◯図書室へ向かう廊下
午後の授業で見事図書委員になれた波瑠。
さっそく放課後に委員会があるため、図書室へ向かう。
◯図書室
扉を開けると先に杏介が来ていた。
その他にもちらほら他の生徒がいる。
杏介「お、やっぱりなれたんや」
波瑠「そもそも委員会に入りたい人、少ないしね」
杏介「まあそれもそうやな」
話していると図書室の先生に集められ、利用方法の説明をされる。
すぐに説明は終わり、解散となる。
波瑠が帰ろうとすると図書室を出た廊下で杏介に話しかけられた。
杏介「もう帰るん?」
波瑠「うん、今日は当番じゃないから」
杏介「時間あるなら、一曲演奏してもあげてもええで。俺歌うし」
波瑠「そんな、私なんかのーー」
は、と今朝の月との会話を思い出し、思わず口を塞ぐ波瑠。
波瑠(そうだ、私なんかはやめるんだった)
不思議そうに見つめてくる杏介。
波瑠「えっと、佐古くんの時間が勿体無いよ」
杏介「はあ? そんな理由やったら遠慮せんでええよ。よしゃ、いこか」
波瑠「えっ‥?!?!」
◯第二音楽室(軽音部の活動場所)
杏介は波瑠の手を引いて軽音部が活動している第二音楽室へ向かう。
すると、やけに人混みができていた。
杏介「なんやあの人混み」
波瑠(女の子が沢山いる‥‥。きっと佐古くんのファンの子とかもいるよね、こんなところ見られたらなにか言われちゃうかも)
波瑠「こ、混んでるみたいだし、やっぱり私帰ろうかな」
杏介「大丈夫やで。状況によっては追い払う」
にか、と笑う杏介に、波瑠は心の中で『そうじゃない!』と叫ぶ。
杏介が教室の中に入ると、彼とバンドを組んでいるベースの南とドラムの槙が寄ってきた。
南「杏介! 委員会から帰ってくんのおせえよ!」
槙「もう俺らじゃお手上げだ。どうにかしてくれ」
杏介「なんやねん、まずは状況説明せえや」
人混みの中心には、月がいる。
波瑠はさっと扉の後ろに隠れる。
波瑠(なんでここに月くんが‥‥?!)
月「あ、部長の佐古先輩ですか。俺、今日から軽音部に入部したいんですけど」
月はぶっきらぼうに入部届けを杏介に提出する。
急に差し出され、驚く杏介。
杏介「えらい急やなあ。一応聞くけどなにやりたいん」
月「ボーカルです。ギターも弾けますけど、やるとしてもギターボーカルじゃないと嫌です」
初対面のはずなのに、二人の間には不穏な空気が漂う。
波瑠は、ハラハラしながら二人の様子を見守る。
杏介「なーんか生意気やなあ、君。ボーカルやりたいんやったら、今、一曲歌ってもろてもええかな?」
周りでは、きゃあきゃあと黄色い歓声が上がる。
月は仕方ないなという表情を浮かべた。
だが、その前に杏介が条件を出す。
杏介「ただし、このギャラリーを追い払った後で、な。集中できひんねん、こんなに人がおると」
波瑠と話す時とは違う、ピリピリとした雰囲気だ。彼の知らない一面を知り、本気でここにいるのは場違いだと感じる波瑠。
ギャラリーの女の子たちも、追い払うという言葉が引っ掛かりざわつく。
月は小さく溜息をついてから、口を開いた。
月「観にきてくれたみんな、ごめんね。俺がボーカルになるために、今日は解散してほしいんだーー必ず受かるって、約束する」
杏介の真剣な表情に女子生徒たちは圧倒され、ぞろぞろと消えてゆく。
その波に乗って消えようとすると、杏介に腕を引かれた。
杏介「ちょお待てい。逢坂さんまでなに帰ろうとしてんねん。君はこっちな」
波瑠(佐古くん、やめて! 悪目立ちしてるから‥‥! このまま大人しく帰らせて‥‥!)
波瑠は表情で訴えるが、杏介は彼女の気持ちを理解していながらあえて無視する。
数人の女子生徒たちに『あの人誰?』とひそひそ噂されている声が聞こえ、胸が痛んだ。
加えて月がその場にいるのも気まずい波瑠。
月「え、波瑠‥‥?」
南「あれ、神田くんと逢坂さんって知り合いなの?」
南に悪気なく質問され、波瑠は仕方なく首を縦に振る。
槙「へえ、偶然だな」
杏介「知り合いなんやったら、先に言ってくれたらよかったのに」
波瑠「えっと、言うタイミングが無くて‥‥あはは」
槙や南に囲まれる波瑠。
ちらりと月のほうを見ると、なぜか顔を赤らめている。
月「波瑠、もしかしてずっと見てた?」
波瑠「う、うん。たまたま、見ちゃった」
月「まじか‥‥」
月はその場にしゃがみ込み、顔を両手で覆う。
南や杏介はにやにやしているが、波瑠は不思議そうに見つめる。
月「いくら女子たちに帰ってもらうためとはいえ、あんなクセーこと言ってんの見られるなんて恥ずかしすぎて死ねるわ」
波瑠(月くんに恥ずかしいとかっていう感情あったんだ?! 私に告白してきた時も実は内心すごく恥ずかしかったのかな‥?)
