
波瑠「うん、今回もまた感動する話しでさ、すごく面白いよ」
杏介「ふうん‥‥全然話しちゃうけどさあ、逢坂さんと神田くんって付き合ってんの?」(小声)
耳元で杏介に聞かれる。
ばたん、と音がして持ってた本を机の上に落としてしまう波瑠。
杏介「ちょお待って、図星なん?」
質問してきたのに、驚いている杏介。
波瑠は顔を大きく横に振り、否定する。
波瑠「つ、つつ、付き合ってない‥!」(小声)
杏介「なんなんその反応。自分今、めちゃくちゃ黒寄りのグレーやで」
本当に付き合っていないので否定するしかない波瑠。
波瑠「私と月くんはただの幼馴染だよ」(小声)
杏介「゛ただの゛ねえ‥‥ま、そんなに否定するんやったらええけど」
再度杏介が波瑠の耳元で囁く。
杏介「あんま、あの子のこと近寄らせんといてな」
がたん、と音を立てて椅子から立ち上がる。
数人生徒がおり、視線が刺さるので大人しく椅子に座り直す。
波瑠(ど、どういうこと‥‥? 今の)
ちらりと杏介を見ると、満足そうに笑っている。
波瑠(ああもう、心臓治れ‥っ)
波瑠は月だけでなく、杏介にも振り回されている。
家に帰ってきて夕飯を済まし、お風呂も上がった波瑠。パジャマに着替えてベッドで横になる。
波瑠(はあ〜今日は予想外のことばっかりで疲れた)
一日を思い出して、疲れた表情を浮かべる。
するとスマホが鳴り、電話が来たことを知らせる。月の名前がスマホに表示された。
波瑠「もしもし、月くん?」
月『なんでちょっと怯えてるんだよ。俺が電話かけたら、波瑠は嫌なの?』
電話越しでも月のむっとした表情が浮かび、慌てて否定する波瑠。
月は部屋の小窓から夜空を見上げながら波瑠に電話をかけている。
波瑠「そ、そんなことないよ! それよりどうしたの?」
月『別に何もないよ。波瑠の声が聞きたかっただけ』
甘い月の声に心臓が跳ねる。
波瑠(そんな言い方、ずるいよ)
月『あ、でも今日の歌の感想は聞きたかった。俺が歌ったあと、逃げるように帰ったから聞けなかったし』
波瑠「佐古くんと月くんの空気があまりにもバタバタしてたから、気まずくて。ごめんね」
月『一緒に帰りたかったのに。まあでも、今ちゃんと感想伝えてくれたら許す』
波瑠はもちもちの丸いクッションをぎゅうと、握りしめて膝を立てて座っている。
改めて感想を伝えようとすると緊張してきた。
波瑠「え、えっとね」
月『うん』
返事をしただけなのに、砂糖菓子のように甘い月の声。耳が溶けてしまいそうだと感じる波瑠。
月はスマホを耳に当て、とても優しい顔で笑っている。
波瑠「‥‥すごく上手、でした」
月『なんで敬語?笑 そんなところも可愛いけど』
波瑠「か、可愛いとかいちいち言わなくていいよっ」
月『やだ、俺が伝えたいの。でも、感想それだけ?』
顔を合わせて話していないのに、やっぱり月にはなんでもお見通しな気がする波瑠。
月には敵わないと感じる。
波瑠「あと勘違いかもしれないけど、月くんがボーカルしようと思ったのって、昔私が月くんの歌を褒めたから‥‥?」
息を呑んだ月が黙ってしまう。
波瑠はとんだ勘違いだったのかもしれないと不安になる。
波瑠「ご、ごめん! もしかして全然ちが」
月『波瑠、覚えててくれたんだ』
波瑠が話しているのを遮り、月が話しだす。
月『どうしよう、俺、今すげえ嬉しい』
月の声が少し震えていて、波瑠は思わず聞いてしまう。
波瑠「月くん、もしかして泣いてる‥‥?」
月『な、泣いてない!』
月は熱くなった目頭を擦り、否定する。
月『でも、波瑠はもう覚えてないと思ってたから、本気で嬉しかった』
波瑠「月くんが歌い出した時、その時のことが頭に浮かんだんだ」
波瑠も微笑む。
月『‥‥波瑠、窓の外、見て』
不思議に思ったが、月に言われた通り部屋の小窓から空を見上げる波瑠。
空には美しい形の三日月が浮かんである。
波瑠「わ、綺麗な三日月だね」
月『うん。でも、いつか満月みたいに波瑠が俺のことを100%好きだって思えるよう頑張るから、よそ見しないでね』
あまりにもロマンチックな表現に、波瑠は驚いてスマホを落としそうになる。
波瑠(どこでそんな言葉覚えてくるの‥‥?!)