波瑠は月のそばでしゃがむ。
波瑠「月くんの歌、久しぶりに聴きたいな」
月「波瑠‥‥」
ふんわりと波瑠が微笑むと、月が顔を上げた。
杏介「久しぶりにって、なに?」
杏介も二人の隣にしゃがみ、会話に混ざってくる。
月「今波瑠がすげえいいこと言ってくれたのに、台無しにしないでくださいよ」
杏介「しゃーないやん、気になってしもたんやもん。二人ってどんな関係なん?」
月「幼馴染です、一応」
正真正銘の幼馴染なのに、なぜか一応をつける月。
波瑠(ん? なんで一応?)
月「‥‥まあこれから恋人になるけど」ぼそっ
波瑠は月の独り言を聞かなかったふりをする。
杏介「へえ、幼馴染ねえ。せやから一年なのに逢坂さんのこと名前で呼んでるうえにタメ口なんや〜」
月「なにが言いたいんすか、さっきから」
またなぜか不穏な空気になる二人。
南が仲裁する。
南「あー、はいはい。そこの小競り合いは一旦神田くんが歌ってからにして。簡単なものなら即興で弾けるけど、歌う曲もう決まってる?」
杏介「は? だれがギター弾くねん」
南「杏介に決まってんじゃん。俺と槙弾けねえんだから仕方ないだろ」
杏介「はああ? まあ、しゃーなしやで。で、なに歌うん」
じっと二年生三人に見つめられた月がすっと立ち上がる。
波瑠も月から離れ、南たちの横に立つ。
月「俺は『×××』を歌います」
波瑠(その歌ってーー)
月が指定したのは、幼い頃二人でよく聴いていた曲名だった。
杏介「なんや懐かしいなあ、その歌」
月「ギターお願いします」
杏介「はいはい。ほんじゃいくで〜」
ちらりと波瑠を見てから、月は真っ直ぐ前を向いた。
すでに杏介はイントロを弾き始めており、Aメロに差し掛かると月が歌い出す。
懐かしいメロディと、透き通るような月の歌声に昔の記憶が頭に浮かぶ波留。
◯回想 幼い頃の波瑠の部屋
波瑠「月くんは歌うのがすごく上手だから、歌手になれるよ!」
月「でも、みんなの前で歌うの緊張しちゃうし‥‥」
波瑠は勢いよく話すが、月はもじもじしている。
波瑠「大丈夫、だって私がついてるもん」
波瑠が笑うと、つられて月も笑う。
月「波瑠ちゃんがいてくれたら、大丈夫な気がする」
【回想終了】
◯第二音楽室
波瑠(月くんがボーカルをやりたいのは私の一言があったからーー?)
月が歌い終わると、南と槙は拍手する。
南「なんだよ、すげえ上手いじゃん!」
槙「驚いた、これは即合格だな。そうだろ、杏介」
杏介は悔しそうな表情を浮かべるが、月に手を差し伸べる。
杏介「悔しいけど、合格や!」
月「‥‥ありがとう、ございます」
驚いたまま、恐る恐る手を差し伸べた月の手を杏介が握る。
杏介「神田、お前はお前のバンドを組め。一年の中からでも他学年からでもなんでもええ。お前と組みたいやつは沢山出てくると思うから、とにかく自分のバンドを作れーーそして、夏に行われるフェスに参加しろ」
南と槙も驚いた顔で杏介を見る。
波瑠(夏のフェスって‥‥!)
市で行われる毎年恒例の夏フェスはコンテスト形式で、上位に選ばれた高校生バンドが市民の前で演奏できる有名な催しだ。
世間に疎い波瑠も知っているくらい大きなイベントに月が誘われて、はらはらする波瑠。
南「いやいや、急に無理だろ!」
槙「そうだ、お前はいつも突拍子もないことを言い出すが、悪い癖だぞ」
月「分かりました、出ます」
月は凛とした表情で言い放つ。
杏介「おう、そんで俺らのバンドと勝負や。負けへんで」
月「望むところです」
波瑠(なんだかとんでもないことになっちゃってる‥!)