波瑠は幼い頃、引っ込み思案だった月の成長に驚かされてばかりだ。
月と話すと、いつも心臓が痛い波瑠。
波瑠「も、もう寝なきゃ。月くんも夜更かししちゃダメだよ、おやすみ!」
月『え、なに急にーー』
ぶち、と電話を切り、強制的に月との通話を終了してベッドに戻って布団を被る波瑠。
波瑠(心臓、うるさい。治れ、治れ、治れーー)
波瑠は月の言葉を思い出し、胸が締め付けられる。
ーー波瑠、覚えててくれたんだ。
波瑠(月くん、本気で驚いてた)
波瑠は自分が思い出を覚えていただけで、喜ぶ月に対して初めての感情を覚える。
波瑠(どうしてこんなに、鼓動が速いんだろう)
波瑠はその夜、なかなか眠れなかった。
◯翌日の学校 授業前の休み時間
本を読んでる波瑠の後ろで三人の目立つ女子たちが集まって話している。
女子生徒A「知ってる? 一年生に神田月くんっていうすごいイケメンが入ってきたの」
女子生徒B「知ってる! その子、軽音部でボーカルするらしいよ」
女子生徒C「なにそれ、激アツじゃん。今のうちから推して古参にならないと」
盛り上がっている中、月に告白されたなどと口が裂けても言えない波瑠。
そっと気配を消して彼女たちになにも悟られないように大人しくしている。
女子生徒B「でもさ、神田くんってどんなに可愛い子に声かけられても基本冷たいらしいよ」
女子生徒A「そうなの? もう彼女いるとか?」
女子生徒C「彼女いたらめっちゃ萎えるんですけど」
女子生徒B「今度あったら聞いてみようよ」
Bの話に二人も賛成している。
本当に月に聞いた時、彼が自分のことをなにも言わないことを願う波瑠。
こうしてクラスメイトに月が噂されていると、どうしても彼が遠くの存在に感じる。
波瑠は窓のほうを見つめ、空を眺める。
波瑠(どうして月くんは、私のことが好きなんだろう)
あまりにも突然で、月には告白された理由を聞けなかった。思い当たるところがなく、波瑠は考えても考えても答えが出ない。
風が吹いて波瑠の髪を揺らす。
気になるけど、月には聞けない。
波瑠(こんな私じゃ、月くんと付き合うなんて無理だよ)
波瑠は暗い表情のまま、授業が始まった。
◯図書室 委員会の当番にて
カウンターの中で座って本を読む波瑠。
遅れて杏介がやってきた。
杏介「逢坂さん来んのはっや〜」
波瑠「いや、佐古くんが遅刻してるだけだよ」
杏介「冗談やん、手厳しいわあ」
普段通りラフに話していると杏介も当番のため、隣に座る。
杏介「それ好きな作家さんの新作? おもろい?」
波瑠「うん、今回もまた感動する話しでさ、すごく面白いよ」
杏介「ふうん‥‥全然話しちゃうけどさあ、逢坂さんと神田くんって付き合ってんの?」(小声)
耳元で杏介に聞かれる。
ばたん、と音がして持ってた本を机の上に落としてしまう波瑠。
杏介「ちょお待って、図星なん?」
質問してきたのに、驚いている杏介。
波瑠は顔を大きく横に振り、否定する。
波瑠「つ、つつ、付き合ってない‥!」(小声)
杏介「なんなんその反応。自分今、めちゃくちゃ黒寄りのグレーやで」
本当に付き合っていないので否定するしかない波瑠。
波瑠「私と月くんはただの幼馴染だよ」(小声)
杏介「゛ただの゛ねえ‥‥ま、そんなに否定するんやったらええけど」
再度杏介が波瑠の耳元で囁く。
杏介「あんま、あの子のこと近寄らせんといてな」
がたん、と音を立てて椅子から立ち上がる。
数人生徒がおり、視線が刺さるので大人しく椅子に座り直す。
波瑠(ど、どういうこと‥‥? 今の)
ちらりと杏介を見ると、満足そうに笑っている。
波瑠(ああもう、心臓治れ‥っ)
波瑠は月だけでなく、杏介にも振り回されている。