月「波瑠、大丈夫だよ。心配しなくても俺が一番いい歌を波瑠に届けるから」
杏介「大きな口はせめてメンバー集めてからにしいや、一年坊主」
二人の間で火花が散っている。
午後の授業で見事図書委員になれた波瑠。
さっそく放課後に委員会があるため、図書室へ向かう。
◯図書室
扉を開けると先に杏介が来ていた。
その他にもちらほら他の生徒がいる。
杏介「お、やっぱりなれたんや」
波瑠「そもそも委員会に入りたい人、少ないしね」
杏介「まあそれもそうやな」
話していると図書室の先生に集められ、利用方法の説明をされる。
すぐに説明は終わり、解散となる。
波瑠が帰ろうとすると図書室を出た廊下で杏介に話しかけられた。
杏介「もう帰るん?」
波瑠「うん、今日は当番じゃないから」
杏介「時間あるなら、一曲演奏してもあげてもええで。俺歌うし」
波瑠「そんな、私なんかのーー」
は、と今朝の月との会話を思い出し、思わず口を塞ぐ波瑠。
波瑠(そうだ、私なんかはやめるんだった)
不思議そうに見つめてくる杏介。
波瑠「えっと、佐古くんの時間が勿体無いよ」
杏介「はあ? そんな理由やったら遠慮せんでええよ。よしゃ、いこか」
波瑠「えっ‥?!?!」
◯第二音楽室(軽音部の活動場所)
杏介は波瑠の手を引いて軽音部が活動している第二音楽室へ向かう。
すると、やけに人混みができていた。
杏介「なんやあの人混み」
波瑠(女の子が沢山いる‥‥。きっと佐古くんのファンの子とかもいるよね、こんなところ見られたらなにか言われちゃうかも)
波瑠「こ、混んでるみたいだし、やっぱり私帰ろうかな」
杏介「大丈夫やで。状況によっては追い払う」
にか、と笑う杏介に、波瑠は心の中で『そうじゃない!』と叫ぶ。
杏介が教室の中に入ると、彼とバンドを組んでいるベースの南とドラムの槙が寄ってきた。
南「杏介! 委員会から帰ってくんのおせえよ!」
槙「もう俺らじゃお手上げだ。どうにかしてくれ」
杏介「なんやねん、まずは状況説明せえや」
人混みの中心には、月がいる。
波瑠はさっと扉の後ろに隠れる。
波瑠(なんでここに月くんが‥‥?!)
月「あ、部長の佐古先輩ですか。俺、今日から軽音部に入部したいんですけど」
月はぶっきらぼうに入部届けを杏介に提出する。
急に差し出され、驚く杏介。
杏介「えらい急やなあ。一応聞くけどなにやりたいん」
月「ボーカルです。ギターも弾けますけど、やるとしてもギターボーカルじゃないと嫌です」
初対面のはずなのに、二人の間には不穏な空気が漂う。
波瑠は、ハラハラしながら二人の様子を見守る。
杏介「なーんか生意気やなあ、君。ボーカルやりたいんやったら、今、一曲歌ってもろてもええかな?」
周りでは、きゃあきゃあと黄色い歓声が上がる。
月は仕方ないなという表情を浮かべた。
だが、その前に杏介が条件を出す。
杏介「ただし、このギャラリーを追い払った後で、な。集中できひんねん、こんなに人がおると」
波瑠と話す時とは違う、ピリピリとした雰囲気だ。彼の知らない一面を知り、本気でここにいるのは場違いだと感じる波瑠。
ギャラリーの女の子たちも、追い払うという言葉が引っ掛かりざわつく。
月は小さく溜息をついてから、口を開いた。
月「観にきてくれたみんな、ごめんね。俺がボーカルになるために、今日は解散してほしいんだーー必ず受かるって、約束する」
杏介の真剣な表情に女子生徒たちは圧倒され、ぞろぞろと消えてゆく。
その波に乗って消えようとすると、杏介に腕を引かれた。
杏介「ちょお待てい。逢坂さんまでなに帰ろうとしてんねん。君はこっちな」
波瑠(佐古くん、やめて! 悪目立ちしてるから‥‥! このまま大人しく帰らせて‥‥!)
波瑠は表情で訴えるが、杏介は彼女の気持ちを理解していながらあえて無視する。
数人の女子生徒たちに『あの人誰?』とひそひそ噂されている声が聞こえ、胸が痛んだ。
加えて月がその場にいるのも気まずい波瑠。
月「え、波瑠‥‥?」
南「あれ、神田くんと逢坂さんって知り合いなの?」
南に悪気なく質問され、波瑠は仕方なく首を縦に振る。
槙「へえ、偶然だな」
杏介「知り合いなんやったら、先に言ってくれたらよかったのに」
波瑠「えっと、言うタイミングが無くて‥‥あはは」
槙や南に囲まれる波瑠。
ちらりと月のほうを見ると、なぜか顔を赤らめている。
月「波瑠、もしかしてずっと見てた?」
波瑠「う、うん。たまたま、見ちゃった」
月「まじか‥‥」
月はその場にしゃがみ込み、顔を両手で覆う。
南や杏介はにやにやしているが、波瑠は不思議そうに見つめる。
月「いくら女子たちに帰ってもらうためとはいえ、あんなクセーこと言ってんの見られるなんて恥ずかしすぎて死ねるわ」
波瑠(月くんに恥ずかしいとかっていう感情あったんだ?! 私に告白してきた時も実は内心すごく恥ずかしかったのかな‥?)
波瑠は月のそばでしゃがむ。
波瑠「月くんの歌、久しぶりに聴きたいな」
月「波瑠‥‥」
ふんわりと波瑠が微笑むと、月が顔を上げた。
杏介「久しぶりにって、なに?」
杏介も二人の隣にしゃがみ、会話に混ざってくる。
月「今波瑠がすげえいいこと言ってくれたのに、台無しにしないでくださいよ」
杏介「しゃーないやん、気になってしもたんやもん。二人ってどんな関係なん?」
月「幼馴染です、一応」
正真正銘の幼馴染なのに、なぜか一応をつける月。
波瑠(ん? なんで一応?)
月「‥‥まあこれから恋人になるけど」ぼそっ
波瑠は月の独り言を聞かなかったふりをする。
杏介「へえ、幼馴染ねえ。せやから一年なのに逢坂さんのこと名前で呼んでるうえにタメ口なんや〜」
月「なにが言いたいんすか、さっきから」
またなぜか不穏な空気になる二人。
南が仲裁する。
南「あー、はいはい。そこの小競り合いは一旦神田くんが歌ってからにして。簡単なものなら即興で弾けるけど、歌う曲もう決まってる?」
杏介「は? だれがギター弾くねん」
南「杏介に決まってんじゃん。俺と槙弾けねえんだから仕方ないだろ」
杏介「はああ? まあ、しゃーなしやで。で、なに歌うん」
じっと二年生三人に見つめられた月がすっと立ち上がる。
波瑠も月から離れ、南たちの横に立つ。
月「俺は『×××』を歌います」
波瑠(その歌ってーー)
月が指定したのは、幼い頃二人でよく聴いていた曲名だった。
杏介「なんや懐かしいなあ、その歌」
月「ギターお願いします」
杏介「はいはい。ほんじゃいくで〜」
ちらりと波瑠を見てから、月は真っ直ぐ前を向いた。
すでに杏介はイントロを弾き始めており、Aメロに差し掛かると月が歌い出す。
懐かしいメロディと、透き通るような月の歌声に昔の記憶が頭に浮かぶ波留。
◯回想 幼い頃の波瑠の部屋
波瑠「月くんは歌うのがすごく上手だから、歌手になれるよ!」
月「でも、みんなの前で歌うの緊張しちゃうし‥‥」
波瑠は勢いよく話すが、月はもじもじしている。
波瑠「大丈夫、だって私がついてるもん」
波瑠が笑うと、つられて月も笑う。
月「波瑠ちゃんがいてくれたら、大丈夫な気がする」
【回想終了】
◯第二音楽室
波瑠(月くんがボーカルをやりたいのは私の一言があったからーー?)
月が歌い終わると、南と槙は拍手する。
南「なんだよ、すげえ上手いじゃん!」
槙「驚いた、これは即合格だな。そうだろ、杏介」
杏介は悔しそうな表情を浮かべるが、月に手を差し伸べる。
杏介「悔しいけど、合格や!」
月「‥‥ありがとう、ございます」
驚いたまま、恐る恐る手を差し伸べた月の手を杏介が握る。
杏介「神田、お前はお前のバンドを組め。一年の中からでも他学年からでもなんでもええ。お前と組みたいやつは沢山出てくると思うから、とにかく自分のバンドを作れーーそして、夏に行われるフェスに参加しろ」
南と槙も驚いた顔で杏介を見る。
波瑠(夏のフェスって‥‥!)
市で行われる毎年恒例の夏フェスはコンテスト形式で、上位に選ばれた高校生バンドが市民の前で演奏できる有名な催しだ。
世間に疎い波瑠も知っているくらい大きなイベントに月が誘われて、はらはらする波瑠。
南「いやいや、急に無理だろ!」
槙「そうだ、お前はいつも突拍子もないことを言い出すが、悪い癖だぞ」
月「分かりました、出ます」
月は凛とした表情で言い放つ。
杏介「おう、そんで俺らのバンドと勝負や。負けへんで」
月「望むところです」
波瑠(なんだかとんでもないことになっちゃってる‥!)
月「波瑠、大丈夫だよ。心配しなくても俺が一番いい歌を波瑠に届けるから」
杏介「大きな口はせめてメンバー集めてからにしいや、一年坊主」
二人の間で火花が散っている。
